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売れた物が良い物

 筆者は普段、製造業寄りの人と接する機会が多い。
チャラっとしたファッショニスタなんてごくたまにしか接触する機会がない。

ときどき仕事をさせてもらった繊維産地の人々なんて製造業そのものみたいな人たちである。

で、そういう製造業の人たちが「良い物は売れる」という考え方に陥りやすい。
たしかに良い物は売れる可能性がある。でもまったく売れない場合もある。
反対に粗悪品でもそこそこ売れることもある。できれば売れないでいてもらいたいけれど。

これと対極に「売れた物が良い物だ」という考え方がある。

これも一面の真理である。品質の高低はともかくとして結果的に売れたんだから、それが良い物であるという考え方である。

さて、製造業の人たちがさらに陥りやすいのが「良い物は高くても売れる」という考え方である。

これもある部分までは正解だが、「高い」にも限度がある。
たとえばジーンズで2万円前後くらいまでの商品には当てはまると思う。けれども5万円のジーンズはそう簡単には売れない。

2005年ごろにもてはやされた高額インポートジーンズだってそうだ。
今のボリュームゾーンは19800円である。29800円では売れなくなっている。だから「ヤヌーク」はカイタックインターナショナルがライセンス生産することで価格を19800円に下げたのである。

着物だってそうではないか。
いくら柄や刺繍が凝っていて、伝統の技法で作られていたとして、100万円もするならあまり買わないだろう。
だから成人式用の振袖のレンタル利用者が増えているのだろう。

10万円くらいの着物ならそれなりに売れるかもしれない。数万円くらいのカジュアルな着物ならもっと売りやすいだろう。

着物業界から見たら10万円とか数万円なんて安物だろうが、洋装に慣れた消費者からすれば十分に高額品である。もちろん生産背景が異なるので一概に比べることはできないが。

洋装なら10万円のコートは十分に高級品である。

で、この2つの考えにとらわれている限りは、繊維製造業者は市場に広く流通するような商品は生み出せないだろうと思う。
とくに生地メーカーや縫製業者、洗い加工業者が自社開発製品の直販に取り組む際には邪魔になる考え方になるだろう。

本藍を手染めして、力織機で織った最高級のデニム生地で作られたジーンズが10万円ですと言われたところで買う人はごく少数だろう。

これがプラダのジーンズなら話は別だが、産地企業が起こした無名のブランドなんてわざわざ買う人がどれほど存在するのか。

それよりは2万円くらいで販売できるジーンズを開発した方が成功する可能性が高い。
そういう最高級品を作る技術は伝えなくてはならないと思うが、そこに特化したところでビジネスは活性化しない。

だから繊維製造業の人たちは

「売れた物が良い物」
「良い物はそこそこ高くても売れるが、高すぎると売れない」

この2つを常に頭の片隅に置いておくくらいがちょうど良いのではないだろうか。

「物」以外のアピールが必要では?

 合同展示会を取材しに行くことがある。
数社程度の合同展示会なら、各ブランドの個性がはっきりと見える。
ところが20社~50社未満の中型合同展示会だと、往々にしてどのブランドも同じように見えてしまって、区別ができないということがある。

ここが主催者の悩ましいところで、商談の成果を挙げるためには、来場者を絞り込む必要がある。
例えばフェミニンテイストを扱う中型専門店とか、セクシー系を集めたチェーン店とか、いうふうに。
そうすると必然的に出展社も同じようなテイストを集めることになる。
それがもっとも商談会としては効果があると予測されるからだ。

セクシー系のチェーン店を来場者として誘致しているのに、半分以上がナチュラル系カジュアルとコテコテのストリートカジュアルだったら、来場者の満足度は低いだろう。次回から来場しないかもしれない。

そういう状況になるのはいたしかたないことを前提として話を進める。

専門店でもブランド直営ショップでも何らかのテイストで統一されている。
フェミニンだったりセクシーだったりナチュラルカジュアルだったりというふうに。

そして、それらの店に卸売りしたいメーカーブランド側もその店に応じたテイストで統一されている。
当たり前のことである。

Aという専門店が仕入れ対象とするメーカーブランドは何百、何千と業界には存在する。
で、Aに相応しいテイストのブランドを集積したのが合同展示会の一つの側面でもある。

例えば、50ブランド集積したとしてA店は似たような見え方をしている50ブランドすべてを仕入れることはできない。
資金的にも無理だろうし、膨大な商品をストックしておく場所もない。

仮に10ブランド選ぶとして選ぶ際の基準はなんだろうか。

ブランド名が有名かどうかということがある。
しかし、全ブランドがそろって有名になることはないから、有名でなくても選ばれるブランドが中にはあるということになる。

アパレル業界の方からは反対意見があるだろうが、同テイストのブランド群から抜け出すためには、「ファッション」とか「テイスト」とか「ディティール」以外の打ち出しや見せ方が必要なのではないか。

どのブランドだってある程度、ファッション的にカッコよく見せようと努力している。
どの商品のデザインだってそれなりにカッコいい。

となると、邪道かもしれないが、ファッション要素以外の見せ方や打ち出し方で耳目を集める方が効果的ではないのかと部外者たる筆者は感じる。

例えばそれは社会貢献活動かもしれない。
またユニクロの柳井正会長のようにドラスティックな発言をマスコミに流すことかもしれない。
短パン社長のように自社の製品のことはさておき、自身のキャラクターを強烈にアピールすることかもしれない。
もしかしたら、展示会でのおもしろアトラクションかもしれない。

一つのファッションカテゴリーに同業他社は何千とあり、ひしめきあっており、それぞれがそれなりにトレンドに応じた洋服を提案しているのだから、「物」としてはほぼ同一線上に並んでいると言っても言い過ぎではない。(機能性が求められるスポーツとか肌着とかユニフォームは別として)

となると、「物」以外でのアピールが必要ではないか。

17年間合同展示会を見てきて、とくに最近強くそう思うようになった。

再建策も前途多難ではないか

 不振続きだったJR大阪三越伊勢丹の縮小が決まった。
2013年3月度の売上高が303億円だったが、そこから客入りが改善されたとは耳にしたことがないので、2014年3月度の売上高はおそらく300億円を下回るだろう。

売り場面積5万平方メートル中、6割以上にあたる3万3000平方メートルを専門店街にする構想だという。

さて、この新専門店街も実現はなかなか難しいと感じてしまう。
なぜなら、出店によって売り場を活性化できるようなめぼしいブランド、ショップがあまり残っていないからだ。

セレクトショップでいうと、アーバンリサーチ、ビームス、ユナイテッドアローズ、トゥモローランド、エディフィス、ナノユニバース、ジャーナルスタンダード、アメリカンラグシーあたりだろう。
しかし、これらの有力セレクトショップはルクアかグランフロント大阪、もしくはその両方に出店してしまっている。
今更、ルクアの隣でグランフロント大阪の対面に位置するJR大阪三越伊勢丹ビルにも出店はできないし、する意味もない。

じゃあ、郊外型ショッピングセンターのような低価格SPA・低価格専門店を集められるかというとそれも厳しい。
対面のヨドバシカメラ梅田店にショッピングセンター向けの低価格SPAブランドが集積している。
ユニクロも大丸梅田店とヨドバシカメラ梅田店にある。無印良品はグランフロント大阪とルクアにある。

スーツカンパニーとライトオンとグローバルワークはヨドバシカメラ梅田店にある。

こう考えるとどのようなラインナップで3万3000平方メートルを埋めるのか甚だ疑問を感じる。

ルシェルブルーはルクアにあるし、近隣に複数店を出店運営するほどの企業体力はないだろう。
神戸の乱痴気という手もあるが、数年前と比べると勢いは明らかに鈍化しているし、知名度もそこまで高くないので目玉テナントということにはならないだろう。

まあ、「ドミナント戦略だよ!」と開き直ってしまえばこれらのテナントを集積することは不可能ではないだろうが、魅力ある売り場になるかというとどうにも違うと感じる。

ルクアと新専門店街を合わせた初年度売上目標は800億円だと発表されているが、ルクアと現在のJR大阪三越伊勢丹を合わせた売上高は670億円内外しかない。あと120億円強上積みすることが求められているのだが、これはちょっと実現不可能な数字ではないかと思える。

有力テナント候補が多数あれば実現に近づくことはできるだろうが、テナント候補リストを作ることすら難しいのが現状である。そこでさらに120億円の上積みはかなり難しいのではないか。

詳細はこれから詰めることになるのだろうが、再建策もなかなか前途多難ではないかというのが正直な感想である。

決め手に欠けるが・・・・

 店頭では冬物のセール品がまだまだ残りながらも春物が立ち上がり始めている。

2014年春夏はブルージーンズに再注目という声が以前から聞こえていたが、店頭の一番目立つマネキンボディにはブルージーンズを着用させているブランドをチラホラと見かける。
マウジーはブルージーンズとGジャン、GAPもメンズ、レディースともにブルージーンズ着用。

これは本当にブルージーンズが復活するかもしれないなと感じる一方で、ジーンズに新しいシルエットや新しい加工方法は登場しておらず、今一つ目新しさはない。
掛け声倒れになる危険性がなきにしもあらずだ。

先日、某カジュアル系ブランドの社長と少しだけ雑談をしたところ、「ブルージーンズ復活という噂は耳にするが、どうも決め手というか確証が乏しいような気がする」と懸念の意見が返ってきた。
たしかにこれというデザインやディティールは浮上していないから、この社長の懸念はよく理解できる。

また先日、別のジーンズブランドの今盛夏展にお邪魔した。
咋年春夏に引き続いてカラーパンツや麻混パンツ、ショートパンツが中心だったが、レディースで久しぶりにブルージーンズを1型だけ提案していた。

理由を尋ねたところ、セレクトショップやSPAブランドからの声を反映したとのこと。

展示会なので各店の仕入れ担当者も来場している。
商談の声は筆者の耳にも自然と飛びこんでくる。

どこの店だかわからないが、一人のバイヤーがレディースのブルージーンズを見て「なんで今更?」という評価を下しているのが耳に入った。
おそらくジーンズ専門店かそれに近い業態のバイヤーだと風体から察する。

その評価を聞いていると何だかおもしろいなと感じてしまう。

本来、ブルージーンズをメインに扱うジーンズ専門店のバイヤーがブルージーンズを「今更古臭い」と評価を下し、カラーパンツや麻混スラックスなどに興味を示している。

一方、普段ブルージーンズをほとんど扱わないセレクトショップやSPAブランドが決め手に欠くとはいえ、ブルージーンズに興味を示している。反対に昨年春夏ほどカラーパンツには興味をしめしていない。

両方とも顧客層が違うのでどちらもが正しい対応なのだろう。どちらの顧客層が良いとか悪いとかではない。
しかし、「流行」というものにジーンズ専門店の顧客層はあまり敏感ではないのだろうと推測される。
そういう顧客層に正しく対応するためにジーンズ専門店の対応はワンテンポ遅れることになるのは仕方のないことといえる。

ジーンズ専門店のバイヤーが「やっぱり今はブルージーンズですよね」という時期が到来すれば、ブルージーンズ復活は本物だということになるが、そういう状況がはたして来るのかどうか。
また来たとしてもそれはもう少し先のことになるような気がする。

美術品ではなく工業製品

 若いデザイナーやデザイナー志望の学生さん、専門学校の教員の方々と話していて「アレ?」と思うことがある。
何となく、彼らが洋服を芸術品や美術品のように認識していると感じることがあるからだ。

洋服には大きく分けてオートクチュールとプレタポルテがある。
オートクチュールは手作りによる1点物なので芸術品や美術品に近い側面がある。
「400年前の○○の茶碗」じゃないけれども、同じ物が2つと存在しないという部分は似通っている。

一方、プレタポルテは既製品と訳されるわけだから、ある程度の量産が可能な商品である。
そう、作品というよりは製品、商品である。
どんなに名前の通ったブランドであろうが、どんなに高額な商品だろうが、それは工業製品であり商品である。
例えば、レアなデニム生地で作られたレアなジーンズなる物があったとしよう。
しかし、そのレアなデニム生地とやらも最低でも1反(50メートル)は織られているわけである。
それが広幅のデニム生地だったとして、ジーンズを縫うための用尺は2メートル~2・5メートルなので、1反で20~25本のジーンズが生産されていることになる。

また既製品である限りは、縫製工場のミニマムロットをクリアにしているはずだから、例えば1型あたり100本くらいは最低でも生産されている。
中にはミニマムロットを下回ったが、縫製工場が「ちょっと厳しいですが引き受けます」と言って生産した商品もあるが、それでも40~50本程度は生産されている。

プレタポルテとしてブランドを立ち上げ、デザイナーとして活動をするなら、衣料品は「工業製品である」と認識しないとビジネスとしてはなりたたない。
これは芸術品や美術品とは対極にある量産品の世界である。

で、そういう世界がイヤだったとして、日本でオートクチュールなる世界があるのかというとほとんどない。
まだオーダーメイドの方が需要があるだろう。
しかし、オーダーメイドのデザインはベーシックであり、オートクチュールコレクションに見られるようなシルエットやデザインの独創性などは必要ない。
通常の街中やちょっとした会食にあんなオートクチュールコレクションのような物を着用していけば、仮装大会の出席者と間違えられてしまう。

なるほどオートクチュールの技術伝承は必要であるが、国内の衣料品業界で若者が職を得たいのなら、プレタポルテの仕組みを学ぶことの方が重要になる。デザイン画やパターンの作成を学ぶことが無駄だとは思わないが、経費管理や市場の調査と分析、プロモーション手法、生産背景に対する知識などに比重を置いて学ぶ必要がある。

この辺りを変えることができないと、ファッション専門学校はいつまで経っても洋裁教室の域を大きく超えられないだろう。
しかし、残念ながらファッション専門学校に通う生徒さんの多くは、経費管理とか市場の分析、プロモーションなんてことにあまり興味を持たれていないのが現状である。

今のままなら存在意義がない

 20年前より以前のこの業界のことは知らない。
なぜなら、大学を卒業する手前まで衣料品には興味がなかったからだ。
いつも母親が購入してきたイズミヤだかジャスコだかのノーブランドの1900円くらいの洋服を着ていた。

ズボンが数枚とトップスが数枚、あと防寒用のジャンバー2,3枚。

そんな手持ちの洋服で年間を暮らしていた。
だから20年以上前の衣料品業界や衣料品のトレンドは体感としてはほとんど持っていない。
せいぜい、イズミヤとジャスコの平場くらいしか記憶にない。

と前置きをしておく。

昨今、取材をしていて、一部を除いては「あの個人経営の専門店すごく好調だよ」という評判を耳にしない。
筆者が取材を始めた17年前は、まだ少しはそんな評判を耳にした記憶がある。
その後、名前が挙がっていた専門店は多店舗化したり、大手の子会社化してりして、業態としては一応成功と呼べるまでに育っている。

80年代、90年代前半はもっとそういう事例が多かったと先輩から聞かされることがある。

前置きしたように筆者にはその当時にそういう専門店に通った体験がないから、真偽のほどはわからないが、17年前でもいくらかはそういう評判を耳にしたのだから、バブル期やバブル前夜はそういう風潮だった可能性は大いにあっただろう。

今、新店オープンはほとんどが都心ファッションビル、都心百貨店、郊外型ショッピングセンター、アウトレットモールの4つである。
ここに入店するテナントは、全国チェーン店ばかりでごくまれに地域密着型の有力専門店という構成である。
個人経営の専門店が入店することなどほとんどない。

メーカーやブランドの展示会を巡っていても、商談に来ている個人経営専門店の多くは、景気の悪い話ばかりしている。まあ、同じ会場にいるのだから嫌でも耳に飛び込んでくる。

で、そのたびに思うことは、「漫然と洋服や雑貨を並べるだけの小規模専門店が復活することはありえないだろうな」ということである。

バブル期やバブル前夜なら、人気があると言われているブランドや、季節の新作を並べていれば黙っていても小規模専門店で売れたのだろう。
けれども今では「人気ブランド入荷」とか「新作入荷」「セール開始」なんてことだけをアピールしていても衣料品や雑貨は売れない。
それで売れるなら百貨店の業績は回復しているだろうし、ファッションビルも活性化しているだろう。
そんなことしかアピールできないのであれば、ネット通販の方が便利が良いし、安い商品も探しやすい。

で、品ぞろえの豊富さなんてことはファッションビルや百貨店、ショッピングセンターとは比べ物にならないから、アピールしても無駄である。

となると、小型専門店は何かしらお客が集まるための理由を作ってやる必要がある。

例えば定期的なお茶会だとか、新作の試着会だとか、特定の層に熱狂的なファンがいる人のトークショーだったりとか、そういうイベントが必要になる。

こんなことを言うと、「そんな非効率的なことをしても売上にはすぐにつながらないでしょ」と言う人がいる。
まことにその通りで、すぐに売上高は増えない。効果が出るまでには時間がかかる。
無名の一般人がブログを開始してもすぐには閲覧者が増えないのと同じである。

それでもこの手のイベントをしないとますます大手チェーン店やインターネット通販に顧客は流出してしまう。

逆に大手チェーン店がこういうイベントを店頭で仕掛けている。
滋賀の有力チェーン店のボーンフリーは店舗内でライブを開いている。
期間限定ではあったが、ユナイテッドアローズはトータルコーディネイトで試着した姿を写真撮影しサイトにアップしてくれるという無料サービスを行っていたことがある。

もっともその撮影された写真がコピーされて悪用される可能性があるというデメリットもあったのだが、個人的には面白い企画だったと思う。

大手がこの手の「非効率的」なイベントを打ち出しているのに、物量でも値引き率でも品ぞろえでも劣る小規模専門店が何にもしないのでは、その差は広がるばかりであろう。

試着大会なんていうのも良いのではないか。
ネット通販では試着はできない。
じゃあ、高額ブランドの洋服を実際に着てもらって、素材を触ってもらって低価格SPAブランド商品との違いや、ネットで体験できないことをしてもらうというのは、高額専門店ならではである。

非効率的な作業ばかりでは疲弊してしまうが、小規模専門店は今こそ「非効率的」なことに取り組む必要があるのではないか。そうでなくては生き残れないし存在意義もない。

過去のテストケースを参考にしない不思議

 以前から何度か書いていることの続きだが、高品質・高付加価値なので高価格になる、と言っても限度がある。
筆者が一番長く親しんだ分野がジーンズなのでジーンズを例にとって話を進める。

生地から縫製、洗い加工すべてを国産で行ったとして、日本で広く流通させるための価格は2万円台半ばが上限だろう。
もちろん、愛好家というのはどの分野にも必ずいて、金に糸目をつけない。
しかし、そういう愛好家の人数は少なく、市場としてはそれほど大きくない。

数万円のジーンズ、10万円のジーンズを何本か所有するのはよほどの愛好家であり、いくらファッション好きと言っても多くの一般人はそんな商品を複数本買うことはない。
そういうニッチな市場に対応するブランドがあっても佳いが、その市場で存続できるブランド数は限られたものにならざるを得ないし、1ブランドあたりの売上高も大きく成長することもない。

「俺ら、数人で細く長くやるぜ」というスタンスはありだが、どれだけのブランド数がそのビジネスモデルで生き残れるかである。

で、これはいくら欧米市場といっても構図は同じだろう。

アメリカ西海岸は世界のうちでもっとも高額ジーンズが動く市場だと考えられているが、その相場は200ドルである。ジーンズ業界では「200ドルジーンズ」と総称する。
1ドル=100円前後とすると、200ドルだと2万円内外ということになる。
わかりやすく言ってしまえば、2万円がその市場のボリュームゾーンだといえる。
決して500ドルでもないし、1000ドルでもない。
そういう商品も存在するが、それはごく小さな市場で、少人数の愛好家のための商品である。

200ドルの相場感覚は日米欧ともに共通なのではないかと筆者は感じている。

で、我が国のクールジャパン事業を振り返ると、日本国内価格で2万円以上するような商品を欧米に輸出しようとしているが、これは無茶な話だ。
輸出すれば現地価格は最低でも5万円になる。
これがそれなりの数量で売れるかというと、可能性はゼロではないが極めて小さいと指摘したい。

10数年ほど前になるだろうか、ビンテージジーンズブームの余熱が冷めやらぬ99年前後だったと記憶している。

当時まだオリゾンティが展開していたジーンズブランド「ドゥニーム」がイギリスに輸出したことがある。
当時のレートだとイギリス現地価格は5万円どころではなく、6万~7万円にもなった。
結果は大惨敗である。

一方、エヴィスも同じ時期にヨーロッパに進出した。
エヴィスは輸出ではなく、ヨーロッパ企業にライセンス生産を認めた。
その結果、現地価格は日本と同じ2万円前後に収まった。
エヴィスはヨーロッパで人気となり、イングランドのベッカム選手が着用したことで日本でも再ブームが起きた。

当時のドゥニームも決してクオリティの低いブランドではない。
しかし、5万円を大きく超える価格帯では欧州では売れなかった。

年数は少し過ぎているが、市場の反応は現在でも同じだろう。

10年ほど前に答えが出ていることを、何故今更またやるのかと不思議でならない。
10年前に5万円オーバーのジーンズは大惨敗し、2万円のジーンズはそれなりに売れたという結果が出ている。
再試行してみたところで答えは同じになる。

業界のエライ方々も行政のエライ方々もなぜこの2ブランドの事例に倣おうとしないのか不思議でならない。

ジャパンジーンズを輸出して欧米に根付かせたいのなら、いきなり500ドル市場を創出するという超難関に挑むよりは、間口の広い200ドル市場に参入する方法を考える方が成功する確率が高いと思うのだが。

幸いにして日本製デニムの知名度は欧米でも鳴り響いている。
生地、縫製、洗い加工のすべてが日本製で、たったの200ドルという文言は欧米人の心にも響くと思うがいかがだろうか?

過ぎたるは及ばざるがごとし

 素材のブランド化ということを考えてみると、もちろん、ブランド化出来た方が良いに決まっている。
例えばデニム生地のように「ジャパンデニム」が世界から一目置かれるというのは非常に良い傾向だと、日本人たる筆者は思う。

しかし、胡坐をかいているとトルコの大手デニム生地メーカー、ISKOあたりに気が付くと追い越されてしまっているということも今後ありうる。

規模でいうと日本のデニム生地メーカーはひどく小さい。
以前にも書いたことがあるが、中国やトルコ、パキスタンなどの世界規模でデニム生地を販売している工場には最低でも織機が3000~4000台ある。

ところが日本では最大手のデニム生地メーカーですら織機は500台くらいしかない。
いわゆるグローバル向けに大量生産することは日本のデニム生地メーカーでは物理的に不可能である。

合繊素材を除いて、綿やウールなどの天然繊維を主体とする生地はどこも同じような状況である。

大量生産が出来ないとすると、付加価値を付け、単価を上げることが必要となるため、素材のブランド化は必要なことではある。

しかし、あまり根拠もなく素材のブランド化を進めることはどうなのかな~?という疑問点もある。

3年間お手伝いしていたことがあるから書くわけではないが、高野口産地のフェイクファーは手触りの滑らかさや脱毛のしにくさなどを比較すると、中国製・韓国製よりも圧倒的に優れている。
見た目の風合いも圧倒的に優れている。

それでもブランドとして定着させるには何かが足りない。
産地全体のプロモーションに無頓着な性格もあるかもしれない。それも含めてあと一つ何かが足りないと感じる。

時々参考にする山田耕史さんのブログにこんなエントリーがある。

アニメやブランドだけじゃない。服飾素材のクールジャパン。
http://t-f-n.blogspot.jp/2014/01/blog-post_20.html

このエントリーでは、

この冬、三陽商会が展開する「ザ・スコッチハウス」などの複数のブランドで

京都で育てられた高級あい鴨、「京鴨」を使用したダウンコートがリリースされたのですが、

それが売れ行きが好調との事を

先日のお客様とのミーティングで伺いました。

と触れられている。

本文を読んでもらえればわかるが、下げ札も和風にまとめられており、筆者には鳥肉かハムのラベルのように見えるのだが、まあ、ブランドのアイコンとしてはわかりやすい。

筆者はダウンという素材について専門ではないので、いささか的外れかもしれないが、この京鴨という素材にあまり説得力を感じないのである。
筆者の勉強不足かもしれないが、食肉用としてならいざ知らず、羽毛という素材において京鴨が優れているというのは今まで耳にしたことがないからである。

「ホワイトグースが云々」とか、「ヨーロッパグースが云々」という能書きとウンチクは割合に広く知られている。
しかし、京鴨のウンチクは食肉用以外ではあまり知られていない。

ちょっとごり押しではないのかな?と感じてしまう。

ブランドとして喧伝するには少し根拠に乏しいのではないかというのが正直な感想である。

しかし、このような話題作りへの意気込みは他の産地も見習うべきである。

さて、いささか逆説的だが、素材のブランド化が行きすぎるのも危険だとも考えている。
昨年末一大ニュースとなったホテルや百貨店の食材の産地偽造問題は、行きすぎた素材のブランド化にも原因の一端があったのではないか。

○○産の野菜だから、○○産の魚だから、高額でも売れる、高額でも買いたい。

供給側(ホテル・百貨店)も消費者側も「○○産」というラベルを売買していたに過ぎない側面がある。
身も蓋もない言い方をすると、「○○産のトマト」だからと言って、出荷されたトマトすべてが美味しいとは限らない。けれども味は二の次として「○○産」のラベルに消費者は飛び付いたわけである。

衣料品に関しても素材をブランド化しすぎるとこういう弊害は起きる可能性はある。
一口に日本製デニム生地と言ったって、カイハラとクロキと吉河織物と日本綿布ではそれぞれ異なる生産体制だし、製造している生地も異なる。
他の素材にしても同じである。

そのうちに「日本製○○」と表記してあるけど、物性を比較したら「中国製○○」と変わりませんでした。なんて記事が掲載されるような事態も出てくるかもしれない。

PRの手段としては素材ブランド化は有効なので大いに活用すべきだが、素材ブランドが盲信されるような土壌は形成すべきではないというのが筆者の感想である。

人事を尽くして天命を待つ

 以前に、東京ギフト・ショーの出展社説明会で常に流される動画の中で「天は自ら助くる者を助く」というコーナーがあることを紹介した。

英語のことわざで原文はこうだ。
Heaven helps those who help themselves.

日本語に訳すと「人事を尽くして天命を待つ」となる。

さて、このコーナーの主旨は何かというと、「来場者へのアプローチは主催者任せにせず、自分たちでもやらないと効果がないですよ」ということである。
東京ギフト・ショーに限らず、主催者は来場者集めには常に心を砕いている。
出展社を集めました。でも来場者は集めませんというのでは、展示会やイベント主催者としては失格である。

だから東京ギフト・ショーだって主催者は何十万通という招待状を郵送している。
その費用たるや莫大な額である。1通80円として、10万通でも800万円である。

幸いにも東京ギフト・ショーは毎回、のべ20万人前後の来場者がある。
しかし、20万人の来場者がある展示会場に出展していても閑古鳥の鳴いているブースがいくつもある。
大多数の来場者に素通りされてしまっているのである。

この場合、問題があるのは主催者かその出展社か?
来場者を集めるという主催者の義務は果たしていると筆者は見る。主催者に一切の問題がないとは言わないが、問題点の多くは出展社側に多くあると推測される。

まず、第一に来場してもらいたい取り引き先、現在取り引きはないし面識もないけれども、ぜひとも新たに知り合いたい先に自分たちから招待状を送ったか?
来場者誘致対策を主催者任せにしていないか?

東京ギフト・ショーに限らず合同展示会、合同販売会に出展する際には、主催者だけではなく出展する側も自社の取り引き先への招待状送付は必須である。

「なんで金払って出展する俺らがそんなことせなあかんのん?」

こうノホホンと言ってのけるノー天気な出展社も存在するだろう。
しかし、A社の取り引き先に対して、関係性の薄いイベント主催者がアプローチするよりも、普段から交流していて関係性の深い出展社からアプローチする方が効果的であることは普通に考えればわかるだろう。

物を買う、物事の相談をする、そういう場合、多くの人は関係性の深い先から打診する。

これだけ衣料品のネット通販が盛んになっても、売上が鈍化しない小規模専門店もある。
大手チェーン店でもその店の店長や店員さんが馴染みなので、そこで購入するという人もいる。
それは店長や店員との関係性が深いからである。

見ず知らずのイベント主催者が「来場してください」とお願いするよりも、普段から交流の深い出展社から誘われた方が取り引き先だって腰を上げやすい。

自分たちで来場者誘致対策を打たない出展社は、そのことに気が付いていないか、取り引き先との関係性の薄さを自覚しているか、のどちらかだろう。

展示会、イベントは開催されてしまえば「待ち」の作業である。
しかし、天命を待つ前に、人事を尽くしたのかどうか考えてみる必要があるのではないか。
人事を尽くさずに天命を待っていてもそれは「待ちぼうけ」に終わる。

可能性はゼロではないが

 日本製のデニム生地は欧米ブランドでも高く評価されている。
例えばラルフローレンの「デニム&サプライ」にはコインチャームが付いている品番があるが、それは日本製デニム生地を使用した品番であり、だいたい2万円前後の価格で販売されている。

付いていない品番は中国製かトルコ製か、パキスタン製か、アセアン製かということになる。

生地は評価されているが、製品ブランドは評価されていないというのが日本のジーンズということになる。
評価されていないことはないが、プロモーションが足りなくて知名度が低いという方が適切だろう。

クールジャパンの関連において、国内ブランドのジーンズを輸出しようという機運が盛り上がって(?)いるが、それでも価格の問題は重要である。
取り組みを外野から眺めていると、国内販売価格が2万円で、輸出した場合、現地価格が5万円になるような商品を必死で売り込もうとしているように見える。

まあ、何事もやってみなければわからないから「可能性はゼロではない」のだが、欧米といえども極めて市場は小さいだろう。

アメリカの西海岸は常に高額ジーンズ市場が一定の動きがあると言われているが、それを総称して200ドルジーンズと呼んでいる。
1ドル=100円内外とすると、200ドルジーンズは日本円にして2万円前後ということになる。

いくら高額なジーンズがある程度動くとはいえ、その市場のボリュームゾーンは2万円前後ということになる。
もちろん、アメリカにもヨーロッパにも愛好家は存在するから5万円のジーンズでも7万円のジーンズでも販売量がゼロということにはならない。
ただし、そういう愛好家は極めて少ないから、その層に売れたとしても販売本数は知れているだろうと推測する。

現地価格を2万円前後にするなら、国内販売価格は9000~12000円くらいの商品となる。
その場合、本当にふさわしいのはジーンズナショナルブランド、ナショナルブランドには届かないものの、伝統ある専業メーカーの商品ということになる。

例えばエドウイン、ドミンゴ、ブルーウェイあたりは国内自家工場生産比率が高く、店頭価格10000円くらいの商品を量産できる。
ベティスミスは中国の張家港工場がメインだが、国内工場も小規模残っている。ベティスミスの国内工場製品は店頭価格も安く、某SPAブランドのOEM製品で8000~9800円のGジャンを生産していたこともある。

あとはトータルブランド化したジョンブルだが、ジーンズやカジュアルパンツに関しては自家工場も含めた国内生産を行っており、価格も9800円~となっている。

生産数量が少なく、価格も高額な「こだわり」ジーンズブランドを輸出するよりもこれらの国内専業メーカーの商品を輸出する方が、200ドル前後という価格帯にもはまりやすいし、量産メーカーなので製品の品質も安定しているから欧米でも売れる可能性が高いのではないか。
あとはプロモーション、告知の問題である。
どこぞの自治体がやったようにニューヨークでド派手なセレブパーティーなんぞをやる必要もない。あんなものは金の無駄使いであって、その後、その自治体の知名度がニューヨークで高まったとは耳にしたことがない。

なぜ、「知名度の低い小規模メーカーの高額ブランド」というもっとも高いハードルからチャレンジしようとするのか、筆者には理解できない。

まあ、お偉い方々なので我々下々には思いもよらない勝算がおありなのだろうけども。

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