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南充浩 オフィシャルブログ

過去のテストケースを参考にしない不思議

2014年1月23日 未分類 0

 以前から何度か書いていることの続きだが、高品質・高付加価値なので高価格になる、と言っても限度がある。
筆者が一番長く親しんだ分野がジーンズなのでジーンズを例にとって話を進める。

生地から縫製、洗い加工すべてを国産で行ったとして、日本で広く流通させるための価格は2万円台半ばが上限だろう。
もちろん、愛好家というのはどの分野にも必ずいて、金に糸目をつけない。
しかし、そういう愛好家の人数は少なく、市場としてはそれほど大きくない。

数万円のジーンズ、10万円のジーンズを何本か所有するのはよほどの愛好家であり、いくらファッション好きと言っても多くの一般人はそんな商品を複数本買うことはない。
そういうニッチな市場に対応するブランドがあっても佳いが、その市場で存続できるブランド数は限られたものにならざるを得ないし、1ブランドあたりの売上高も大きく成長することもない。

「俺ら、数人で細く長くやるぜ」というスタンスはありだが、どれだけのブランド数がそのビジネスモデルで生き残れるかである。

で、これはいくら欧米市場といっても構図は同じだろう。

アメリカ西海岸は世界のうちでもっとも高額ジーンズが動く市場だと考えられているが、その相場は200ドルである。ジーンズ業界では「200ドルジーンズ」と総称する。
1ドル=100円前後とすると、200ドルだと2万円内外ということになる。
わかりやすく言ってしまえば、2万円がその市場のボリュームゾーンだといえる。
決して500ドルでもないし、1000ドルでもない。
そういう商品も存在するが、それはごく小さな市場で、少人数の愛好家のための商品である。

200ドルの相場感覚は日米欧ともに共通なのではないかと筆者は感じている。

で、我が国のクールジャパン事業を振り返ると、日本国内価格で2万円以上するような商品を欧米に輸出しようとしているが、これは無茶な話だ。
輸出すれば現地価格は最低でも5万円になる。
これがそれなりの数量で売れるかというと、可能性はゼロではないが極めて小さいと指摘したい。

10数年ほど前になるだろうか、ビンテージジーンズブームの余熱が冷めやらぬ99年前後だったと記憶している。

当時まだオリゾンティが展開していたジーンズブランド「ドゥニーム」がイギリスに輸出したことがある。
当時のレートだとイギリス現地価格は5万円どころではなく、6万~7万円にもなった。
結果は大惨敗である。

一方、エヴィスも同じ時期にヨーロッパに進出した。
エヴィスは輸出ではなく、ヨーロッパ企業にライセンス生産を認めた。
その結果、現地価格は日本と同じ2万円前後に収まった。
エヴィスはヨーロッパで人気となり、イングランドのベッカム選手が着用したことで日本でも再ブームが起きた。

当時のドゥニームも決してクオリティの低いブランドではない。
しかし、5万円を大きく超える価格帯では欧州では売れなかった。

年数は少し過ぎているが、市場の反応は現在でも同じだろう。

10年ほど前に答えが出ていることを、何故今更またやるのかと不思議でならない。
10年前に5万円オーバーのジーンズは大惨敗し、2万円のジーンズはそれなりに売れたという結果が出ている。
再試行してみたところで答えは同じになる。

業界のエライ方々も行政のエライ方々もなぜこの2ブランドの事例に倣おうとしないのか不思議でならない。

ジャパンジーンズを輸出して欧米に根付かせたいのなら、いきなり500ドル市場を創出するという超難関に挑むよりは、間口の広い200ドル市場に参入する方法を考える方が成功する確率が高いと思うのだが。

幸いにして日本製デニムの知名度は欧米でも鳴り響いている。
生地、縫製、洗い加工のすべてが日本製で、たったの200ドルという文言は欧米人の心にも響くと思うがいかがだろうか?

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