売れた物が良い物
2014年1月31日 未分類 0
筆者は普段、製造業寄りの人と接する機会が多い。
チャラっとしたファッショニスタなんてごくたまにしか接触する機会がない。
ときどき仕事をさせてもらった繊維産地の人々なんて製造業そのものみたいな人たちである。
で、そういう製造業の人たちが「良い物は売れる」という考え方に陥りやすい。
たしかに良い物は売れる可能性がある。でもまったく売れない場合もある。
反対に粗悪品でもそこそこ売れることもある。できれば売れないでいてもらいたいけれど。
これと対極に「売れた物が良い物だ」という考え方がある。
これも一面の真理である。品質の高低はともかくとして結果的に売れたんだから、それが良い物であるという考え方である。
さて、製造業の人たちがさらに陥りやすいのが「良い物は高くても売れる」という考え方である。
これもある部分までは正解だが、「高い」にも限度がある。
たとえばジーンズで2万円前後くらいまでの商品には当てはまると思う。けれども5万円のジーンズはそう簡単には売れない。
2005年ごろにもてはやされた高額インポートジーンズだってそうだ。
今のボリュームゾーンは19800円である。29800円では売れなくなっている。だから「ヤヌーク」はカイタックインターナショナルがライセンス生産することで価格を19800円に下げたのである。
着物だってそうではないか。
いくら柄や刺繍が凝っていて、伝統の技法で作られていたとして、100万円もするならあまり買わないだろう。
だから成人式用の振袖のレンタル利用者が増えているのだろう。
10万円くらいの着物ならそれなりに売れるかもしれない。数万円くらいのカジュアルな着物ならもっと売りやすいだろう。
着物業界から見たら10万円とか数万円なんて安物だろうが、洋装に慣れた消費者からすれば十分に高額品である。もちろん生産背景が異なるので一概に比べることはできないが。
洋装なら10万円のコートは十分に高級品である。
で、この2つの考えにとらわれている限りは、繊維製造業者は市場に広く流通するような商品は生み出せないだろうと思う。
とくに生地メーカーや縫製業者、洗い加工業者が自社開発製品の直販に取り組む際には邪魔になる考え方になるだろう。
本藍を手染めして、力織機で織った最高級のデニム生地で作られたジーンズが10万円ですと言われたところで買う人はごく少数だろう。
これがプラダのジーンズなら話は別だが、産地企業が起こした無名のブランドなんてわざわざ買う人がどれほど存在するのか。
それよりは2万円くらいで販売できるジーンズを開発した方が成功する可能性が高い。
そういう最高級品を作る技術は伝えなくてはならないと思うが、そこに特化したところでビジネスは活性化しない。
だから繊維製造業の人たちは
「売れた物が良い物」
「良い物はそこそこ高くても売れるが、高すぎると売れない」
この2つを常に頭の片隅に置いておくくらいがちょうど良いのではないだろうか。