月別: 5月 2013 (1ページ / 3ページ)

目線を下げる努力も必要

 生地メーカーや紡績(糸を製造する工程)、縫製業者、加工業者などはプロであるが故に、自社の機能や商材をあまり詳細に説明しない傾向が強い。

本当はしているつもりだが、プロすぎて素人に分かるように説明できていないだけかもしれないし、詳細に説明したら同業他社にバカにされると考えているのかもしれない。

彼らが取り引きをするのはおもにアパレルブランドの企画担当者やSPAブランドの企画担当者である。
以前にも書いたようにそれらの企画担当者は「裁断って何ですか?」と質問するほど製造工程への知識がない。もちろん、一部には詳しいベテランもおられるが、そうでない若手は年々増えている印象がある。
よく言われるように、多くのアパレルブランド、SPAブランドの企画担当者はOEM・ODMメーカーに丸投げで、彼らが持ってきたサンプルの中から気に入った物をチョイスするだけのセレクターになり果てている。

さてそんな中、先日、丸安毛糸の展示会にお邪魔した。
ここは糸の商社でありながら、展示会のディスプレイやPOPが秀逸なので何度か紹介している。

今回、こんなPOPを見つけた。
裏と表で色が違う「段ボール編み」についてである。
裏と表と生地を二枚貼り付けているようなものなので肉厚になるため、春夏向けにはちょっと厳しいかな?というのが個人的な印象である。
写真を見ていただきたい。

写真

かなりわかりやすく特徴が書かれてある。
この書き方だと素人にもわかりやすい。素人にわかりやすいということはプロにも当然わかるということである。
「裁断って何ですか?」と質問をするような素人同然の企画担当者にわからせるには、これくらいわかりやすく書く必要があるのではないだろうか。

ここまで初歩的なことを書けば笑う同業他社も当然現れるだろう。
しかし、別に同業他社と取り引きをするわけではないので、そんな物を過剰に気にする必要はない。

製造業者の知識の高さは十分に存じあげているので、今後は目線を下げる努力をなさってはいかがだろうか。
目線を下げるといってもブランド側の言いなりになることではなく、丸安毛糸の段ボール編みのような説明を心がけてみてはどうかという意味である。

説明しないと伝わらない

 以前、ご紹介したことがあるクリーニング屋さんのブログ。

クリーニング屋が伝える上手なご家庭洗濯のブログ
http://ameblo.jp/cleaning-bee/

クリーニングの豆知識や自店で可能なサービスを説明している。
豆知識を書いたからといってお客は増えない。むしろ減る。
その豆知識を使って家庭でも洗濯できるのだから。

自店はこんなことができますよ~と書いてあるのはお客からすると分かりやすい。
こちらは集客につながる。

しかし、冷静に考えてみれば現在のクリーニング業界において、特定の店だけが持つ特殊でスペシャルな技能などあまり存在しない。だいたいどの店も技能は平準化されている。
自店で可能な技能を言うか言わないかの違いである。

このクリーニング屋さんのブログに対して「あれならうちでもできるよ~」「あんなのはどの店でもできるよ~」という同業者から批判の声があるという。

そりゃどの店でもある程度できるだろう。
しかし、他店は「これができますよ」とは書いていない。
お客さんはクリーニングのプロではないから、クリーニング店はどんなことができるのかはあまりわからない。
店頭なりHPなりブログなりに書かれてあることでしか判断できない。

「あれならうちでもできるよ~」というなら他のクリーニング店も店頭に告知するとか、チラシを作るとか、HPやブログに書き込むなどすれば良いのである。

クリーニングのプロではない消費者からすると「書いてないからわからない」ということである。
しかし、プロのクリーニング店からすると「当たり前の技能をわざわざ告知するのもどうかな?」と感じるのだろう。

これって、他の業界でも同じではないかと思う。
プロは当たり前の技能をわざわざ告知する必要がないと思っている。
場合によっては「当たり前のことを書いていたら他のプロからバカにされる」と考えたりもする。

だからIT関係企業だって「そんな当たり前のシステムサービスをわざわざ告知する必要はない。他の業者からバカにされる」と考えるし、生地メーカーや生地加工場も縫製工場も同じだろう。

しかし、商売は同業他社とやるわけではない。
一般消費者だったり自分よりも工程の一段階先の業者なのである。
なら、同業他社にどう思われようが、さらに先にいる自社のお客に向かって「当たり前の技能」を告知説明すべきである。

生地メーカー、縫製工場、加工場、染色工場、紡績すべてにもう一度考え直してもらいたい部分だ。

まず始めるという姿勢が重要

 以前から、生地メーカーの情報発信の有力ツールの1つにブログがあると書いてきた。
しかし、多くのメーカーのおじさま方は「何を書いたら良いのかわからんからやらない」と仰る。

それについては、「まず書くことに慣れるのが重要なので昼ごはんのことでも、映画のことでも何でも良いですよ」と説明してきた。その代わりに毎日書きましょうとも。

4月からデニム生地メーカー、クロキの方がブログを始められた。
これは初心者の方々にも参考になる事例ではないかと思う。

KUROKI デニムブログ
http://ameblo.jp/yan17bo14/

毎日どころか毎日数本書いておられるので、5月はすでに102本も記事がたまっている。
このペースで行くなら年内に1000本達成も不可能ではないかもしれない。

1000本も記事がたまれば検索でも圧倒的に上位に来ることができる。

仕事のこと以外にも出張で訪れた外国の都市のことや、どうでも良いちょっとしたことなども書いておられる。
そうでなければ毎日数本もアップすることはできないので、それで良いと思う。

ただ、惜しむらくは、とくに業務に関することである。
生地製造のプロが書かれているが故に、説明もプロ向きである。

ちょっと下記のエントリーを題材に見てみよう。
http://ameblo.jp/yan17bo14/entry-11540218856.html

分繊行程後のシート状になったものを全部まとめて、糊付け(サイジング行程)をします。

総本数4,000本の織物があったら、8本ロープで染めた場合は、この糸巻には、

500本の糸がシート状になっている事になります。

糊付け後、全部を一緒にして巻き上げていきます。

これを織機に掛けて、ヨコ糸をいれたら織物になります。

とのことであるが、どうだろうか?
生地メーカーの方はすごくよくわかると思うが、それ以外の業種の方にはちょっと分かりづらいのではないだろうか?
工程の機械の写真も貼り付けられているので、それは非常に貴重な資料なのだが、おそらくデザイナーや小売店関係者なんかにはこの記述ではさっぱり伝わらない可能性が高い。

総本数4000本の総本数とは何か?
8本ロープとは何か?

などをもう少し詳しく説明された方が伝わりやすいのではないかと思う。

しかし、「書くことがあらへん~」と言っていつまでもブログを始めない産地のおじさま方が多い中で、いきなり毎日数本ずつアップするというこの取り組みは大したものだと認めざるを得ない。

あれこれ考えるよりもクロキのブログのように「とりあえずやる」という姿勢も物事には重要だと改めて認識させられる。

目標売上高を達成できるか?

 開業1カ月のグランフロント大阪の売上高と来場者数が発表された。
売上高は50億円、来場者数は761万人だという。

http://ryutsuu.biz/store/f052721.html

まあ、どちらもすごい数字ではあるが、来場者数の割に売上高が低すぎるとマスコミの方々は思わないのだろうか?
売上高50億円を来場者数の761万人で割ると、平均客単価は657・894円となる。
四捨五入をすると約658円である。

この数字から導き出される答えは、来場者の多くはほとんど物を買っていないということになる。
2年前のJR大阪三越伊勢丹のオープン時と同じである。

飲食は利用しているのかもしれないが、せいぜい値ごろ感のある1階のカフェでお茶を1杯というところだろう。
グランフロント大阪の飲食店は物販に比べると高額店が多いため、通常の飲食店を利用した場合、客単価はもっと高くなると推測できる。

オープン景気を盛り上げるのは構わないが、手放しの称賛はいかがなものかと思う。

当初計画は売上高400億円、来場者数2500万人である。
来場者数はおそらく目標値に到達できるだろう。
ただし、今のままの平均客単価658円で推移するとするなら、来場者数2500万人での売上高は164億5000万円にとどまることになる。

目標の400億円に到達するためには理論上は平均客単価をもっと上げるか、来場者数をもっと増やすかのどちらかが必要となる。

オープン景気が終息するとともに、「見物客」は減って買い物客の比率が高まるだろうから、平均客単価はアップすることになるだろう。
そのため、売上高が先ほど計算した164億5000万円に止まることはないと思われる。

しかし、目標の400億円に到達できるかどうかは楽観視して良い状況にはないと感じる。

もちろん、人が少なく売上高が少ないよりは、にぎやかしでも人が多い方が良いのは決まっている。
人が人を呼ぶという現象はある。
人ごみが嫌いな筆者からすると、何を好き好んで混雑する施設に行きたがるのか理解に苦しむのだが。

何はともあれ、賑わっているのは良いことだが、目標売上高を達成するためにはさらにもう一工夫が必要ではないかというのが、オープン後1カ月の業績から見えてくる事柄ではないだろうか。

何の根拠があったの?

 少し以前の話題で恐縮だが、JR大阪三越伊勢丹の2年目の売上高は前年よりさらに減少して303億円に終わった。

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130402/biz13040220370041-n1.htm

 JR大阪駅ビルの百貨店「JR大阪三越伊勢丹」(大阪市北区)の運営会社は2日、平成24年度の売上高が約303億円と、約1カ月間短かった前年度(平成23年5月の開業から24年3月)に比べ2%減だったことを明らかにした。

 一方、隣接する大阪駅ビルの専門店街「ルクア」の売上高は前年度比5%増の357億円と堅調に推移しており、開業初年度に続き2年目も両者の明暗を分けた。

 三越伊勢丹は上半期(5~9月)の売り上げが開業1年目の同期間に及ばなかったほか、11月に阪急百貨店梅田店が全面開業した影響も受け、前年度を下回った。

とのことである。

開業年の売上高は310億円だったが、それよりも営業日が1ヶ月も多くて7億円の減収だからかなり厳しい。

昨年はどこからともなく、前年実績を単月で更新したという情報が流れてきた。
しかし、定期的にJR大阪三越伊勢丹の店頭を見ていると、来場者はいつも少ない。
果たしてこんな来場者で前年をクリアできているのだろうか?と疑問に感じていたが数字は正直だったということである。

さて疑問なのはJR三越大阪伊勢丹の発表されている再建策である。

2014年からブランドを大幅に入れ替え、専門店を多数誘致するという。
さらに2015年度には運営会社のJR西日本伊勢丹を黒字転換したいとしている。

JR京都伊勢丹の業績がどう推移するかにもよるだろうが、率直に言えば、そんな短期間でリニューアル効果が顕現し、翌年度にいきなり黒字転換するものなのだろうか?

もちろん、社の内外に向けて景気の良い花火を打ち上げる必要があることは承知しているが、それでもちょっとブチ上げすぎではないかとも感じる。

そもそも「2年目は少し好転している」と主張されていた人々は何の根拠を持っていたのだろうか?
初年度はオープニングにあれほどの来場者が押し寄せたにもかかわらず、310億円の売上高にとどまったのだが、2年目はそのオープニングの来場者ラッシュはなかった。普通に考えるなら2年目の売上高は初年度に及ばないということはすぐに分かるはずである。

さて、今年度の売上高はどうなるのだろうか?
現在、年度は始まったばかりだが来場者数はあまり変わっていないように見受けられる。

だとすると、このまま何も手を打たなければ売上高は300億円を下回るのではないだろうか。

グランフロント大阪が出来て梅田の人の流れが変わる・・・・・・・・といわれていた。
たしかに変わったが、JR大阪三越伊勢丹への来場者数は店頭を見ている限りはあまり変わっていないように見える。
人の流れが変わった。しかし、ただ流れ方が変わっただけだったようだ。

かつてのドル箱は見る影もなく

 今の30代以下の方に「かつてGMSでは衣料品が稼ぎ頭・ドル箱部門だった」と言ってもあまりピンと来ないだろう。じつは筆者も量販店で衣料品を買うという発想がほとんどない。決して若ぶっているつもりはないが、量販店でこの20年間衣料品を購入したことがほとんどない。

靴下の格安品を昨年に4足買ったのと、肌着を2枚ほど買った記憶しかない。

筆者よりもう少し上の年代だとGMSの衣料品が好調だったころを覚えておられるらしく、40代後半以上の方からは「昔は量販店の衣料品部門は良かったんだけどなあ」という声を聞く。

さて、量販店の衣料品についてまとめておられるブログがある。

http://retail-study.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/index.html#entry-76226571

イオンリテール、イトーヨーカ堂、ユニー、イズミ、平和堂、イズミヤ、以上GMS・6社の衣料品部門の動向を平成25年2月期(2013年2月期)決算をもとに見て、いくつか感じたことを以下にメモしておきます。

6社の衣料品売上構成比は、いずこも30%を切っています。なかでも、ユニー15.6%、平和堂14.3%、イズミヤ16.3%、この3社の衣料品部門の売上構成比は20%以下。一方、3社の食料品部門の売上高構成比は60%を超えており、これはもうGMSというより食品スーパーと言ってもいいような数字です。そう遠くない時期に、GMSの衣料品部門の売上構成比が10%を切るようになるかもしれません。かつて、GMSの衣料部門は「稼ぎ頭・ドル箱部門」でしたが、ここまで衰退してしまいました。「目を覆うばかりの惨状」と言ったら言い過ぎでしょうか?

とある。

興味のある方は全文をお読みいただきたいが、補足すると、イオンが20・4%、イトーヨーカドーが22・7%、イズミが25・3%となっている。
ちなみにイズミとイズミヤは別の会社である。

このような現状を見ると、量販店の衣料品復活はかなり難しいのではないかと思えてくる。

トップバリュもグッディも導入時期は華々しく報道されるが、それ以降目立った報道がない。
好調ならニュースリリースを配布しまくるであろうから、報道がないということは好調ではないということになる。

筆者の周りでも量販店で買う衣料品は肌着・靴下・パジャマ類という人が多い。
カジュアルアウターを買う人はかなり珍しいのではないだろうか。

以前だとお年寄りは量販店でカジュアルアウターを買っておられたように思うが、最近だとユニクロでの購入が多いのではないか。

郊外のユニクロを見ると、お年寄り顧客がかなり多い。
郊外ではないが、下町に位置する大阪・天王寺の「キューズモール」内のユニクロも平日・休日問わずかなりお年寄り比率が高い。

量販店各社の衣料品が復活するためにはユニクロ打倒が必要不可欠だと感じる。

しかし、現状の量販店各社の企画はユニクロの後追いに終始している。
軽量ダウンしかり、保温肌着しかりである。

強者が弱者のヒット商品を追随することは、ある意味王道であり物量で圧倒するやり方である。
しかし、弱者が強者のヒット商品に追随したところで、物量で圧倒されているだけに勝ち目がない。
逆に、強者の「モノマネ品」と見なされるのが落ちである。

残念ながら量販店各社がユニクロに追随しているうちは、衣料品復活はありえないのではないか。

辛い夏になりそう?

 3月は気候と相まって各社とも好調だったが、4月には失速した。
5月もどうやら引き続き低調なようだが、先週からいきなり夏日になったので夏物衣料が動き始めているようだが、4月21日~5月20日までの期間を5月度とするライトオンとジーンズメイトは、高気温化による夏物衣料の活発化の恩恵は受けなかったようだ。

ライトオンの5月度は
既存店売上高が前年比5・0%減
既存店客数が同6・4%減
既存店客単価が同1・5%増

ジーンズメイトの5月度は
既存店売上高が前年比10・0%減
既存店客数が同5・9%減
既存店客単価が同4・3%減

だった。

気温要因を言えば、ゴールデンウイーク明けまでは例年を下回る低気温だった。
先週からはいきなり夏日になったが4月末から5月10日ごろまでは気温が低かったので夏物の動きが悪かった。

しかし、この2社の店頭を見ると、気温要因だけの苦戦ではないと感じられる。

現在のボトムスの売れ筋は、カラーパンツ、ホワイトパンツ、花柄パンツである。
メンズはカラーパンツとホワイトパンツが、レディースはこの3つすべてが動いている。

残念ながらこの2社は売れ筋の3つの陳列量がかなり少ない。
そこへ来て、ブルージーンズの例年以上の不振である。

ブルージーンズとベーシックチノパンを基本に店頭を組み立てたこの2社には厳しい状況といえるだろう。

しかし、昨年秋ごろのカジュアルパンツメーカーの展示会を巡回した感触では、各社ともにカラーパンツを強化していたし、すでに昨年秋から店頭ではホワイトパンツが動いていた。こうした動きを常日頃から見ているのであればどうしてカラーパンツとホワイトパンツ、花柄パンツをあまり拡充せずにブルージーンズとベーシックチノパンを維持するという選択をしてしまったのだろうか?

そういうわけで現在の品ぞろえのままでは6月度・7月度・8月度で商況を立てなおすのはかなり難しいだろう。
この2社が再び上昇機運に乗れるとするなら今秋以降ということになる。

2社にとっては辛い夏になりそうだ。

製造業こそ発信が必要

 先日、読んでいた記事に興味深い一節があった。

川越達也シェフのインタビュー記事である。
念のために断っておくと、筆者は川越シェフになんの興味もなく、「ネットでよくネタにされてる人だな~」という印象くらいしかない。

以下に引用する。

http://www.cyzo.com/2013/05/post_13367.html

メディア出演の最初のきっかけはなんだったのでしょう?

川越 きっかけというより……きっかけが来たらいいな、と思って常に準備をしていました。何が成功かということについてはそれぞれ考え方がありますけど、僕は有名になりたいと思ってメディアに出たわけじゃなくて、有名にならないと生き残れない時代だと思っていたんです。

――具体的にはどんなことをしたのでしょう?

川越 28歳で開業した頃は、例えば雑誌の「Hanako」(マガジンハウス)さんや「東京ウォーカー」(角川書店)さんがエリア別のレストランや若手シェフの特集を組むときに、「目黒の学芸大学駅に、若くて頑張ってるシェフがいるらしいよ」と風の噂が立つような準備をしていました。「ティアラ・K・リストランテ」というちょっと長い当時の店名も、誌面に載せたときに「なんだろう?」と目に留まるようにしたかったから。雑誌に掲載する料理も、海老や蟹を使って、実は食べてもそんなに美味しくないんだけど写真映えする見た目の派手な料理を載せてました。で、予約の電話をしてくれたお客さんに素直に言うんです。「すみません、掲載していた料理は雑誌用に華やかにしたものなので、お出しできないのです。その代わり、一生懸命作るので食べに来ていただけませんか?」って。来ていただいたらお詫びをして、代わりの料理で楽しんでいただきました。なかには「なんだ、嘘じゃん」と言う方もいましたけど、人がなんと言おうと店に興味を持ってもらうことが大事だと思っていましたね。雑誌の表紙と一緒ですよ。

――それも一種のメディア戦略ですね。

川越 次は「若手のオーナーシェフ」として、そういう企画があったら最初に声がかかるような戦略を打ちました。もう、努力ですよね。2週間に1回ぐらい美容室に行って、ちゃんとカラーリングする。帽子なんて被りません。あと、上手くお話ができるように、お店で料理教室も開きました。

――料理教室でトークのトレーニングをしたんですか?

川越 いろいろな料理番組でシェフが喋っているのを見て、「もっとこう言ったらわかりやすいのに……」と思うわけですよ。だから、料理教室を開いて生徒さん相手に、ちゃんと伝わる言い回しや表情を研究しました。僕はタレントじゃないけど、テレビに出るのならそれはやるべきだと思います。その頃はテレビを見ながら自分に置き換えてシミュレーションしてました。「チャンスが巡ってきたら、よし、みてろよ」っていうような思いでしたね。

――そもそも、料理人の世界では、メディアに出ることは良しとされるんでしょうか? 

川越 ほとんどの料理人――九割九分と言ってもいいと思います――は実はメディアに出たいんですよ。この世界は、自己顕示欲が強い人ばかりなんです。自分の名前を店名にしてみたり、俺の料理はこうだと語ったりするのも、すべて自己顕示欲の表れ。でも、なかなかメディアに出ることはできないから、メディアに出ることは悪だという歪んだ考え方になってしまう。

とのことである。

ここは、普段接することが多い繊維産地の企業や繊維製造業の方にぜひとも参考にしてもらいたい個所である。

まずメディアに出ること。そのための準備。

外見でのアピールも重要だ。
川越シェフはいわゆるイケメン路線で外見を統一しておられるが、製造業や産地の方々は別にイケメン路線にする必要はないと思う。

例えば、城陽のラメ糸メーカー、泉工業である。
ここはコーポレートカラーのグリーンを全面的に押し出している。
外回りするときは常にユニフォームであるグリーンのブルゾン。
営業のY嬢などは全身グリーンに常に統一されており、ピーターパンかロビンフッドのコスプレのようである。
まあ、多分ご本人にもコスプレ気質はあるのだと思う。

しかし、これを3年以上続けることで、展示会場でグリーンのブルゾンを見ると「もしかして、ここにも泉工業が?」と条件反射するようになってしまった。

また、レディースニットブランド「フラムクリップ」を展開するピーアイの奥ノ谷社長は常に短パンである。
もともとは年間の3分の2を短パンですごす男という触れ込みだったが、今では年中短パンの男である。
真冬でも短パンである。さぞかし足が冷えるだろう。
ときどき腰痛が発生するようだが、それは足の冷やしすぎが原因ではないかと推測している次第だ。

BlogPaint

(短パンどころか何故か海パンを街中で着用中の奥ノ谷社長w)

何が言いたいかというとコスプレのお薦めではなく、外見で印象付ける方法があるということである。

次にトークの練習である。
筆者もいろんな方のインタビューを伺っていて「もっとこう説明したらわかりやすいのに」と感じることが多い。
これは何も製造業に限ったことではない。実はデザイナーにしてもコンサルタントにしても同様に感じる。
とはいえ、筆者も話下手なのだが。

川越シェフはトークの練習とおっしゃっているが、要するにこれは広い意味でのプレゼンの練習ということだろう。
繊維業界だと久米繊維の社長さんのセミナーを一度お聞きしたことがあるが、話し方といい声質といい、明瞭で聞き取りやすくわかりやすかった。
Tシャツの胸部分にほとんど意味がないであろう小さな逆三角形のポケットが付けられていることすら、それなりの背景があるように話せてしまえるテクニックというのは凄まじいと感じた。

筆者ならおそらく「あんまり意味はないんですけどね、ちょっとデザインポイントで付けてみました。こんなもんはコケオドシですわ~」としゃべってしまっているだろう。

川越シェフは「料理人の9割9分はメディアに出たいと思っている」とおっしゃっておられるが、そうではない料理人さんも多いと思う。けれども出たいと思っている人が多数いるのは事実だろう。
それは産地企業や製造業も同じで、9割9分とは言わないが、過半数の人はメディアに出たいと思っているのではないだろうか。
意外に産地企業や製造業の方も自己主張、自己顕示欲は強い。

川越シェフが語っておられることは販促プロモーションに活用できる考え方である。

産地企業や製造業が黙々と良い物を作っていてもそれだけではなかなか日の目を見ることもない。
川越シェフが開業したころはメディアを通じてしか発信することができなかった時代だが、現在はインターネットのツールを使えばタダみたいな値段で自己発信ができるご時世である。
これを活用しない手はない。

そういえば先日、某原料メーカーの幹部が「発信が重要なことはわかってるんです。でも面倒くさいんです。突き詰めて考えれば僕らはそこまで追い詰められていないということなのかもしれません」と語ってくださった。
これは偽らざる本音だろう。

そういう意味では日本の繊維製造業は実はまだ余裕があるのかもしれない。

またとない良質な番組

 小規模な児島のジーンズメーカー3社がパリに売り込みに行くも無残に玉砕した(ように見える)NHK岡山支局が放送した番組「現場に立つ」について、続きを書いてみたい。

http://www.nhk.or.jp/okayama/program/b-det0008-naiyou.html

パリに出向いたのは以下の3社

1、インディゴ染めにこだわるI氏
2、緯糸にカラー糸を使うため、裏がカラーになるジーンズを企画製造するH氏
3、ブラックデニムとブルーデニムの切り替えブッシュパンツを企画製造するT氏

のチームである。

さて、今回のプロジェクトでもっとも気になる点を書きたい。

それは何故、フランスのパリなのかということである。

日本貿易振興機構岡山貿易情報センターの女性がインタビューに応えているから、おそらくここの立案であろう。
「ファッションはパリ。世界の一流ブランドが集まるパリで有名になれば中国人にも売れる」。
番組中で語られる動機はこれだが、一見すると適正な方策にも見えるがじっくり考えてみるとかなりおかしい。

まず、パリで中国人が押し寄せているのはブランド直営店であり、セレクトショップではない。
だからパリのセレクトショップに仕入れられても中国人に売れることはあまり見込みがない。

日本貿易振興機構がモデルにしたのは広島県の「熊野筆」だという。熊野筆はパリで絶賛されて有名になった。
けれども熊野筆は化粧用の筆として日用品たる側面を持っている。
高価だが使いやすく品質の良い日用品という性質である。
で、今回パリに飛んだ日本のジーンズ3ブランドにはそういう性質はあっただろうか?
熊野筆のように、他社の化粧筆と使い比べてみて一目瞭然で効果がわかるような部分があるだろうか?

製造工程の困難さをアピールすれば、高価なジーンズが売れると思っている節があるが、それは考え違いだろう。
消費者は困難な製造工程を買うのではない。

熊野筆のように使い比べてみて圧倒的に機能が優れているような分かりやすさが児島のジーンズにあるだろうか。筆者はないと思う。
圧倒的な機能なら、エドウインの防風ジーンズやユニクロのウルトラストレッチデニムの方がよほどわかりやすい。

ジーンズはファッションアイテムの1つであり嗜好品なので、製造工程の困難さもさることながら、着用すればどれくらいカッコ良く見えるか、どれほどスタイルが良く見えるか、どういうコーディネイトをすれば素敵に見えるか、この辺りをアピールする必要がある。

前回も書いたが、ジーンズ業界の人は、ジーンズという単品をどれだけクオリティアップするかということだけに注力しすぎる傾向が強い。
それではあまりにも単品志向が強すぎるため、却って売れなくなる。

個人的にはパリで3社のみで合同展をすること自体が戦略ミスだったのではないかと感じる。
200ドルジーンズが毎年それなりに動き続けているアメリカの西海岸に持って行くべきだったのではないだろうか。

どうもお役人さんが「ファッション=パリ」という単純な図式に乗っかっただけのような気がしてならない。

これに付随して今回のパリ合同展示会のオプションとしてパリのデザイナーとのコラボジーンズの展示という企画もあった。
「パリのデザイナー」というからどんな世界的に著名なデザイナーなのかと思ったら、舞台衣装のデザイナーだった。

え?Σ(‘◇’*)エェッ!? 舞台衣装ですか?なぜ?why?

普通「パリのデザイナーとコラボ」と言われば「サンローラン」や「ルイ・ヴィトン」「ディオール」のような著名ブランドのデザイナーとのコラボかと想像するが、舞台衣装デザイナーでは残念ながらファッション業界に強いインパクトを与えることは不可能である。
児島ジーンズをパリの演劇界に売り込みたいのならそれも良いのだが・・・・・・・・・・・・。
これもお役人さんの企画ミスではないのかと突っ込みたくなる。

それと3ブランドでの合同展示会なのだが、番組を見る限り来場者は少なかったようだ。
しびれを切らせた3人は飛び込み営業を行ったということになっている。
もし番組通りに来場者が少なかったのだとしたら、果たして彼らはフランスで展示会開催の告知をどれだけ行ったのだろうか?ほとんど行っていないのではないだろうか?

もし、告知がほとんどなかったのだとしたら、甘すぎるといわねばならない。
例えば、東京でフィリピンの3ブランドが合同展示会を開催したとする。
告知がない状態でどれほどの日本人バイヤーが会場に行くだろうか。ほとんどゼロではないだろうか。
外国から来た無名の3ブランドが展示会を開催したからといって、バイヤーが多数来場するはずもない。
それと同じことである。

さらに根本的な疑問をいえば、無名の3ブランドが合同展示会をする意味があるのだろうか。
ブランドが有名になれば自分たちだけで展示会をやれば良い。バイヤーもそれなりに来場するだろう。
しかし、海外で無名な状態(日本でだって有名とは言い難い)で、いきなり自分たちだけで展示会をやるのはあまりにも効果が期待できないだろう。
筆者なら大型合同展示会への出展を勧める。その方が、来場客は確実に見込めるからだ。

これは別に海外でなくとも国内でも同じだろう。
新しいブランドが手っ取り早く大勢のバイヤーの目に触れたいと思うのなら、IFFや東京ギフトショー、ルームスなどの大型展示会に出展した方がずっと効率的だ。

なぜ、フランスやアメリカでの大型展示会に出展することではなく、無名に近い状態の3ブランドのみでの合同展示会を企画したのか理解に苦しむ。

そんなわけで、延々と何回かにわけてこの番組の感想を書いてきた。
この番組で紹介された手法とすべて真逆を行えば日本のジーンズブランドは海外でも売れるのではないかと思う。
そういう意味では、ジーンズ業界関係者にとってはまたとない良質な番組だったと感じている。

脱賃加工を目指してみては?

 先日、実家が賃加工の織布工場を営んでいる方にお会いした。
賃加工とは、要するに下請け工場という意味で、大手の織布工場や商社などからの指示通りの生地を製造している。
賃加工のメリットは

1、商品企画をあれこれ考えなくても済む
2、原料となる糸を自腹で仕入れる必要がない。糸は受注先から支給される

である。
このためリスクは限りなくゼロに近い。
最大のリスクは納入先がなくなることである。
契約を切られる場合もあるだろうし、納入先が倒産・廃業することもある。

で、その方は実家の賃加工業に未来を感じず、新たに自分で製品事業などに取り組み始めている。
その取り組み自体は良いのだが、どうせならそれを実家の新規事業として取り組んではどうだろうか。
それから実家の織布工場を現在の賃加工100%の状態から少しずつ「手張り」に移行させることに取り組んではどうだろうか?

「手張り」とは、その工場が自社リスクで原料を仕入れて生地を開発することである。

しかし、言うは易く行うは難しである。
現実問題として賃加工から手張りへ移行できた織布工場はあまりない。
賃加工業者は下請け気分が抜けずに失敗することが多いからだ。

そんなことを考えていたら、福山市にある篠原テキスタイルを思い出した。

ここ数年で耳にする機会が増えた篠原テキスタイルだが、10年くらい前までは賃加工100%の織布工場だったという。
現在はレーヨンデニム、テンセルデニムを得意とする生地メーカーとして名高い。

http://www.shinotex.jp/

先日、社長さんにお話を伺った。

筆者が業界紙記者をしていた10年前までは名前を耳にしたこともなかった。
そのわけを尋ねると、100%賃加工だったからだ。

それをどのように「手張り」へと切り替えたのか?

それまで仕事をくれていた産元や織布工場の相次ぐ倒産・廃業がきっかけだったという。

その中の1社は筆者が10年前までときどき取材に伺っていた菅原織物だった。
そういえば筆者が退職した後に倒産されたことを耳にしている。

それらから生地を仕入れていたお客が困って篠原テキスタイルに相談に来られたそうだ。
倒産・廃業した納入先からも自社が抱えていたお客を紹介されたこともたびたびあったという。

社長さんはお見かけしたところ50代後半から60代前半である。
手張りに切り替え始めたのはここ7~8年前だというから、社長さんは当時50代だったということになる。
そのお年からよくぞ新しいことに挑戦されたものだと感心してしまう。

筆者のような自堕落な人間はその年齢なら「あと7年くらいで定年だからそれまで何とかやりすごそう」と考える。
いくら必要性に迫られたとはいえ、新しい業態へ切り替えるというような面倒くさいことをやろうとは到底思わない。

さて、篠原テキスタイルが手張り化に成功した要因の一つには、運が良かったこともある。
倒産した先のお客が相談に来たこと、倒産・廃業した納入先がお客を紹介してくれたことである。
これはなかなかにありがたい話だ。

けれどもそういう状況になっても賃加工に染まりきっていた工場はなかなか手張りへと踏み出すことは難しい。
何十年と続いた習慣を人間はそれほど容易に断ち切れないからだ。

それでも挑戦したことが、現在、成功に結び付きつつあるのではないかと思う。

話を元に戻すと、先日お会いした方も、ご実家の織布工場を賃加工から手張りへと切り替える取り組みをされてはどうだろうか?
現在手掛けようとしておられる製品ビジネスとの相乗効果も期待できる。
オリジナルの織布と製品と両方を手掛けられる工場は強い。成功すれば生き残りも十分に可能だろう。

数少ないとはいえ、手張り化に成功している織布工場も現実にあるのだから。

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