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従来型の終わりの始まり?

 欧米に全く縁のない生活をしているからマックスリーさんのニューヨークブログを毎回興味深く拝読している。
今回のジョガーパンツに関するエントリーも好調のようだが、筆者が注目したのは冒頭の一文である。

http://www.apalog.com/maxre/archive/167

ヤング層のジーンズ離れが深刻化している中、唯一、スキニージーンズは引き続き売れているが、かなり雲行きが怪しくなってきた。

とある。

どこの市場と明言されていないので、ニューヨーク市場もしくはアメリカ市場だと推測するのだが、もし仮にそうだとすると、この状況は我が国の市場とほぼ同じである。

ヤング層はジーンズに対して特別感を抱いていないし、それでもスキニージーンズはこの数年間売れ続けてきた。それにもちょっと飽きが来ているようだが、次のトレンドは見つけられていない。
ひどく大雑把にまとめると、我が国のジーンズ市場はこういう状況にある。
ジーンズ市場を支えているのは間違いなく中高年男女である。
そして中高年が支持をするから余計に若者は敬遠するのではないかとも思える。

日米で示し合わせたように同じ動きになっているというのも興味深い事例である。

そこで注目されているのがジョガーパンツだという。
日本でもジョガーパンツは何年か前から注目されており、ジーンズブランドも取り入れてきた。
エドウインはすでに「ジャージーズ」という商品を出しており、好調に動いているという。

ジョガーとかジャージーズとか呼ばれている商品には二通りある。

1つは、裏毛などのニット素材の商品
もう1つは、超強力ストレッチの薄手布帛素材商品

である。

どちらも売りは「柔らかくキックバック性があり、動きやすいこと」である。

筆者は裏毛などを使ったデニム風ニットが面白いと感じていた。
編み物なのに、デニムっぽい見え方だからである。
けれども、その後、薄手布帛素材の方が市場に受け入れられているように感じる。

ブランドによってばらつきがあるとはいえ、ニットデニムが期待されたほど需要が伸びなかった理由はなんだろうか。

1つは、洗い加工が施しにくい
もう1つは、目付が軽いとすぐに膝が出てしまってシルエットが崩れてしまう

ことにあるのではないかと考えている。

多くのデニム風のニットはヒゲなどの加工が施しにくい。
ヒゲが明確に出にくいだけでなく、擦っている最中に糸が切れたら、そこから穴が開いてしまう。
布帛では糸が何本か切れてもすぐには大穴は開かない。
また摩擦にも強いのでヒゲ加工が施しやすい。

世間ではスエットパンツが流行しているので、筆者もユニクロで7分丈のスエットパンツを購入してみた。
試着してみるとどう見ても寝間着を穿いたオッサンにしか見えなかったので、そのまま寝間着にした。
ちなみに筆者が定価で買うはずもなく、990円に値下がりしたときに購入した。

写真

(990円に値下がりしてから購入したユニクロの7分丈スエットパンツ)

予想したよりも生地が薄い。正確にいうなら目付が軽い。

寝間着としてしばらく着用してみて「寝間着にして正解だった」と感じた。
というのは、すぐに膝が出てしまったからである。
おそらく洗濯すればある程度は元のシルエットに戻ると思うが、本来、そこそこタイトなシルエットのはずが、膝が出たためにダボっとしたシルエットになり、変型版のサルエルパンツにも見える。

ニット素材のパンツは興味深いが、膝が出る危険性が高いことを改めて痛感した。

このような素材特性を考慮すると、布帛製のジョガーパンツへの支持が増えることは何の不思議もない。

さてさて、ニット製であろうが布帛製であろうが、注目商品が現れるというのは市場の活性化につながるので喜ばしいことである。

しかし、ジョガーパンツやジャージーパンツの「楽さ」はジーンズとはくらべものにならない。
今春から何本かストレッチ混の細身パンツを購入したが、よほどの太目シルエットでない限り、筆者はノンストレッチのパンツは穿きたくなくなった。
それほどに快適であり、細身のノンストレッチパンツは不快である。

話は横道にそれるが、長らく店頭でGAPの商品を見ているが、GAPはなぜか頑なにストレッチ素材を使わない。これは謎である。
ナチュラル感が売りの無印良品でさえ、タイトシルエットパンツにはストレッチが採用されている。

それはさておき。

シルエットに少しゆとりがあり、それでいて(ニット、布帛ともに)ストレッチ性のあるジョガーパンツが本格的に流行したならば、ジーンズというアイテムはさらに復活の芽がなくなるのではないかと感じられる。
ジョガーパンツに比べると圧倒的にジーンズは快適ではないからである。

一度快適さに慣れてしまった消費者が再び不便な商品を志向するようになるまでには相当の年月が必要なのではないかと思う。

もしかしたらジーンズの素材開発の根本から考え直さなくてはならなくなるのではないだろうか。
ジョガーパンツの流行が「従来型ジーンズの終わりの始まり」にならなければ良いのだが。

来店するけど買わない

 繊維・アパレル業界の人でもというべきか、繊維・アパレル業界の人だからこそというべきか、印象論のみで論じる方が少なくない。
例えば百貨店の各店舗の売上高である。
京都には小型百貨店が集まっているのだが、もっとも売上高が高いのは高島屋である。
次は大丸であり、ジェイアール京都伊勢丹はその次なのである。
いくらジェイアール京都伊勢丹がこの10年で売上高を伸ばしたとはいえ、この序列は変わっていない。

京都の一番店は今でも高島屋だし、それを大丸が追いかけるという構図は同じなのである。

昨日、フェイスブック友達に教えていただいたブログに2013年度百貨店の売上ランキングが掲載されている。

http://osakacityview.blog.fc2.com/blog-entry-370.html

この元ネタは文中にあるように日経MJである。決してブログ主の「印象論」ではない。
貴重な資料といえる。

上位30位までの表だけを引用する。

201408222011507d0

高島屋がジェイアール名古屋高島屋も入れると6店舗ランクインしている。
売上高の高い店舗が全国的にまんべんなく存在するといえる。

突出した店舗はないものの、大丸も6店舗ランクインしており、バランスの良さがうかがえる。
ちなみにここでいう大丸は大丸単体のことである。

このあたりの売上ランキングをきちんと認識しないと、百貨店を論じても印象論や好き嫌い論になってしまう。

さて、グランドオープン半年で下方修正を余儀なくされたあべのハルカス近鉄百貨店本店だが、その要因は若い女性向けの専門店街「ソラハ」の不振によるものだと報道されている。
それに向けた近鉄側の対応策もいくつか報道されているが、記事を読む限りにおいては、有効であるとは到底思えない。

例えば昨日のブログでご紹介した近鉄百貨店の高松啓二社長のコメント

「雰囲気や音楽など、若い女性が好むような演出も不十分だった。来店客を呼び込む仕掛けが必要だ」と指摘。数千万円を投じ、9月中旬の完成をめどにソラハの改修に踏み切る。

なんて、どこか他人事のように聞こえてしまう。
「指摘」なんてしている場合なのか、今更指摘するくらいなら計画段階からそれをなぜ指摘しなかったのだろうか。

また、ここで報道されている巻き返し策も疑問を感じる。

http://www.data-max.co.jp/company_and_economy/2014/08/14735/0827_dm1435/

そして、「まだ構想段階ですが、若い女性に人気のモデルさんなどファッションリーダー的な存在の方とのジョイントしたイベントなどを企画して、ご来店を促していきます。

だそうなのだが、現在、マスに向けたファッションリーダーなんてそもそも存在するのだろうか?
90年代後半は安室奈美恵さんが若い女性のマスファッションリーダーだった。
2000年代前半は浜崎あゆみさんが若い女性のマスファッションリーダーだった。

そういうマスが支持するファッションリーダーは今存在するようには思えない。

個々のジャンルに人気のある小ファッションリーダーはたしかに存在する。
しかし、マスを狙う百貨店が特定のジャンルに特化した小ファッションリーダーを起用したところで目指す売り上げ規模を回復できるとは到底思えない。

引用した記事の中で興味深い分析がある。

 同社の広報によると、「あべのハルカス近鉄本店の来客数は、グランドオープンの3月~7月の間は、前年同期比で80%増でありました。しかし、買上率が計画の94%に対して80%という結果でした。すなわちご来店くださったお客様の14%の方が計画の6%に加えて何も買うことがなかったという結果です」という。

来客数は大幅に伸びたが買い上げ率は伸びなかったということである。
この現象は何もあべのハルカスだけのことではないと感じる。

事実上の撤退が決まったJR大阪三越伊勢丹だってオープン当時は何十万人もの人が来店し、来店客数の計画は楽々とクリアしたが、売上高がまったく伴っていなかった。

初年度売上高計画をクリアして好調が伝えられるグランフロント大阪も来店客数は、当初計画を大幅に上回っている。売上高の計画達成どころの上回り方ではない。

近年関西で開業した新規の商業施設は、来場者数・来店数はどれも好調であるが、売上高はそこに正比例していない。

こうした状況を見ると、新しい施設ができれば好奇心も手伝うから、来場者は比較的容易に多く集まる。しかし、来場した人々に商品を購入してもらうことは難しくなっているのではないかと感じる。
もしくは購入はするが、単価が低いのかもしれない。

そういう意味では消費者の目はシビアさを増しているのではないか。

そこで消費を促す施策は、どういうものなのかもう一度考え直す必要があるのではないか。
90年代後半までの手法をそのまま実施して結果が得られるような状況にあるとは思えない。
存在していない「ファッションリーダー」とのジョイントだとか、まったく具体性もない「女性が好む演出」だとかでは対応しきれないだろう。

何とも厳しい時代である。

思い込みと願望だけでは・・・

 今年3月にグランドオープンしたあべのハルカスが早くも下方修正している。
その原因として、若い女性向けの専門店街「ソラハ」の苦戦が挙げられている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140826-00000501-san-bus_all

記事によると、

近鉄百貨店の高松啓二社長は「雰囲気や音楽など、若い女性が好むような演出も不十分だった。来店客を呼び込む仕掛けが必要だ」と指摘。数千万円を投じ、9月中旬の完成をめどにソラハの改修に踏み切る。

とのことだが、そもそも「若い女性向け」というターゲット設定が間違っていたのではないか。
現在のファッション業界において、「若い女性向け」「若い男性向け」というジャンルは旨味の少ないジャンルだと認識されつつある。

その理由は、

まず人口が少ない。
次に可処分所得が少ない。

ことが挙げられる。

人口が少なくてお金をあまり持っていないから、販売枚数は少量になる。
そして買い上げ単価も低い。

いわゆる工業、商業として見た場合の旨味は著しく低い。

ちなみにハルカスがどれほどの下方修正をするかというと、

百貨店部分の売上高と専門店部分の売上高を合計した取扱高ベース売上高は、期首予想の1450億円から280億円減額し、1170億円とした。前期実績は923億1100万円だった。

http://ryutsuu.biz/accounts/g082512.html

とのことだ。

グランドオープンしてから何度か休日、平日と見物も兼ねてハルカスに足を運んだ。
百貨店部分の入場者数はまずまずだと感じる。
あまり閑散としたという印象はなく、平日の昼間でもそれなりにお客がいる。
平日の夕方もそれなりの賑わいがある。

一方、ソラハは平日の夕方や休日でも百貨店ゾーンに比べると客入りが少ない。
人ごみが苦手な筆者からすると非常に快適な買い物環境だといえる。

それにしてもなぜ「若い女性向け」というもっとも困難なターゲット設定をしてしまったのだろうか。

同じ天王寺エリアで、ターゲット設定が同様に失敗していると感じるのが「MIO プラザ館」である。
こちらはJR天王寺駅のすぐ上である。
2階はなぜかファミリー向けを意識したテナント構成となっている。

しかし、さっそく、アバハウスの「マイセルフ」が撤退しており、その跡地に「チャオパニックティピー」が入店している。

MIOプラザ館の面積は狭い。
そしてファミリー向けなら陸橋のすぐ向こうに大型ショッピングセンターの「キューズモール」が存在しており、こちらの方が品ぞろえが圧倒的に豊富である。
まともに勝負しても勝ち目は薄い。

それにしてもキューズモールにもMIOプラザ館にも入店している「チャオパニックティピー」は大丈夫なのだろうか。もしかしたらドミナント戦略なのだろうか。

ソラハも同じである。

若い女性向けというならキューズモールにもあるし、天王寺MIO本館もある。
キューズモールには低価格ブランドがそろっているし、MIO本館は有名ブランドをそろえている。

人口と可処分所得が少ない若い女性層がそれほどたくさんの商業施設で買い回るだろうか。
そういう状況はなかなかありえないのではないか。

このターゲット設定の失敗は、鉄道(近鉄、JR)本体の経営陣の判断ミスではないか。
片方は「ファッション=若者」というステレオタイプな発想、もう片方は「ファミリー向けで成功したい」という根拠なき願望、を反映しているのではないかと感じる。

思い込みと願望だけのターゲット設定というのは、これ以外でもよく見られる。
そしてそれが成功した試しは限りなく少ない。

美味しいとこ取りは不可能では?

 繊研プラスに掲載されている対談が面白かった。
せーのの石川涼社長と、チームラボの猪子寿之社長の対談である。
IFFで行われた対談を文字にまとめたもののようだ。

http://www.senken.co.jp/news/teamlab-ceno/

まず、最初から石川社長が明確に「服が並んだだけの店では売れなくなる」と明言されている。

直営店でも何でも、ただの物販は終わりだと思ってて、洋服が並んでいるだけのカッコいいお店は、もうアマゾンにはかなわない。で、お客が来店したくなるような何かしらの仕掛けが必要だと思ったんです。

とある。
これは、言い回しこそ違うが、販促コンサルタントの藤村正宏さんや短パン社長の主張と同じだと読める。

本論はここではなくて、以下になる。

「ファッションは終わる」である。

もう、過度なおしゃれは必要ないのではないかという話です。結局、世の中を見渡して、そんなに変わった服を着ている人なんていますか。

ここには深く賛同する。
男女ともマスはベーシックでありシンプル化している。
多少の装飾といってもベーシック品に少しフリルやギャザーなどのディテールが加えられていたり、形はベーシックで色柄だけがPOPだったりするものが多い。

フォルムそのものがヘンテコリンな服を着ている人なんてそんなに見かけない。
アヴァンギャルドを売りにするデザイナーズブランドが大きく成長できないのもこのためである。
その市場は極めてニッチだからだ。
あえて、そのニッチを狙うのはブランドとしての戦略なので大いに貫徹すべきだと思うが、市場の大きさを読み誤ったブランドも数多く見受けられる。これは痛々しい。

さらに石川社長のこの言も一理ある。
物作り系の方々には不快だろうが、これを前提とした物作りをしないと、単なる自己満足の押しつけになってしまう。

石川 車もそうですが、燃費の良さなどのスペックを誇ることにはもう特段の関心を惹かれません。それよりも、例えば、別の形にトランスフォームする車ができないかと考える方が大事だと思う。そっちのほうが、テンションがあがる。

ーなるほど。

石川 ファッション業界は、そういう大切さをわかってないと感じます。肩の力を抜いて楽しめばいいのに、やれ素材がどうだとかとか、そういう瑣末なことばかりに囚われている。ある程度の基準をクリアしていれば、そんなことに固執しなくよい。若い世代は求めていませんから。僕は、もうすぐ40歳になるんですが、多分、そういうディテールにこだわるのは40歳以上の世代だけだと思う。安く買えるものが多くあるのに、それを否定するファッション業界の考え方にこそ疑問を感じます。安くていいもののために、業界がだめになったと批判する業界人のほうに問題があるのでは。

である。熟読してもらいたい。

これは昨日ご紹介した「途中でやめる」の山下陽光さんの考えにも一種通じると感じる。
やはり一般大衆にとってはある程度の「安さ」は重要なのである。
100円にまで下げる必要はないが、1000円~数千円程度で買える商品は世の中に受け入れられやすい。ユニクロのようにそれがある程度の品質の高さを維持していればなおさらである。

そこを否定しても時代も消費者心理もバブル期には戻らない。
基本的にマスに売ろうとするならある程度の安さは必要だし、高額品を売ろうとするなら販売枚数は多くないことを前提とすべきである。

1着15万円が話題の気仙沼ニットだって、一番最初に製造できたのは4枚で、そこに対して100件の注文があったとされている。操業当初で知名度がなかったとはいえ注文は100件しかなかったわけである。
高額品の需要とはその程度だと考えた方が良い。

真の上流階級や一部のマニア愛好家のみをターゲットとした高額ブランドを目指すならその方向性は正しい。
しかし、高額品を提案しながらマスにも売りたいという美味しいとこ取りはほぼ不可能に近いと考えた方が良い。

それが、筆者の目に映るアパレル・ファッションビジネスの現状である。

低価格を追求するデザイナーズブランド

 いろいろなタイプの「若手デザイナー」がいるもんだなあと改めて感心した。

8月22日・23日と京都でテキスタイル・マルシェを開催したが、ジョイントで参加してくれたデザイナーズブランド「途中でやめる」を主宰する山下陽光さんの考え方は特徴的で興味深いものだった。

途中でやめる http://tochudeyameru.com/

念のためにいうと、ジョイントをセッティングしていただいたのは、ひなやの伊豆藏直人社長であり、筆者にはそれほどの力量と人脈と人望はない。

「途中でやめる」とは何とも変わったブランド名だが、最近はこういう変わったブランド名のデザイナーズブランドが増えてきた。
今回ジョイント参加してくれたほかの2ブランドは「旅する服屋さん メイドイン」と「nusumigui(ぬすみぐい)」であり、こちらも変わったブランド名である。

「途中でやめる」は古着リメイクを中心とした品ぞろえだが、一番驚かされるのはその価格設定である。
ラグジュアリーブランドの手法の上辺だけを見て、ありえないような高価格に設定したがる向う見ずなブランドが多い中、このブランドはありえないほどの低価格に設定している。

例えば写真のTシャツは2000円である。

写真

昨今のブランドだから当然、インターネット通販も行っているが、何と配送料は全品無料である。
この2000円Tシャツも送料無料なのだから驚かされてしまう。

期間中、山下さんにいろいろと考え方を伺ったが、おそらく全貌は話しつくしていないだろうと思われる。

まず、山下さんがこの低価格に設定したのはユニクロへの対抗である。
アパレル業界でユニクロに対して敵愾心を持つ人は多い。山下さんだって全肯定ではない。
しかし、ユニクロの製品品質は価格に比べると悪い物ではなく、山下さんはユニクロの価格設定を肯定している。
と、いうよりはユニクロをいくら否定してみても非現実的だという考えに至った。
その上で、これに対抗するには低価格だという結論に達した。

筆者が興味深かったのはデザイナーズブランドで「低価格」に注目し、実践しているところである。
小ロット生産が基本であるデザイナーズブランドは基本的に「いかに高く売るか」に注力しており、ときには胡散臭い物語まで付与して高価格設定にしてしまう。
「低価格」を実践するデザイナーズブランドは唯一無二ではないだろうか。

それでも山下さんは「価格で同等でないとユニクロとは勝負できない」と言い切る。さらに「できればユニクロの半額ぐらいにまで値下げしたい」という。

小ロット生産で、しかも送料無料だから利益率は悪い。
おそらく悪いなんてもんじゃないだろう。むしろ持ち出しているんじゃないかと思う。

ビジネスとして見ると、現在の生産規模で続けた場合、早晩資金繰りができなくなるのではないだろうか。
しかし、考え方としては面白いし、斬新で独創性がある。
莫大な資金を引っ張ってくるスキームがあれば、大きく成長できる可能性はある。

それ故に筆者はこのブランドに一抹の可能性を見ている。
出来上がった商品の良し悪しは筆者にはわからない。
テイストから見て筆者が袖を通すことは絶対にない。
それでもブランドの思想は面白いと思う。

多くの名門ブランドやデザイナーズブランドがユニクロに対して敵愾心を燃やすのに対して、まず「ユニクロは価格面も含めて肯定しないと始まらない」と言い切る山下さんの考え方には賛同したい。

ユニクロに対して敵愾心を燃やすくせに、「ユニクロでバカ売れしたあの商品と同じ素材をくれ」と恥ずかし気もなく言い放つ大手アパレルよりはよほど山下さんの方が好感が持てる。

このブランドがある程度の売り上げ規模に育つことができたら(育てることができたら)、日本のアパレル業界は大きく変わるのではないかと思える。

かけ離れつつある業界の常識

 業界ではそんなに価値があるとされていないのに、一般消費者は価値があると考えている物がある。
反対に、業界では価値があると思われているのに、一般消費者は価値をそれほど感じていない物がある。

ときどき実際にお会いさせていただいている人気ブロガーの和田一郎さんがこんなエントリーをあげておられる。

http://kyouki.hatenablog.com/entry/2014/08/19/081636
非常に短いブログなので全文を読まれれば良いと思うが、以下に引用する。

着物業界での固定概念が消費者には伝わっていないという事例を2つ挙げておられる。

まずは

ひとつ目。

「ポリエステルと絹で同じデザインの商品があり、値段が同じなら、ポリエステルを選ぶ」というお客様も、最近は多い 
である。

そこには、「絹の方が、圧倒的に高価で品質も良いもの」という前提がない。絹であることの煩わしさ、手入れにお金がかかったり、保管に気をつかう必要があったり、子供が駆け寄ってきた汚れを心配してつい避けたくなったりして、行動が制限されたりすることを考えれば、トータルで見た場合「モノ」としての価値は、どちらが上とも言えないと思っているお客様が増えてきたということだ。

次に

ふたつ目。

「着物を買うと保管場所がいるのが嫌だ。だからレンタルする」

 「レンタルの方が安い」からというのが主たる理由ではなく、保管するのが煩わしいのでレンタルするという人が増えたというのだ。たしかに、最近では断捨離とか、モノを多く持たずにシンプルに生きることに皆の感心が向いていそうだ。着物の保管には、やはり和ダンスがいる。そうやってモノが増えていくことそのものが嫌という人も多いらしい。

とのことである。

絹とポリエステルの議論でいうなら、絹は圧倒的に高価な素材である。
それなりの機能性もある。しかし、難点もある。
洗濯を含めた手入れが面倒くさいことである。
筆者はユニクロのシルク製品が思ったほど売れなかった原因の一つにはこの手入れの面倒くささがあると考えている。

3900円くらいで購入したシルクのブラウスをわざわざクリーニングに出そうという人はあまり多くないだろう。
なぜなら、何度もクリーニングに出し続ければ、その都度費用が発生する。
合計すれば数回目くらいには購入金額をクリーニング代が上回ってしまうことになる。

安い物を有料でメンテナンスするということに抵抗を覚える消費者は多いのではないか。

次のレンタルの方が便利だという消費者。
着物は以前は何世代にも受け継がれる財産だった。
とくに訪問着や振袖は。
筆者の亡くなった母も着物を親から受け継いだし、自分で購入した着物と合わせて次に引き継いでいる。

しかし、着物は管理が面倒くさい。
とくに高額だったとなればなおさらだ。
もし、何かあれば廃棄しなくてはならないからもったいない。

そして、保管場所も必要になる。
以前は着物を所有することがステイタスだったが、現在はそのステイタス性は崩れたと見るべきだろう。

今回は着物業界のことだが、これは洋服業界にも通じることだろう。

筆者も綿100%のシャツよりも少しポリエステルが混紡・交織されているシャツの方が洗濯してもシワになりにくいし、速乾性もあるから便利だと感じている。
防シワ加工や速乾機能を持たせていなくてもだ。

業界の固定概念が実は消費者に届いていなかったという事例はほかにいくつもあるのではないか。

そのあたりをもう一度見つめなおしてみてはどうか。

山ガールが過ぎ去って

 先日、あるアウトドアブランドの展示会にお邪魔した。
5年ほど前は「山ガール」で盛り上がっていたが、すっかり沈静化しているという。
しかし、10年前に比べればアウトドアウエアの需要は確実に広がったとも。

その担当者の分析では、5年前にブームで参入した「山ガール」たちのうち、残る人は残り、撤退する人は撤退してしまった。そんな状況なのだそうだ。
しかし、10年前にはアウトドア人口そのものがもっと少なかったからそのころと比べると、ブームが終わった今の方が市場規模は大きいのだそうだ。

そして、その市場でも二極化が起こっており、本格的なプロ仕様の商材は堅調を維持している。
またタウンカジュアル用途の低機能品も伸びているという。
落ち込んでいるのは中間商品である。
プロ仕様ほど高機能ではないが、タウンカジュアル用途ほど低機能でもない。
それなりの機能があり、標高数百メートルレベルの山に使用するような中間機能のアウトドアウエアの需要が鈍っている。

「山ガール」ブームが盛り上がったのはこの中間層が増えたことによるものだろう。

山ガールブームはすでに3年ほど前から陰りが見え始めており、マスコミもアウトドア業界も次のブームを作るべく仕掛けていた。

釣りガールだの、空ガールだの。

ただし、どれも不発に終わっている。
完全な空振り三振ではないので、野球に例えると内野安打程度のヒットといえるだろうか。
二匹目・三匹目のドジョウは柳の下にはいなかったわけである。

それはさておき。

このブランドの企画担当者は長らく登山を定期的に行っている。
彼によると、10年前までは各山小屋は本気で廃業を検討していたそうだ。
その理由はお客の減少によるものである。
山小屋業界のことはよくわからないのだが、彼によると「錚々たる山小屋でさえ廃業を考えていた」という。

しかし、山ガールブームで山小屋は息を吹き返すことができた。
要するに利用客が増えたからである。

中には「継がない」と言っていた息子が帰ってきて跡を継いだ山小屋まであるそうだ。

それはそれでめでたいことではあるが、今後、山需要が現状を維持するかどうかはちょっと読み切れない。
10年前ほどに市場が縮小することはないとは思うが、大きく伸びることはないだろう。
良くて現状維持ではないか。

このブランドは来春夏企画でタウンユースのカジュアル用途のウエアを強化している。
現状維持をさせようとするとカジュアル強化しかないというのが理由である。

現状維持させるためのもう一つの手段としては販売価格の値上げがあるが、それが有効に機能するとはちょっと思えない。

10年くらい前まではアウトドアなんて本気でやっている人は数少なかったから、カジュアル需要のみに向けた「なんちゃってアウトドアブランド」が数多くあった。

今回のアウトドアカジュアルはそういうことにはならないのではないかと考えている。

学ぶべき点を整理してみた

 産地製造業に非常に参考になる事例として「気仙沼ニット」がある。

つい最近も記事で紹介されていた。

1着15万円のカーディガンに注文殺到! マッキンゼー出身者が発掘した、地方ビジネスの可能性とは?
http://logmi.jp/19239

要点を書きだすとこうだ。

東日本大震災の被災地の気仙沼で復興支援の新規プロジェクトとして立ち上がった手編みニット。
もともと気仙沼はニット産地でも繊維産地でもなんでもない。
被災で職を失った漁師さんの奥さんたちを起用した企画である。

漁師さんの奥さんたちは網を修理したりするので、編み物には慣れている。
しかしプロの領域ではないのでちょっと訓練してからニットを手編みし始めた。

標準的なフィッシャーマンズセーターは編むのに50時間くらいかかるそうだ。

そこで販売価格は15万円くらいに設定した。
記事中にもあるように、

15万円で売れるカーディガンを作ろう、という風に考えたんですね。なかなかです。そうしたらもう、最高の物を作らなくてはいけない。単に「編むのに時間がかかったから高いんです」、では通用しないので、最初に毛糸を作る所から始めたんですね。最高のカーディガンを作るんだったら、最高の毛糸を作ろうと。

という価値付けを行った。

それで、世界中の羊毛を集めて、何度も撚り(より)をかけなおして、糸を作った。もちろんデザインも大事です。人気の編み物作家さんにお願いしました。

という取り組みも行った。

その結果、

編み手さんが4人しかいなかったので、4着しか出来なかったんです。オーダーメイドで作ります。4着のこのカーディガン、欲しい人! って募集掛けたんですね。ちゃんとお客さんいるかなって、すごいドキドキしたんですけど、何と100件もの応募がありました。

というすばらしい結果を生んだ。

復興支援に加えて、被災した漁師さんの奥さんたちが手編みするという背景。
そして最高級毛糸を探し出して、デザイナーさんにデザインを依頼するという物語性。

背景と物語性を付与する手法は国内産地企業が大いに見習う部分である。
それがあるから1着15万円もするセーターにコンスタントに注文が入る。

ただ、国内の産地企業が勘違いしないように気を付けないといけない部分もある。
まず、これは大量生産の工業ではなく、ハンドメイドの手工業であるという点である。

国内の繊維製造業はある程度の大量生産を前提とした工場である。
ここをごっちゃにすると、

希少性の高い生地を10メートル織って、1メートルあたりン万円という値付けをすれば良い

というような間違った事業プランを立ててしまうことになる。

縫製という工程は手作業に頼る部分が多いが、縫製工場はそれを人数を集めることで効率化している。
だから1型あたり100枚とか50枚とかのミニマムロットが工場によって設定されている。
通常の縫製工場でもこの手工業的なやり方を取り入れることは難しい。

次に「1着15万円」という価格設定に目を奪われすぎないことである。

これはあくまでもハンドメイドニットで、編み手にもそれなりの工賃を渡すためにはじき出された価格である。
この金額のみに目を奪われすぎると、往々にして国内産地企業は

価格設定は高ければ高いほど値打ちが出て売れる

と考えがちになる。

これは自社の企業規模、生産規模と照らし合わせてみないと絵に描いた餅に終わる。

以上の指摘に対して「そんなバカな。考えすぎだ」と思われる方もおられるかもしれないが、実際に産地の人々と行き来してみると、これに類した言葉をよく耳にする。
あながち筆者の杞憂ではないのである。

そんなわけで、「気仙沼ニット」の事例に関して国内産地企業は、背景・物語性の付与と、それの発信の方法を学ぶことがベストであると感じる。

追記:昨日、弟が急逝したので、明日と明後日はこのブログをお休みします。

さらに革新性を追求してみては?

 世間は夏季休暇なのでゆるーく。

今日は繊維とかアパレルとはあんまり関係のないことを書いてしまう。

百貨店の食品偽装問題が話題になった時期があった。

「○○産」と書いていましたが、実は「○○産」ではありませんでした。

みたいなことが過去の事例も含めてあちこちの百貨店から頻出した。

で、その時に疑問を感じたのが「なぜ、回転寿司に使われる『代用魚』は大きな問題にならないのだろう?」ということだった。
wikipediaにも代用魚の数々が列記されている。

鯛=ティラピア
鱸(スズキ)=ナイルパーチ
スケトウダラ=メルルーサ
マグロ=アカマンボウ

などなど。

これも食品偽装の一環ではないのかと素人にはそう思える。
そんな疑問を感じていたら、先日、アクアカタリストというサイトにこんな記事が掲載された。

深海魚使えず回転寿司から悲鳴 大量閉店、前年割れも相次ぐ
http://aqua2ch.net/archives/39239491.html

とくに回転寿司を苦しめているのは、原価の上昇だ。世界的に魚をはじめとした水産資源の価格が上昇しており、薄利多売のビジネスモデルには厳しい状況だ。

そしてそれをかつて補っていたのが深海魚をはじめとする代用魚だった。だが、食品偽装問題が浮上し、企業のコンプライアンスが問われる時代になると、代用魚で「タイ」や「ヒラメ」として提供することが難しくなっている。

とある。
やはり、代用魚・代替魚は大々的に報道されないだけで、ひそかに問題視されていたようである。
筆者にはそれは当然だと感じられる。

そこでアクアカタリストで紹介された記事にはこんな解決策が提示してあった。

回転寿司の“どんな料理でも提供する”エンタメフードコート化を、こういった逆境に促進されたものだったのだ。こうなったら一周まわって深海魚などの珍魚を扱う、さらなるエンタメ化を突き進んで欲しいと思うのだが、どうだろうか。

である。
この意見には筆者は賛成である。

以前のままの表示でとどめてほしいという意見があることも承知している。
その心情はわからないではない。
ナイルパーチの握りとか、ティラピアの握りなんて何となく語感的にもしっくりこない。

しかし、用意できないものに固執していても仕方がない。
記事で提示されたような解決策が最善だと思われる。

結論に至る経緯は違うが、最終的にこれと同じような解決策を提示した漫画がある。

「将太の寿司2」である。
2というからにはこれは続編だ。

前作は関口将太という少年が寿司屋で修業して成長していくという物語である。
今作はその18年後の設定で、関口将太の息子である将太朗と、関口将太最大のライバルだった佐治安人の息子、佐治将太の主人公二人体制だ。

その中で、つぶれかけた個人経営の零細寿司屋を立て直すための方策が、これに近かった。

釣り人が釣った魚を店で買い入れ、それを寿司にする。
趣味の釣り人が釣る魚だから、通常のネタになりそうな魚以外の種類もたくさんもちこまれる。
ウツボだとか小型のサメだとか。
そういう珍しい魚を生簀で見せながら、それをさばいて寿司にする。

これによって子供も喜ぶエンタメ性を備えた寿司屋になって、その寿司屋の経営が立ち直るという展開である。

まあ、漫画なので実現可能かどうかはわからないが、
作者の寺沢大介さんなりに考えた解決策と感じられる。

その解決策が記事で提示されている方策とほぼ一致する。
記事が掲載されたのと、漫画で提示されたのもほぼ同じ時期である。

魚好きの人にはいささか抵抗があるかもしれないが、そこまで魚に対して思い入れのない筆者にとっては、むしろいろいろな種類の魚が楽しめる良い機会だと感じられる。

問題はどこの回転寿し屋が最初にこのプランをやり始めるかだろう。
低価格・低コストで運営するには、従来型の魚の使用は不可能になりつつある。
もともと革新性で市場を切り開いてきたのが回転寿しなのだから、さらに革新性を追求してもらいたいと思うのだが。

「知っているブランド」≠「欲しいブランド」では?

 もう何か月か前に関係者から聞いた案件がようやく現実化にこぎつけたようだ。

ボブソン、マックハウス限定モデル 
http://www.senken.co.jp/news/bobson-mac-house/

新生ボブソンにとっては明るい話題である。
本文にもあるように、なにせ初回投入量は5万本である。事業にも弾みがつく。
まずはめでたい。

さて、いつものように記事を見ながらあれこれとりとめのないことを考えてみたいと思う。

カジュアル専門店のマックハウスは9月上旬から、ジーンズメーカーのボブソンホールディングス(HD)の「ボブソン04(ゼロヨン)ジーンズ」のマックハウス限定モデルを販売する。90年代に人気を集めた同商品をリニューアルし、ブランド認知度の高い40~50代の男性を対象に「はきやすいジーンズ」として売り込む。

 全ての商品にストレッチ性をもたせ、ジーンズのほか、米国産ピマ綿のサテンカラーパンツや「テンセル」ツイルのノータックトラウザーなど、はき心地や素材にこだわったボトムを揃える。

とある。

90年代以降でボブソン最大のヒット商品となった「04ジーンズ」の名称の復活なのだが、筆者はちょっと疑問に感じる。
というのは、本文を読むと、ジーンズの素材はストレッチデニムだと読める。
「04ジーンズ」の名称の元はレーヨンジーンズで、レーヨンを「04」と置き換えた名称である。
レーヨンないしはそれに類するパルプ系繊維を使用せずに「04」と名乗られてもなんだか微妙に違う気がする。
しかもターゲットは40~50代男性であり、04ブームの最盛期をリアルに体験している世代である。
ターゲット層は違和感を抱くのではないだろうか。
テンセルを使うのはノータックトラウザーに限定されるように記事は読める。

もし、ターゲット層が04を知らない若い世代なら、名称のみを引き継いだ新製品でも構わなかったが、04ど真ん中世代に対してではターゲット層と提案内容はミスマッチではないかと感じる。

さらに続きを見てみる。

中国生産で、価格は5900~6900円。ボブソンHDが現在販売しているボトムよりも低めの価格帯のセカンドラインとして、マックハウスの店舗約480店で販売する。

とのことだが、これは新生ボブソンのブランドイメージを低下させるのではないか。
世間的にはこういうコラボは往々にしてある。
その場合は「限定」ということがよくわかるようにブランド名を微妙に変えている。
筆者は「ボブソン・マックハウススペシャル」とか「ボブソンforマックハウス」のような表記の方が良かったのではないかと考える。
往年の大ヒット商品名の「04」の使い道はここではないとも感じる。(あくまでも個人的に)

今回のコラボの経緯について

マックハウスの調査によると、消費者のボブソンブランドの認知度は60%程度あり、特に40代以上で知名度が高い。同社は郊外や地方を中心に店舗展開しているため、「中心客層とボブソンブランドをよく知る世代が合致する」とみて、40代以上の男性をターゲットに据えた。

とある。

しかし、知っているブランド名と欲しいブランド名は必ずしも合致しない。
例えば「レノマ」というブランド名の知名度は高いが、「レノマ」商品を欲しいと感じている消費者はどれほど存在するだろうか。

そういうことである。

以上のようなことから何となく「少しズレた感」があるのだが、何はともあれ、投入商品の消化率が高いことを願わずにはいられない。

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