低価格を追求するデザイナーズブランド
2014年8月25日 未分類 0
いろいろなタイプの「若手デザイナー」がいるもんだなあと改めて感心した。
8月22日・23日と京都でテキスタイル・マルシェを開催したが、ジョイントで参加してくれたデザイナーズブランド「途中でやめる」を主宰する山下陽光さんの考え方は特徴的で興味深いものだった。
途中でやめる http://tochudeyameru.com/
念のためにいうと、ジョイントをセッティングしていただいたのは、ひなやの伊豆藏直人社長であり、筆者にはそれほどの力量と人脈と人望はない。
「途中でやめる」とは何とも変わったブランド名だが、最近はこういう変わったブランド名のデザイナーズブランドが増えてきた。
今回ジョイント参加してくれたほかの2ブランドは「旅する服屋さん メイドイン」と「nusumigui(ぬすみぐい)」であり、こちらも変わったブランド名である。
「途中でやめる」は古着リメイクを中心とした品ぞろえだが、一番驚かされるのはその価格設定である。
ラグジュアリーブランドの手法の上辺だけを見て、ありえないような高価格に設定したがる向う見ずなブランドが多い中、このブランドはありえないほどの低価格に設定している。
例えば写真のTシャツは2000円である。
昨今のブランドだから当然、インターネット通販も行っているが、何と配送料は全品無料である。
この2000円Tシャツも送料無料なのだから驚かされてしまう。
期間中、山下さんにいろいろと考え方を伺ったが、おそらく全貌は話しつくしていないだろうと思われる。
まず、山下さんがこの低価格に設定したのはユニクロへの対抗である。
アパレル業界でユニクロに対して敵愾心を持つ人は多い。山下さんだって全肯定ではない。
しかし、ユニクロの製品品質は価格に比べると悪い物ではなく、山下さんはユニクロの価格設定を肯定している。
と、いうよりはユニクロをいくら否定してみても非現実的だという考えに至った。
その上で、これに対抗するには低価格だという結論に達した。
筆者が興味深かったのはデザイナーズブランドで「低価格」に注目し、実践しているところである。
小ロット生産が基本であるデザイナーズブランドは基本的に「いかに高く売るか」に注力しており、ときには胡散臭い物語まで付与して高価格設定にしてしまう。
「低価格」を実践するデザイナーズブランドは唯一無二ではないだろうか。
それでも山下さんは「価格で同等でないとユニクロとは勝負できない」と言い切る。さらに「できればユニクロの半額ぐらいにまで値下げしたい」という。
小ロット生産で、しかも送料無料だから利益率は悪い。
おそらく悪いなんてもんじゃないだろう。むしろ持ち出しているんじゃないかと思う。
ビジネスとして見ると、現在の生産規模で続けた場合、早晩資金繰りができなくなるのではないだろうか。
しかし、考え方としては面白いし、斬新で独創性がある。
莫大な資金を引っ張ってくるスキームがあれば、大きく成長できる可能性はある。
それ故に筆者はこのブランドに一抹の可能性を見ている。
出来上がった商品の良し悪しは筆者にはわからない。
テイストから見て筆者が袖を通すことは絶対にない。
それでもブランドの思想は面白いと思う。
多くの名門ブランドやデザイナーズブランドがユニクロに対して敵愾心を燃やすのに対して、まず「ユニクロは価格面も含めて肯定しないと始まらない」と言い切る山下さんの考え方には賛同したい。
ユニクロに対して敵愾心を燃やすくせに、「ユニクロでバカ売れしたあの商品と同じ素材をくれ」と恥ずかし気もなく言い放つ大手アパレルよりはよほど山下さんの方が好感が持てる。
このブランドがある程度の売り上げ規模に育つことができたら(育てることができたら)、日本のアパレル業界は大きく変わるのではないかと思える。