今年のお盆も亡母の実家の墓参りに行ってきた。平たく言うと母方の祖父母の墓参りである。

だいたい正月とお盆の年2回、少なくともどちらか1回は行っている。別に墓参りを欠かしたところで何の不利益もないのだが、昔からの風習に慣れているのと、両親ともに死んでしまったので、代わりに当方が行った方が良いだろうという考えである。

亡母の弟2人はまだ健在で、当方にとっては母方の叔父ということになるのだが、そこそこ交流がある当方より上の世代の親類ということになるとこの2人しか残っていない。今年で76歳と72歳だろうか。まあ、この年齢になると1歳や2歳間違っていてもさして問題でもない。ジジイはジジイである。

2人ともおしゃべり好きなジジイなのだが、結構、昔の話なんかを聞くのが当方は好きである。昭和30年代・40年代の話が聞けて参考になる。

 

 

毎日電車に乗っていると、サラリーマンの男女がスーツ姿にリュックを背負っていることは全く珍しくなくなった。リュックでなければメッセンジャーバッグを含めたショルダーバッグ類だろうか。いわゆる手提げカバンを持っている人はかなり少なくなっていると感じる。

リュックやショルダーバッグなどを肩にかけるのは、このブログのコメントでもたびたびあるように、高級ウールを使用したスーツならベルトをかけている部分の生地がこすれて傷みやすい。これは間違いない。

しかし、当方のような庶民が電車の中で見かけるサラリーマン男女に高級スーツらしき物を着用している人はほとんどいない。リュックやショルダーをかけている人のスーツはだいたいが合繊100％の高機能性スーツか、合繊高配合の機能性ベーシックスーツか、である。

なので、ベルトをかけている部分の生地が摩擦で傷みやすいということもないのだろうと考えられる。

 

何度も書いて来たように、スーツ生地が傷みやすいというデメリット以外は、リュックやショルダーの方が手提げカバンよりも格段に利便性が高い。両手がフリーになることは何事においても快適である。雨の日なんて傘をさしていても、もう片手がフリーなので何とも便利である。これが手提げカバンなら両手ともに塞がってしまい不便なことこの上ない。

ビジネススーツ＋リュック、ショルダーという着こなしがかなり市民権を得ている現状に対して、いわゆるファッション業界系の保守派からは

「リュックやショルダーなんてもってのほか、手提げカバンが正統で伝統的」

という主張が多く見られる。

恐らくは欧米基準からすると正当で伝統的なのだろうとは思うが、日本からすると「正当で伝統的」とは一概に言えないのではないかと思う。

 

 

今回の墓参りで叔父たち2人と仕事用バッグについての話題が出た。この叔父たち2人からすると

「俺らの若い頃（40～50年前）は、手提げカバンなんか持って通勤している人はほとんどいなかった」

と言うのである。

ちなみにこの2人の職業は繊維・アパレル系ではない。一人は準公務員、もう一人は建設会社勤務である。彼らが言うのは、40～50年前のサラリーマンは、必要な書類だけを会社のＡ４サイズの茶封筒に入れて持ち歩いていたというのである。営業時はもちろん、通勤も茶封筒を小脇に抱えてである。

そういえば、当方が幼少の頃、70年代～80年代前半、サラリーマンだった亡父はＡ４茶封筒を抱えて通勤していた記憶がある。

何なら、その当時の「サザエさん」でも波平とマスオ、ノリスケは茶封筒を抱えて出勤していたと記憶している。サザエさんに限らず、この当時の漫画・アニメでは茶封筒を抱えたサラリーマン男性という描写が多かった記憶がある。

 

 

 

ではなぜ、茶封筒で十分だったのかというと、この当時のサラリーマン男性が持ち歩く荷物といえば、財布・名刺入れ・手帳・ペン・ポケットティッシュ・ハンカチ・定期券くらいだったからである。

恐らく、スーツのジャケットの内ポケットとズボンの2つの尻ポケットを使えばほぼ収納が可能だろう。当然、この当時はスマホどころか携帯電話も無い。タブレットも薄型ノートパソコンも無い。従ってこれらの充電器を持ち歩く必要性も無い。

通勤電車の中では寝ているか、新聞を読んでいるか、本を読んでいるか、になるが、新聞なら読み終わったら駅か会社のゴミ箱に捨てればいい。本は手で抱えるか茶封筒に入れておけばいい。あとはタバコだろうか。それとてどこかのポケットに収納できる。

バブル期以降は大型の手帳を持っている人も増えたが、この頃はいわゆる従来型の新書サイズの手帳を持っている人がほとんどだったからこれもジャケットの内ポケットに収納できる。

となると、たしかに通勤にカバンは必要ない。

せいぜい書類の持ち運び程度になる。なんなら「会社への通勤だけなら、書類が不要なら茶封筒も要らないから、通勤退勤は手ぶらで電車に乗ることも多かった」（叔父談）というくらいで茶封筒すら要らないということにいなる。

 

現在、いわゆる由緒正しい手提げカバンを持ったサラリーマンスタイルの方と商談をすることもあるが、その場合、タブレット端末機か薄型ノートパソコンのどちらか、もしくはその両方をカバンに入れておられる人がほとんどで、さらにはコンセント類や充電器類も入っているため、筋トレ用具かと思うほどに重くなっていることも珍しくない。

こうなると、銀行などのお堅い職場以外のサラリーマンはリュックやショルダーを使用せざるを得ないだろう。営業活動やプレゼンにタブレット、薄型ノートパソコンが必要不可欠になった現在、サラリーマン男女が手提げカバンを使用することは今後ますます減少し続けるだろう。手提げが残るとしても、持ち手が長くて肩にかけることもできるトートバッグタイプくらいではないかと思う。

 

欧米基準の正当や伝統はさておき、我が国の昔ながらのサラリーマンスタイルということになると、手提げカバンではなく、茶封筒を小脇に抱えるスタイルということになるだろう。「古くからの伝統」と思い込んでいることは、意外と新しいという場合が茶封筒に限らず世の中にはある。

まあ、タブレットとノートパソコンが必須となった現在ではこの茶封筒スタイルに戻ることは不可能だから、その重量や周辺機器の収納ということも考えると、サラリーマンの手提げカバンが廃れるのも当然の結果というしかないのではないかと思う。

 

 

最近全然見かけなくなったオロビアンコの手提げバッグをどうぞ～