オリジナルブランドを立ち上げるならターゲット設定は重要という話
2023年8月29日 製造加工業 5
当方が働き始めたのは90年代のバブル崩壊以降なので、70年代~80年代の国内アパレル市場の動向やら雰囲気は分からない。体験していないからだ。
業界の多くのご先輩方からは「当時は作ったら作っただけ簡単に売れた」というお話をよく聞く。もちろん不振で倒産するアパレルも多々あったが、それ以上に好調なアパレル企業の方が多かった。
以前話題となった「アパレル興亡」というノンフィクション調のフィクション小説にはその当時の雰囲気がある程度コンパクトにまとめられていると思う。
1964年の東京オリンピック(当方は生まれていない)で戦後復興がほぼ完了したとみなされているものの、実態としてはまだすべての復興が完了したわけではなかったし、衣食にも困る人々がたくさんいた。何よりも手持ちの洋服やら家具やらも少なかったし、既製服ビジネスも生まれたか生まれていないかという状況だった。
こういう状況を鑑みると、大衆の洋服への渇望はすさまじかったと容易に想像できるから、ターゲットやらマーケティングやらという小難しいことを考えなくても、作ったら作っただけ売れるということになりやすい。
しかし、高度経済成長とバブル経済を経た後、経済成長は実感できなくなったとはいえ衣食には事欠かない状況になると、作ったら作っただけ売れるなんていうことはなくなる。
すでに手持ちの衣料品は何枚かあるのだから目に付いた物を何でもかんでも買いまくるなんていう消費者はいなくなるのは当然である。
そうなると、ターゲット設定やマーケティング戦略、販促などが必要になり、それを事細かく設定しなくては売れないということになる。
逆に万人に大量に売りたいのであれば、万人が着やすいベーシックな商品を低価格で供給する必要性に迫られる。これが米国のGAPであり我が国のユニクロだといえる。
現在、ファッションビル向け~百貨店向けの価格帯のブランドでターゲット設定やマーケティング戦略を組んでいないブランドは成否にかかわらず皆無だといえる。
成果が出ていない失敗ブランドでも幾何かの戦略は必ず組んでいる。ただ、思考方法が間違っているに過ぎない。
現在「良い物を作っていれば必ず売れるんだ」と盲信している国内アパレルブランドは皆無だろう。
インターネットの普及、商習慣の崩壊、製造拠点の海外移転、コロナ不況など様々な要因が絡み合って、オリジナルブランドを立ち上げる国内の工場が増えた。
2000年代後半くらいまでは「契約しているアパレルさんに怒られるから」とオリジナル製品の企画製造販売に二の足を踏んでいた工場も少なからずあったが、2010年代後半になると「座して死を待つよりは」とばかりにオリジナル製品の企画製造販売に乗り出す工場は体感としては圧倒的に増えた。もう恐らく、それらの動きに目くじらを立てて恫喝するようなアパレル企業は皆無だろう。
当方がこの業界に入った当時よりも大手アパレル企業内には物作りに詳しい人が激減したと言われている。その結果としてOEM・ODM企業が重宝されるようになったわけだが、工場側にもいわゆる「ファッション」や「市場動向」に詳しい人も増えた。アパレル側に知識がなく、OEM企業を中継しないで工場側が商売をしようとするならファッション動向や市場動向に詳しくならざるを得ない。
おそらくその昔、国内繊維製造にて分業体制で各加工場が独立法人として分布し出した頃は、モノづくりを明確に指示できる知識が依頼主にあったに違いない。
(中略)
昨今は依頼側の各分野に対する知識は当時に比べ格段に劣っているのはいうまでもない。これ自体を嘆いても仕方がないので出来ることをやって前に進むしかないというのはいつも自分の発信を通して啓蒙しているところ。だけど、受託製造加工サイドと企画サイドの感情的溝は確実にこの知識量の乖離から生まれている。
委託者もわかってるようでわかってない。でも受託者はわかってるような反応を見てわかってると思い込む。
いつもの山本晴邦さんのブログである。
生地工場での勤務経験もあり、結構イケてるブランド群からのOEMも手掛ける山本さんの実体験に基づいたブログはいつも参考になる。
ここで触れられているように「委託側(いわゆるアパレル企業)」の製造加工に対する知識の低下は川上・川中段階では最早定説になっている状況にある。
自衛手段として、若手の工場経営者はファッショントレンド動向やファッション市場動向に詳しくならざるを得ない。それがゆえに、工場がオリジナル製品・オリジナルブランドを立ち上げることが以前に比べると容易になっている。
だが、ターゲット設定も含めたマーケティング戦略や販路設定などはイマイチ学べていない工場系ブランドも少なからず見受けられる。
先日、業界内でも顔の広いご先輩に久しぶりにお会いしたのだが、いくつかの工場系ブランドから
「海外展示会に出展して販路を拡大してみたいが、何か良い展示会はないですか?」
と尋ねられているというが、ご先輩によると「こういう質問が一番困るし、無意味である」と言う。これには当方も賛同する。
例えば、「今日の夕飯は何が食べたい?」と尋ねて「美味しければ何でもいい」という応えが返ってくるのと同じである。
国内展示会もそうだが、海外展示会もそれぞれに規模感も違えば、来場者の層も異なる。また価格帯や好まれるテイストも展示会ごとに異なるだろう。
そうなると、自ブランドが狙うターゲットは何なのか?それと最も合致している割合が高い展示会は何なのか?を考える必要がある。
仮にめちゃくちゃ評判の高いトラッド系の展示会があったとして、そこにサイケデリック調のブランドやパンクロック調のブランドを出展したところで受注があまりつかないだろうということは簡単に想像できる。
要は、自工場のオリジナルブランドのターゲット設定やテイストに合う展示会は何なのか?ということを問えば「〇〇」という応えを返しやすいが、漫然と漠然と「何か良い展示会ありますか?」と尋ねられても返答に窮するだけである。
アパレル企業は頼りにならないからと、工場側がファッショントレンド動向やファッション市場の動向を学んで商売に活かせていることは素晴らしいことだが、オリジナルブランドを成功させたいのであれば、ターゲット設定や価格設定などマーケティング戦略も学ぶ必要がある。
そんなわけで工場側の今後の奮闘に期待してみたい。
comment
-
-
とおりすがりのオッサン より: 2023/08/29(火) 1:19 PM
山本晴邦さんのブログ読んだら、アパレルは製造の依頼を「指図書」とかって言うそうで面白いっすね。
うちみたいな金属加工業だと、JIS(日本工業規格)規格の図面が全てって感じで、図面に書いて無いことを後からグダグダいうんじゃねぇよ、ってな感じで仕事してますね。
ま、とはいえ手書きでJISに則ってない図面とかでも受注しちゃったりして、後から図面に書いてないことをグダグダ言われて、めんどくさいことになることも度々あるんですがw
しかし、昭和のジイさんはホントテキトーな奴らばかりで困ります。図面もFAXで5回位は転送してきたんじゃないかというグズグズのやつで受注しちゃったりするんすよね。昭和脳の人、早く居なくなって欲しいっす。 -
あわあわ より: 2023/08/29(火) 3:24 PM
>南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/08/29(火) 12:43 PM
それって山本さんにも言ってるんだよね。いい加減そのコメントやめたら?自分が上手く行かなかったことが他の人にも当てはまるとは限らないよね。
南さんも山本さんも『今までの視点ではダメだよね』ってことをずーっと言ってるよね。それってあんたにも当てはまると思うんだけど違うのかな?全て間違ってるから。確かに誰でも作れる値段で勝負する時代ではないけど、そんなのみんなわかってるって笑
自分がつまらない人生だからって人もつまらない人生とは限らないってことでしょうしかも南さんからイケてるOEMって書いてるのに笑
何度も言うよ。売れてるブランドもあるから。そろそろ黙ってたら?浅はかで視野が狭すぎだって。今の繊維ビジネスも知らないくせに
-
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/08/30(水) 1:42 PM
熊谷の人>
もうクルクルパ~相手にするのも飽きましたよね?
新人を要期待ですなぁw -
BOCONON より: 2023/08/30(水) 3:59 PM
“principle of charity” がないとね。
私なら「奮闘を期待する」とは決していいません
すべてを整理し、手金を1円でも多く残して
あとはシルバー人材センターで時給900円で働いたら?
といいます
若ければ、商売替えか、ウニクロに転職かな
誰でも・どこでも作れる物を
作っている程度の人たちが99%だから
・当たったところでせいぜい3年
・ポテンヒットをホームランとカン違い
3年後にはこの世からオサラバ
こういう人たちを沢山みてきたからです
競争競合が激しい上、そもそも「生活に不要なもの」を
作って売る市場であえて勝負に出る必要はないと思います
マァ今後20代の平均手取り額が30万になれば
数万のJKTやワンピがふつーに売れるでしょうが
今の日本で給料が大幅に上がるのは20年以上先でしょう