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南充浩 オフィシャルブログ

ハイエンドモデルはあくまでも見せ球で

2014年9月5日 未分類 0

 近年、高付加価値高価格路線を進めている国内の生地製造業者が多いように感じる。
アジア製の生地に対抗するためには同じ安価路線では勝ち目がないから、ある程度の高付加価値高価格化は必要であるが、過度に高価格化させることには疑問を抱いてしまう。

例えば1メートル1万円とか2万円する生地が必要だろうか。
もちろん、技術開発上から考えると必要である。
ここまでハイエンドなものを作れるという技術は常に磨いておくべきである。
しかし、販売量はそれほど多くは望めないことを認識しておくべきだろう。

1メートル1万円の生地で、ジャケットを作ったとする。
用尺2メートルとすると、すでに生地代だけで2万円の製造コストである。
そこに縫製工賃や副資材、芯地、付属品などの料金が加算される。

納品されるときには、3万円以上の価格になっている。

これが店頭に並ぶと優に10万円を越える販売価格になる。
10万円以上の衣料品がそれほど大量に消費されることはほとんど考えられない。

となると、その生地も大量の反数が消費されることはないということになる。

そんなわけで最近、国内生地製造業者が「過度なハイエンド」を目指すことに少し疑問を感じている。

先日、分野は違うがこんな記事が掲載された。

100ドルスマホで急成長、
台湾メディアテックの「逆行」戦略とは
分かっていてもできなかった日本DRAM産業
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41623

これは半導体の話なので、生地とは少し事情が異なるが、それでも参考になる部分はあった。

その前に「ロジャースのイノベーションの普及理論」というのが説明されている。

以下に引用する。

(1)イノベーター(Innovators: 冒険者)

 ある新製品が発売された時、真っ先にこれを買い求める層のことである。例えば、2007年にiPhoneが発売されたとき、何日も前から店頭に野宿をして並んでこれを買い求めたような人たちである。市場全体の2.5%を構成する。

(2)アーリーアダプター(Early Adopters: 挑戦者)

 彼らは社会と価値観を共有しながら、流行に敏感で、情報収集を自ら行い、自分で判断する人たちである。市場全体の13.5%を構成している。アーリーアダプター層は他の消費層への影響力が高く、それゆえ「オピニオンリーダー」と呼ばれる。彼らの意見が、商品普及の大きな鍵を握っている。

 イノベーターとアーリーアダプターの合計16%の壁を突破すると、拡大普及期に入る。16%の壁のことを「キャズム」と言う。新製品の多くがこのキャズムを越えられずに消滅していくことが知られている。

(3)アーリーマジョリティ(Early Majority: 実用採用者)

 新しいものの採用には比較的慎重であるが、平均より早く新しいものは取り入れる層である。市場全体の34.0%を構成している。アーリーアダプターの影響を強く受けて、新商品が市場へ浸透するための媒体層となるため「ブリッジピープル」と呼ばれる。 

(4)レイトマジョリティ(Late Majority: 追従採用者)

 アーリーマジョリティまでに普及率は50%に達するが、その後に購入する層をレイトマジョリティと呼ぶ。彼らは、新しいものの採用には比較的懐疑的で、周囲の大多数が使用しているということを確認してから、同じ選択をする。市場全体の34.0%を構成している。普及率50%を超えてから導入を始めるため「フォロワーズ」と呼ばれる。

(5)ラガード(Laggards: 伝統主義者、もしくは“まぬけ”)

 最も保守的な人々の層で、流行や世の中の動きに関心が薄い層をラガードと言う。伝統主義者(または“まぬけ”)とも言われ、イノベーションが伝統になるまで採用しない。市場全体の16.0%を構成する。中には最後まで採用しない者もいる。

と5段階に分かれる。

メディアテック社はこのうち、レイトマジョリティの段階になってようやく参入する。

まず、イノベーターやアーリーアダプターあたりで参入すると、キャズムの壁を越えられず、それまでの苦労がすべて水の泡になる可能性がある。

 また、アーリーマジョリティまでは、技術革新が次々と生じる。したがって、この時期に参入すると、相当な開発費がかかる。しかし、普及率50%を超えたあたりから技術は飽和してくる。したがって、これ以降の開発費はあまりかからない。

 そこでこの段階で満を持して、メディアテックは市場に参入するのである。その際、コストパフォーマンス(つまり安さ)で他社との差異化を図る。メディアテックが100ドルスマホで躍進し始めたのは、このような背景がある。

とのことだ。

そしてこの会社は、ハイエンドを目指さずにローエンドを目指して安値で提供することで売り上げを拡大してきた。

順を追うと次のようになる。

スマホの性能を、ハイエンド、ミドルエンド、ローエンドに分類したとすると、メディアテックは、まず、ミドルエンドの下位、つまり、ミッド・ローからスタートする。その後、ミッド・ミッド、ミッド・ハイと、少しずつ、性能の高い製品群へ移行する。

 ところが、ミッド・ハイに到達した後、ハイエンドには行かずに、ローエンドを攻める。スマホで言えば、100ドルスマホで少しずつ性能の高い製品をリリースして行った後、その次は、決してハイエンドへは行かずに、25ドルの超低価格スマホを攻略する。

 多くのエレクトロニクス関連企業が、ミドルエンドからハイエンドへ、そして超ハイエンドへと、ひたすら上を向いて製品開発や技術開発をしている。その中にあって、ミドルエンドからローエンドへ移行するメディアテックの戦略は実にユニークである。

とある。

ミッドローからミッド・ミッド、ミッドハイへと移行することで自社のブランド力は少しずつ高まる。
ブランド力が高まったときにロー・エンドに移行する。
そうすると、比較的ブランドイメージが高いからロー・エンドユーザーからは歓迎を持って受け入れられる。

これって繊維業界でも使える考え方ではないだろうか。

筆者の目には、国内の生地製造業者は高価格で販売するために、ミドルエンドからハイエンド、超ハイエンドへと移行したいと考えているように映る。
しかも我流でだ。
テキスタイルデザイナーという専門職を起用してもハイエンド生地を開発し続けることは難しい。
それを製造業者の社長の我流デザインでは継続性を得ることはもっと難しい。

そして、さらに言うなら衣料品においてハイエンド商品の販売枚数はそれほど多くない上に、競争は激しい。
世界的ラグジュアリーブランドが競争相手となる。
産地ブランドに果たしてそこまでのブランド力があるのだろうか。

さらにいうなら、販売量が少ないというのは、大量生産・大量販売が前提である自社の製造システムと反することにもなる。

今更、ユニクロやジーユーに対抗するようなローエンド向け商材を開発すべきだとは思わないが、ハイエンドや超ハイエンド向け商材はあくまでも見せ球にしながら、もっとも消費量が望めるミドルレンジの商材開発を注力する方が現実的ではないのだろうか。

この記事を読みながらそんなことを考えた。

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