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南充浩 オフィシャルブログ

中高年層の強固な百貨店信仰に驚いたという話

2023年4月17日 百貨店 1

なんだかんだと先行きが見えないそごう西武の売却と異なり、先日あっさりと決まったのがバーニーズニューヨークの売却である。

セブン&アイ/バーニーズ ニューヨークをラオックスに売却

セブン&アイ・ホールディングスは4月6日、バーニーズ ジャパンの全株式をラオックスホールディングスに譲渡すると発表した。

取得価額については、当事者間の契約によって非開示となっている。株式譲渡実行日は5月1日の予定だ。

 

となっており、ここまでの報道は他の媒体でも同じである。

しかし、他の媒体報道で疑問だったのが、バーニーズの直近の業績をどこも報じていないことだった。

流通ニュースにはそれが報じられている。

バーニーズジャパンの2023年2月期の売上高127億1100万円、営業損失5億1500万円、経常損失5億2000万円、純損失7億7500万円。

とのことで、売り上げ規模もさほど大きくないし、コロナ禍とはいえ営業赤字を出しているので売却するのは極めて当然だといえる。

セブンアイホールディングスの中では最も売り上げ規模が小さい部類だし、赤字も計上しているから、グループとしては無くても困らないどころか、無かった方が良い部類だといえる。

 

バーニーズはアメリカでは百貨店チェーンと分類されているが、現在残っているバーニーズジャパンが百貨店かと言われるとそれはかなり疑問で、こちらはセレクトショップに分類されいてることが多い。当方はあまりバーニーズジャパンの店舗に馴染みがないが、はるか昔に神戸店のオープン内見会を除いたことがあるが、洋服しか売っていなかったので、日本法人は衣料品セレクトショップと分類するのも仕方がないのではないかと思う。

アメリカ本国のバーニーズは96年に一度経営破綻している。その後復活したが、紆余曲折あり2019年から経営の悪化が表面化し、コロナ禍が本格到来する直前の2020年2月に再び倒産し、米国からは店舗が無くなった。日本法人は完全に別物として存続しており、今回の売却となった。日本では2015年にセブンアイがバーニーズジャパンを完全子会社化している。

日本においてバーニーズは、米国百貨店のイメージをまとった洋服セレクトショップというのが実態だったといえる。

 

さて、そごう西武にしろ、バーニーズにしろ、セブンアイがなぜこの2社を買収したのか、当時から疑問だったし、現在も疑問でしかない。

一体どこに勝算があったのか、全く不明である。

これについては当時から同様の指摘をされる識者も多かったと記憶している。

セブンアイは当時はまだ鈴木敏文氏がトップに君臨しており、セブンアイ側の発表には「百貨店を買収することでコンビニ、GMSとのシナジー効果が期待できる」というような内容が書かれていた。

しかし、当方からすれば一体どこにシナジー効果が期待できるのか、まるっきり分からなかったし、今も分からない。

辛辣な識者の中には「自分なら百貨店を再建できるだろうという鈴木氏の思い上がり」とか「量販店出身の鈴木氏の百貨店に対するコンプレックスの裏返し」などという指摘があったが、当方もその通りではないかと思ったし、今もそう思っている。

 

たしかに百貨店は2000年代半ばごろまでは、我が国においては小売・流通業の中では「王様」だった。しかし、2000年代半ばになると、確かにステイタス性はあったものの、売上高はコンビニや大手スーパーに追い抜かされ始めたので、その衰勢は明らかだった。

当方の個人的な印象でいうと、江戸時代の大名・旗本の中で、石高は高くはないが家柄が高く儀礼や有職故実をつかさどる「高家」に近いのが今の我が国百貨店ではないかと感じている。

「高家」には室町時代以来の名門である吉良家や今川家などが含まれている。

 

結局、ビジネス手腕に優れた鈴木氏でさえ、若い頃に抱いたイメージからは逃れることができずに、衰勢のそごう西武やバーニーズを買収してしまったということだろう。高家とは異なり、お飾り百貨店をグループ内に抱える意味はほとんど無いに等しかったのだが。

 

さて、先日、本日グランドオープンした「ららぽーと門真」の内見会に取材に行った。

 

その際、昔馴染みの業界紙記者の面々と久しぶりにお会いしたのだが、当方がもうすぐ53歳になるのと同様に全員年を取っており、ジジババの同窓会みたいになっていたので、改めて過ぎ去った歳月の重さを感じさせられてしまった。

そんな中、1人の昔馴染みの記者が「最近、当社は人員が足りないので、小売・流通は百貨店をメインに追いかけていて、大手スーパーやSPAチェーンは余裕があるときに取材する体制になっている」と話してくれたので、大いに驚いたのだった。

たしかに小売・流通は社数が多く、人員の少ない媒体が全てを追いかけることは物理的にも難しい。だから、どこかに比重を偏らせるということはある意味で仕方がないともいえる。

しかし、その重心を現在の百貨店に置くことはいかがなものだろうか。2000年代半ばまでの百貨店ならそれでもよかっただろうが、今の百貨店にはそのころまでの規模感は残っていない。コロナ禍が無かったとしても大した違いはなかっただろう。

結局、業界メディア業界も一部を除いては経営陣、現場ともに高齢化しており、高齢化した彼らは百貨店にまだ「小売りの王様」というイメージを強く抱いているのだろう。往年のセブンアイの鈴木敏文氏と同じなのだろう。もしかすると、読者層も高齢化しているから百貨店をメインとした報道はしっくりくるのかもしれない。

 

今回、中高年層の百貨店に対する高イメージぶりはなかなか強固なものがあるということを再認識した。だからこそ、そごう西武の売却には訳の分からない文化論まで持ち出されてしまうのだろう。中高年層の百貨店信仰の強固さである。

欧州の事情はさほど詳しくないが、聞くところによるとフランスやイタリアにも百貨店はあるが、特定の旗艦店だけが残っているという。恐らくはステイタス性はそこそこ高いのだろう。今後、日本の百貨店も特定の旗艦店だけが残り、ステイタス性はある程度維持されたまま、店舗数自体は減少し続け底打ちするのではないかと当方は見ている。

そういう小規模な高ステイタスビジネスを行うということなら、百貨店販路は重要だが、ボリュームゾーンで拡販を狙うのであれば、中高年層の持つ百貨店への高イメージに、若い経営陣はとらわれるべきではないだろう。それこそセブンアイの失敗を繰り返すだけのことになってしまう。

 

 

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 comment
  • 読者 より: 2023/04/17(月) 11:15 PM

    今日の話はなかなか含蓄があるというか
    たぶんその業界紙はマイナーで読者層が高齢化し若年層は読んでないのだと思う。
    だから読者のニーズには会っているのではないかという負のムーブなのではないか?
    などと思ってコワイなとか想像してしまった。

    いまやららぽーとでもテナント埋まらなくてかつ同質化のマンネリとかで
    苦労が多くSCこそ皆が関心あるネタが多いと思うんだけど、その記者は全く興味がないのだろうか?
    百貨店のほうが基本的に撤退戦で縮小傾向だから取材するネタがないし読みたいとも思わないけどなぁ。
    よく百貨店は古いとか批判されるけど業界紙もまた古いってことなんですかねぇ。

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