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南充浩 オフィシャルブログ

繊維の製造加工業とメディアの認識の食い違い

2023年4月14日 製造加工業 0

アパレルブランドの展示会やイベントで、デザイナーや企画担当者、スタイリストなどの話を聞く機会はそれなりに多くあったのだが、彼・彼女らが「このコーディネイトがイケてるんですよ」という理由を説明されてもイマイチ理解できないことがままあった。

当方は彼・彼女らほどにはファッションに興味が無いし、センスも無い。熱意だって怪しい。マス層の大多数が「カッコイイ」と評価するような服装は理解できるのだが、いわゆる「玄人」の彼らが「イケてる」とか「クール」と評価する物の中には、どう見てもチンドン屋一歩手前みたいな物も少なくない。一体何が「イケている」のかさっぱり理解できない。

 

さて、繊維の製造加工業だが、こちらも技術論になると素人にはさっぱりわからない。工場に取材に行くと技術論を熱心に教えてくださる。技術論はこちらが覚えて行けば原理や理屈は理解できるようになる。もちろん、実地で働くのが最も効果的だが、当方はそういう仕事はしていない。

しかし、理解できにくいのが「風合い」の違いである。現物を並べて比較するとわかりやすいが、単体で見せられてもなかなか違いは分からない。ましてや「うちの工場で〇〇技法を使うと、凝った風合いになるんや」と言われても、当方レベルの人間には「凝った風合い」なるものが具体的に想像することすらできない。

 

業界メディアも含めた全メディアが、繊維の製造加工業のポイントをほとんど外してまとめてしまうのはそういう状況も手伝っているのではないかとも思っている。

業界メディアはまだしも、他のメディアはどんな大手のベテラン記者でも繊維の製造加工についてはど素人である。なまじメディア人という矜持があるだけ、ど素人よりも性質が悪いことも珍しくない。

また変なイデオロギーが先入観となっていることもあり、実態を自身のイデオロギーに都合よく解釈してしまうという人もこれまた少なくない。

国内の繊維関連の製造加工場が、メディアで取り上げられにくいのはこういう要因もあるのではないかと、最近改めて思っている。

要するに、説明する側と説明を聞く側の認識や知識レベルが全く噛み合っていないのである。

 

 

先週、久しぶりに岡山・児島に1泊出張した。その中で、堀江染工という染色加工場と、コトセンという整理加工場も訪問した。

堀江染工株式会社 (horie-senko.com)

岡山・倉敷市児島の整理加工場「コトセン株式会社」デニム防縮加工 (kotosen.info)

である。

染色加工場がどういう工場かは理解していただけるだろう。要するに染色をする工場である。整理加工場はどうだろうか?繊維の製造加工業の基本的な知識のある方には説明は不要だろう。しかし、全く詳しくない人のために念のために解説すると、生地は織り上がった後に整理加工を施して表面感やらなんやらを調整する。通常、手芸用品店などに並んでいる生地にはもれなく整理加工が施されている。この整理加工が無いと、我々が普段目にするような生地の表面感にはならない。

特にデニム生地は、整理加工の段階で防縮加工を施す。これによって洗濯した際に本来は生じる縮みとねじれを防止するのである。縮んでねじれるのがデニムの醍醐味と仰る方もいるが、そんな不便な物を好むのは少数のマニアと数寄者だけである。マス層に売るためにはデニム生地に防縮加工は必要不可欠である。

 

染色にも大きく分けて糸染め、生地染め(反染め)、製品染めと3つのやり方がある。

糸の段階で染めるのか、織り上がった生地を染めるのか、縫い上がった製品を染めるのか、である。

堀江染工は、生地染めの染色加工場である。

 

今回の訪問で様々な技術のことをお伺いしたが、当方の知識レベルの低さゆえにせいぜい半分程度しか理解ができなかった。

恐らくは、今後、この技術のお話をどれほど各メディアに語られても、業界メディアの中でもとりわけ専門性が高いメディア以外には理解してもらえないだろうと思う。

 

で、まあ、いろいろと根掘り葉掘り教えていただいたわけだが、広くメディアに浸透させたいのであれば、実は、ど素人にもわかりやすいと思えるポイントが2工場にはあった。

堀江染工の場合は、児島地区に残った最後の生地染め工場という点である。

 

「デニムの街・児島」とメディアでは流布されていて、そう信じている大衆も多いが、実際、児島にはもうほとんど織布工場が残っていない。ショーワくらいだろうか。そして生地染めの染色工場ももう堀江染工しか残っていない。児島に最も残っている業種は、恐らくは洗い加工場だろう。

その中にはあって、昔なら「児島の数ある染色工場の1つ」だったかもしれないが、今は最後の1社である。

これは結構メディアが飛びつきやすいキーワードだと、一応、メディア系の仕事もしている当方には映る。有効に活用されてはどうだろうか。

 

次にコトセンだが、コトセンは整理加工で実は2種類の特許を取得している。整理加工で特許取得というのは結構珍しい。当方の乏しい経験の中では聞いたことがない。

MC加工熟成加工である。

特許取得は結構古くて平成18年のことだそうだ。

MCハマー加工というのは、デニム生地にアルカリ処理を施し、デニム生地の綾目をより立たせて光沢感とシャリ感を付与するという整理加工で、いわゆる「綺麗目デニム」に適している。

熟成加工というのは逆で、短期間のうちにデニム生地のインディゴを経年変化させ、よりビンテージ感・古着感が出る整理加工だという。

コトセンは整理加工業では珍しく2種類の特許を取得しているということをもっとメディア向けに活用されてはどうだろうか。

 

本来はこれで終わるつもりだったが、今朝こんな記事を見つけたので蛇足を加える。

LVMH、岡山のデニム製造・クロキと提携 共同開発で職人育成 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループは、デニム製造のクロキ(岡山県井原市、黒木立志社長)と提携したと明らかにした。

とのことだ。

ジーンズ関係に少しでも詳しい方ならデニム生地製造のクロキの名は知っておられるだろうが、そうではない人には失礼ながらあまり知られていない。

日経新聞でも

クロキは国内有数のデニム産地である岡山に自社工場を構える中堅規模のメーカーだ。

なんて書かれてしまっているが、国内デニム生地工場としては規模の差はあるが、カイハラについで2位である。

10数年前から欧米の展示会に積極的に出展し続け、ルイ・ヴィトングループを始めとするラグジュアリーブランドに多数納入し続けてきた。

すでにLVMHの複数ブランドでデニム生地を提供した実績もある。

なんていう書かれ方をしているが「実績もある」どころではなくほぼ毎シーズン、デニム生地を納入している。

大阪の御堂筋沿いにはラグジュアリーブランドのショップが軒を連ねるが、そのほとんどにデニム生地を納入している。ラグジュアリーブランドをほぼ総ナメにしている。

しかし、残念ながら一般への知名度はさほど高くない。理由は、この事実を一部の業界メディア以外にはほとんどアピールしてこなかったからである。

今回、日経新聞に記事化されたことで、今後のアピール如何によっては知名度を高めることが可能になるだろう。

そんなわけで、堀江染工とコトセンには素人にもわかりやすい自社の特徴をアピールして知名度を高めてもらいたいと思っている。

 

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