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南充浩 オフィシャルブログ

繊維の製造加工場は可能な部分はできるだけ機械化・全自動化を進めるべき

2023年4月13日 製造加工業 4

少し以前、何の気無しに見ていたYouTubeに「金属削り工場」の動画がサジェスチョンされたので、ついでに視聴してみた。

改めて検索してみたが出てこないので、当方の記憶を基に文字で説明するが、拙い文章力なので恐らくは伝わりにくいことをお許しいただきたい。

金属の塊をワイングラスの脚のように細長く削り出すという作業なのだが、これが人間の手でないと不可能なのだという内容だった。

金属の塊を機械で回転させながら、人間が刃を当てて削ってゆく。細く削り出すのは全自動の機械では不可能で、現在は人間のベテラン職人だけが行えるというがその職人はもう後期高齢者になっていて、後継の若い職人はいないそうである。

恐らくはこのまま後継者を獲得できずに消えてゆく技術になることだろうと思う。

 

世の中にはこの金属の削り出しに限らずこういう職人の技が多々あるだろう。

もちろん、繊維業界にも職人の技は多々ある。

メディアや一部の数寄者・愛好者の中にはこの「職人の技」を過剰に持ち上げる風潮がある。当方はそれについては半分賛成で半分反対である。

職人の技をリスペクトすることは賛成だが、過剰に持ち上げることには反対である。個人で工房を運営しているような作家なら持ち上げることも必要かもしれないが、大量生産品を製造加工する工場では過剰な持ち上げは却ってマイナスとなってしまうと当方は考えている。

 

特に後継工員がなかなか確保しにくい国内工場においては職人の技に依存していると、その職人が引退したときには工場は生産不能となってしまう。

先述した金属の削り出しのように現在の機械技術では再現不可能なものは仕方がないとしても、自動化できる部分は自動化しなくては国内工場の存続は難しい。

いや、国内工場だけではなく海外工場も同様である。

例えば、シャツメーカー山喜の事例である。

 

山喜 中国連結子会社の全株式を譲渡 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

上海山喜服装は95年設立。高品質なドレスシャツの生産工場として操業していたが、人件費高騰および従業員の高年齢化により競争力が低下したのに加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で20年度末に生産ラインを停止していた。

 

とのことで、山喜の中国工場も工員の高齢化が問題となっていて、そこにコロナ禍による工場の生産ラインの停止が起きていた。

かねてから、国内工場の後継者難がメディアでは報じられていたが、業界内では中国工場の後継者難もささやかれていて、ついにコロナ禍を契機としてそれが顕在化したといえる。

 

縫製も含めた繊維の工場はいまだに全自動化は不可能で人力は必要不可欠だが、今後は最低限度の人力で運営できる程度の自動化は待ったなしとなりそうだ。

 

先日、4年ぶりに1泊で児島に出張したことは以前にも書いた。

久しぶりの出張で風邪をひいてしまい、3日間ほど体調不良だったが、今週月曜からはほぼ完治した。元来、苦痛に弱い体質なので、少しどこかが悪いと作業も仕事もはかどらない。そう、当方は我慢強くない人間なのである。

国内工場では資金力の問題もあって、新たな設備投資に二の足を踏むことが多い。当方が経営者でも二の足を踏む。できたら、早目に引退して廃業してしまいたいと思う。

 

そんな中、自動化・機械化に積極的に取り組んでいるのが、洗い加工場の豊和である。

結構な額の設備投資をやってしまえる現社長の胆力には脱帽するほかない。

 

これまで、レーザー光線加工機、AI搭載のシェービングマシンの開発と、次々と自動化・機械化を進めてきた豊和だが、今回、初めて知ったのが(当方の無知さがお分かりいただけるだろう)、人間がこするヒゲ加工も均一化できるように、下に穿きジワが刻まれた板を敷いて均一化しているということだった。

(AI搭載のシェービングマシン)

 

 

しかもその「穿きジワが刻まれた板」は機械によって自社内で生産されているのである。

コンピューターデータで「穿きジワ」を作画して、それを全自動の機械によって板に刻み込んでゆく。その出来上がった板をジーンズの下に敷いて上から人間がブラシでこすってヒゲと呼ばれる穿きジワをジーンズに刻む。

もちろん、この「こする人」にもそれなりの技量は必要となり、素人がすぐに同じようにこすることはできないというが、少し練習することで誰が作業してもほとんど同じ穿きジワを刻むことができるようになる。

これについては、賛否両論あるだろうが、当方としてはある程度の生産数量を誇る洗い加工場としては極めて正しい取り組みだと思う。

 

手描き友禅みたいな個人の職人技に準拠する生産というものが存在しても構わないと思う(それこそ多様性である)が、それは個人作家や極小ロットを生産する工房で行えばよいことで、これを大量生産に生かすというのはナンセンスであり、その個人がいなくなれば立ちどころに工場の生産は停止してしまう。こんなリスクの高いやり方に企業や組織としては依存すべきではない。工場の生産規模から考えると大手に位置する豊和の取り組みは全く正しいといえる。

 

フィット感だとか着心地だとか訳の分からない無意味な部分にフォーカスされやすい一体成型の編み機ホールガーメントだが、実のところ最大の効能は、リンキング編みが不要となる部分にある。セーターの仕上げに必要不可欠なリンキング編みだが、国内外ともにリンキング工場は減少し続けている。恐らくゼロになってしまうことにはならないだろうが、現在の生産規模を維持することはやがて困難になる。その際、リンキング編みという工程無しでもホールガーメント編み機ならセーターを生産し続けられる。

もちろん、それまでの従来型セーターとは似て非なる物になってしまうが、無理やり大量の人間をリンキング編み工場で働かせることはできないから、セーターというアイテムを存続させるためには必要不可欠な全自動化といえる。

 

今後はさらにこのような全自動化がどこまで進めることができるかが、繊維の製造加工業存続の肝になることだろう。

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2023/04/13(木) 1:43 PM

    旋盤加工で手動の旋盤じゃないと出来ない形状があるかは知りませんが、「へら絞り」とかは手作業じゃないと出来なかったりシますね。あと、工作機械の土台になる定盤とかの平面は、最終仕上げは「キサゲ」という手作業で平面の精度を出していて、職人によって金属表面の模様が違うから、職人指定で注文が入ることもあるとかw

    うちの父親は小さな製本工場をやってましたが、他社では出来ない仕様の雑誌とかの定期的な受注がありました。父親が廃業する時には同じ仕様で製本できる工場が無かったようで、次の号からは雑誌の仕様が変わっていたそうです。まあ、「他では出来ない」みたいなことも、本当に必要とされているのかどうかってこともある気はしますね・・・。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/04/13(木) 3:18 PM

    通行人氏>「他で出来ない」といってっも本当に必要とされているのか

    需要があり かつ 他で出来ない なら
    値段が取れるし、後継者になりたい人もいるでしょう

    しかし、軽工業製品におけるチマタの職人ワザの大半は、
    中国だろうがベトナムだろうがバングラだろうが
    どこでも出来ます

    そして、実のところ、需要がありません

    呉服に代表される 他では出来ない ものの 需要減少が確実

    な世界って、消えてあたり前だと思います

    なので、デニム関係の機械化も私は正直心配です

    機械の償却が終わる前に、需要がものすごい速さで減少したら
    どうするつもりなのかな?

    日本で軽工業系の物作りはやるもんじゃないと思います

  • とおりすがりのオッサン より: 2023/04/14(金) 11:26 AM

    >南ミツヒロ的合理主義者さん

    「ホントそれ」案件ですね。
    まぁ、普通の経営者さんなら何年で設備投資を償却するとか計算してはいるんでしょうけど、私が勤める金属加工工場の二代目アホ社長とかロクに計算してなかったので、最後はクッソ安値で会社を手放していました。買い取った会社の社長さんも二代目ボンボンなので、今も業績は低空飛行ですが(^_^;)

    写真のジーンズ加工の工業用ロボットも、普通に一台1,000万~2,000万とかしそうなので、何本加工したら元が取れるのか知りたいものですね。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2023/04/19(水) 12:21 PM

    通行人氏>あるある:高度な設備入れて機械回せずドボン

    効率が良い設備を入れると以下2点のタスクが発生します

    1.機械の稼働率を上げるべく仕事が取れるのか
    2.機械化の分よゆうができた時間で人間が何をするのか

    現実には

    1.機械がろくに回っていない=仕事・ないw
    2.時間によゆうができた人間サマはろくでもない事をするww

    が最も多いのは、歴史が証明していますwww

    先進国で無理に「軽工業の機械化・オートメ化」なんてしないで
    現状ローテクのままで、受注量の細りと共に商売をたたむのが
    良いと思います

    んで、儲かってた時代の資産で跡継ぎ候補にカネかけて教育して
    弁護士にした・医者にした~なんてほうが幸せだろうな・と・・・

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