
ダイソーがフェンディのロゴ入り生地を販売した理由を推測してみた
2023年3月6日 企業研究 3
国内の生地製造業者や染色加工業者の中には、欧米のラグジュアリーブランドと取引をしている業者が少なくない。
最近では、そのことを明かしている業者も増えた。しかし、取引があることは明言しても具体的に「取引品番〇〇のこの生地です。組成は〇〇が何%です」と具体的な品物を明言し、画像付で見せることは絶対に無い。理由は欧米ラグジュアリーブランドとの守秘義務が厳格だからということがある。
もちろん、当方の生活や仕事でラグジュアリーブランドと絡むことはないが、実際に取引している生地製造業者や染色加工業者との交流はある。
彼らが口をそろえるのは「〇〇ブランドと取引がありますと言うことは問題ないが、具体的な生地品番や染色加工法に言及すると、ブランド側から強いクレームがある」とのこと。
実際に、某業者は今から20年近く前に「〇〇ブランドが選んだのはこの生地ですわ~」と言って、生地品番・画像も掲載してしまったことがあり、〇〇ブランドから強く責められた過去がある。それ以来、逆にしばらくの間、欧米ラグジュアリーブランドとの取引があること自体にも口を閉ざしてしまっていた時期があった。いささか極端な例だが、羹に懲りて膾を吹くとはまさにこのことである。
そんな具合だから、欧米ラグジュアリーブランドとの取引は宣伝材料の1つにはなるものの、情報発信には気を使うという側面もある。
ダイソーのフェンディ事件は、ダイソー側がこれまでラグジュアリーブランドとの交流が皆無だったことから起きたのではないかと当方は推測している。
100円ショップ「ダイソー(DAISO)」を運営する大創産業と同社社員が3月3日、横浜地方検察庁に書類送検された。「ダイソー」で「フェンディ(FENDI)」のロゴが入ったはぎれを販売したため。
報道によると、仕入れ担当者は「仕入れ先から大丈夫と言われ確認をしなかった」と容疑を一部否認しているという。
とのことだが、報道されていることが事実だとすると、恐らくダイソーの仕入れ担当者も経営陣も「仕入れ先から大丈夫と言われた」から大丈夫だと考えたのだろう。
この端切れの元となった生地は本物か偽物かは不明だが、そこが論点となっていないということを考えると本物ではないかと個人的には考えている。
フェンディに限らず、国内のデザイナーズブランドでも専用に製造を依頼した生地でも残反が出ることがある。これは縫製のミニマムロットと、生地製造のミニマムロットが一致しないから起きることである。
例えば、縫製は1型100枚(用尺2メートルと仮定すると、生地200メートル=4反)がミニマムロットなのに、生地製造のミニマムロットは5反、なんていう場合は往々にしてある。となると、1反は余ってしまうことになる。これがブランド専用生地なのに残反があるというわけである。
フェンディの生産枚数、生地ロットがどれくらいあったのかはわからないが、何反か残ってしまったということは十分に考えられる。
この残反を生地製造業者が直接ダイソーに売ったのか、格安引き取り業者に払い下げ、それがダイソーに流れてきたのかはわからないが、ダイソーに販売した業者は「残反だから大丈夫ですよ」と説明し、ダイソーはその説明を疑いも無く信じたと考えられる。
そして、ダイソーがその「大丈夫」を信じたのは、かつてハリスツイードのブランドタグが付いた雑貨・小物を販売したことがあったからではないかと、個人的に見ている。
当時、凄まじい反響で賛否両論があった。
【ダイソー】憧れの〔ハリスツイード〕が〔ダイソー〕で買える!! 話題のコラボ商品をさっそくレポート!|LIMIA (リミア)
これは2017年の記事である。
で、この当時、上に挙げた記事のような喜ぶ論調の記事のほか、ハリスツイードのブランド価値低下について指摘する論調もあった。
しかし、ハリスツイード協会は、すでに店頭で販売されているダイソー製品に対しての販売差し止めも求めなかったし、訴えることもなかった。やったことと言えば、その後、取引ルールなどを厳格化したということくらいで、それ以降、ダイソーの店頭からハリスツイード製品は姿を消して今に至っている。
ハリスツイード協会、誤った商標利用に歯止め (fashionsnap.com)
ダロンヴィル氏は近く、「ブランド教育と開発」に乗り出す。ガイドラインも、要旨をまとめたコンパクトなものに刷新する。一部基準を厳しく改変する予定だが、「ブランドイメージを守るために必要と、日本のユーザーは歓迎してくれている」という。
ダイソー側がフェンディの端切れ販売に割合に無頓着だったのは、ハリスツイード製品販売の成功体験?があったからではないかと思っている。
ハリスツイードは大丈夫だったからフェンディも多分大丈夫だろう。
そんな風に仕入れ担当者も経営陣も考えてしまったのではないだろうか。
ただ、フェンディを含めた欧米ラグジュアリーブランドはハリスツイード協会ほど優しくはなかったという話しである。
それに加えて、これまで「ブランド物」とは無縁だったダイソーにそのノウハウと知見が無かったということも大きいだろう。
原材料費・燃料費・電気代の高騰によって100均各社は製品の価格設定に苦労している。その中にあってダイソーは価値を高めることで100円よりも高い商品の販売を開始しており、いわば「高価格(実際はそんなに高くはないが)ブランド化」に取り組み始めている。繊維製品においてはハリスツイードや欧米ラグジュアリーブランドとの取引をにおわせることは、効果が出やすい販売施策であるといえるため、ダイソー側も乗り気になったのではないかと考えられる。
今後、ダイソーがブランド化に取り組めば取り組むほど、他のブランドとのかかわりには注意やノウハウが必要になる。今回は良い勉強になったのではないかと思う。
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comment
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BOCONON より: 2023/03/06(月) 9:04 PM
昔ありましたねえ,はなはだ安価なハリスツイード小物。確かしまむらなどでも,婦人靴の一部にツイードの端切れ縫い付けてさらにその上に “Harris Tweed” のタグを貼ったものなど時々売っていて,僕はあまりの貧乏くささに泣けてきた。「よくハリス・ツイード協会からクレームがつかないもんだな」と。
まあ大きなお世話ですが,「安くなっていたから買ったのだ」と言って真冬にデッキシューズ履いて歩く男とか,「カシミヤ」って書いてある袖のタグをつけたままにする人とか,いにしへの女子高校生のバーバリー(?)のマフラーや,カルヴァン・クラインのパチモンのTシャツや・・・世の中気にしない人はまるで気にしないもののようで。
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通りすがりの読者 より: 2023/03/08(水) 1:49 AM
今回の端切れは「フェンディライセンスの傘を製造していた日本企業が当時中国の工場に作らせた生地」との内容を他記事で読みました。ロゴこそ入っているが本家フェンディの生地とは異なる品質のもの、とはいえ数十年前に流行ったライセンスのロゴビジネスで安易に儲けたツケが廻ってきたともいえるでしょう。
この端切れ売り商売って、
ダイソーの中でも1,2位を争うボロもうけセクターです
100円ショップでしか買えない商品の1つとして
「業販向けのアイテムの小分け売り」がありますが
大ロット・かつ・かさばる物が多い上
定番化必須な商品が多いから、欠品無しを目指さる得ず
結果として、めんどくさくて金にならない場合が多い
けど端切れだと、その場限りで終わりです
同じ色柄素材を揃える必要がないですからね
しかも在庫は無限大。さらに買い手からクレームゼロ
工場の隅に転がってた生地に10回ハサミをいれるだけで
オネダン10倍以上に化ける訳です
けど、こうもラクな商売だと担当者の感覚がマヒしてくる
その典型だったんじゃないのかな?
本場中華の100円ショップでCOACHのぱちもん裏地とか
PRADAのコピー品裏地が流通した事もありましたよww