お祭り騒ぎだけでは解決できない局面
2014年8月4日 未分類 0
昨日、島根のジーンズ洗い加工業の仁多産業が破産したという記事が掲載された。
ジーンズ加工の仁多産業が破産 負債総額9億8千万円
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140803-00000002-san-l32
帝国データバンク松江支店などによると、ジーンズ加工の仁多産業(島根県奥出雲町)は1日、松江地裁に自己破産を申請し、破産手続きの開始決定を受けた。負債総額は約9億8千万円。新会社を設立して事業を移管するとしている。
同社は昭和56年に設立され、クリーニング業からジーンズ加工に進出。しわや色合いなどの独特の加工技術で注目を浴びて大手メーカーから受注も受け、自社ブランド「おろち」の販売も手掛けたが、事業拡大などに伴う設備投資負担などが重なり、近年は赤字経営が続いていた。
とのことであり、記事はいたって簡素である。
「おろち」ブランドなんて言われても実は筆者はしらない。
記事内容はこれだけであり、いろいろとググってもこれ以上の内容は出てこない。
それゆえなのか、ネット上の書き込みでは「海外の低価格品に負けたんじゃないか?」とか「国産企業がアジア勢にまた破れた」とか「アベノミクスの犠牲者では?」とかいう声が多いのだが、いずれも間違いである。
筆者が知ってる範囲でいうと、仁多産業はベトナムのハノイに2009年ごろに合弁工場を設立している。
今から5年も前にベトナムに進出するのだから目的は当然低価格ジーンズの生産である。
国内工場で高価格ジーンズの洗いを手掛けていたことは知られているが、すでに5年前から低価格品も手掛けている。「低価格品に負けた」どころか、仁多産業自体が低価格品を製造していたのが実情である。
また、ベトナム進出は2009年だからアベノミクスが始まるはるか前であり、あの民主党政権下でのことである。
一方、気になるのは「新会社を設立して事業を移管する」という一節である。
現時点ではこれ以上の情報がないから何ともわからないのだが、可能性としては2つある。
1つは負債を現在の仁多産業にすべて持たせて清算し、別に新会社「仁多産業」を設立して事業を続けるという方法である。これは多くの破綻企業が使った手法である。
もう1つは、仁多産業の現スタッフが何人かで新会社を設立して、旧本社の事業を続けるという手法である。これは児島のニッセンファクトリーが使用した手法である。
ところで、仁多産業は尾道デニムプロジェクトにも密接にかかわっていたようで、今後このプロジェクトにどう影響を及ぼすのかは注意深く見守りたいと思う。
http://www.onomichidenim.com/worker/nitasangyou/index.html
さて、6月には児島の洗い加工業、三好染工が倒産している。
それ以前だと吉田染工も倒産した。さらにさかのぼれば共和も倒産している。
洗い加工業は大手がこの数年で続々と倒産している。
これらはジーンズ、デニムにかかわる業態である。
国内の繊維製造業において、ジーンズ、デニムというジャンルはもっとも成功したといえる。
世界的に「ジャパンデニム」の素材クオリティが認められ、名だたる海外ブランドも国産デニム生地を使用している。国産品がこれほど広く認められている生地はほかにはないだろう。
必然的に行政や業界団体も日本発信ということになると、ジーンズ・デニムを筆頭に挙げるが、実際のデニム産地は倒産・廃業が相次いでいる。他ジャンルの生地よりは多少マシだという程度である。
もちろん、国内企業の技術力の高さを否定するわけではないが、それでも「日本製」というだけで浮かれていられるほどの状況ではないということである。
例えば、衣料品市場そのものも縮小しているし、ジーンズを扱ってきた大手ナショナルブランドも疲弊縮小している。
さらにいうなら、各工場で働く工員の確保がすでに難しくなっている。
外国人研修生によってやっと維持できているのは何も縫製工場だけのことではない。
織布工場にだって研修生はいる。染色加工業、整理加工業だって同じだ。
この労働力不足を解消しないことには、国内繊維製造業の多くはいずれ消え去ることになる。
例えば〇〇織布が隆盛を極めたとして、ここが染色から整理加工まで一貫生産ができれば良いが、そういう工場は稀である。国内繊維製造業は古くから分業体制で成り立ってきた。
織布工場だけが残っても染色や整理加工業がなくなってしまえば国内での生地作りはできない。
そういう局面に立たされているのが、我が国の繊維製造業である。
日本製が盛り上がってもらいたいという想いには賛同するが、そういう危機的状況に立たされていることを忘れてはならない。
お祭り騒ぎですべてが解決できるほど簡単な局面ではない。