50メートル程度では別注ロープ染色は不可能
2014年3月6日 未分類 0
最近、よく「別注生地で云々」という文言を耳にする。
展示会にお邪魔した際にアパレルブランド側が口にするのである。
洋服の色柄・デザイン・シルエットでの差別化が難しい昨今においては「別注生地」がブランドとしてのオリジナリティのよりどころになっているような部分がある。
ニットやカットソーは原綿の重さによってオリジナル生地を編むことができるかどうかが決まる。
知り合いのカットソー業者は「2キロから別注の生地を編めますよ」という。
一方、織物は重さではなく、経糸の長さによって別注生地が織れるかどうかが決まる。
1反は50メートルであり、昨今の国内生地メーカーは小ロット対応も増えたから、1反からでも織るというところがある。
経糸は長さが必要だが、緯糸は同じ色を10メートルごとに切り替えても大丈夫である。
さて、デニム生地でも同じように考えているアパレルブランドも少なくない。
また生地メーカーでもないくせに簡単に「別注で織れますよ」と口にする生地問屋も存在する。
しかもアパレルブランドは生地メーカーと生地問屋の区別もできないから、その生地問屋が生地メーカーだと勘違いしている東京のブランドも多数ある。
デニムの場合、経糸をインディゴ染料で染める。
その際、独特の装置によってロープ染色を行う。
ロープ染色する際に、糸の長さは50メートルくらいではとても無理で、もっと長さが必要になる。
ロープ染色は最低でも3000メートルくらいの長さが必要となる。
まれに500メートルとか1000メートルとかの糸をロープ染色するという企業があるが、これは破格の小ロット対応だといえる。
これを下回る糸の長さでロープ染色をすることは事実上不可能である。
ただし、ロープ染色以外の方法なら小ロットでの染色が可能である。
だから「50メートルから別注色でロープ染色しますよ」なんて生地業者はほぼ偽物だと思って差し支えないだろう。
もし実在しているなら、その生地業者は経糸をロープ染色せず、ほかの染色方法でインディゴブルーに染めていると考えたほうが良い。
それに、そもそもブルーデニムに別注色なんて必要なのかという疑問がある。
ロープ染色の大手に坂本デニムという企業がある。
以前に何度か取材させてもらったことがあるが、ブルーだけで数百種類の色がある。
デニム生地メーカーでロープ染色から自社で手掛けているのは国内ではカイハラとクロキだけである。
カイハラは紡績から自社で一貫生産している。
カイハラにも何度か取材させていただいたことがあるが、そこにもブルーだけで数百種類の色がある。
おそらくクロキも似たようなバリエーションを持っているだろう。
ノンウォッシュのデニム生地なんてどれもこれも同じだと考えがちだが、実物を比較してみるとすべて少しずつ色合いがことなる。洗い加工を施せばもっと色合いは異なる。
数百種類もあるのだから、わざわざ別注で特殊なインディゴブルーに染めてもらう必要もなく、その中からチョイスすれば良い。
なまじ「別注染色」にこだわるのは、よほどのマニアックなブランドか、単なるミーハーで「別注」という肩書がほしいだけのブランドと言える。
前者のマニアックなジーンズブランドならそれはブランドのアイデンティティなので仕方がない。
けれども単なる販促物として「別注」の肩書を求めているだけのミーハーブランドなら、一度、生地の製造工程を基本から勉強しなおした方が良い。
赤っぽい紺、緑っぽい紺、黒っぽい紺、茶色っぽい紺、青を深めた紺、黄色っぽい紺、グレーがかった紺、と一口に濃紺のインディゴブルーといってもさまざまある。
緯糸はオリジナルでどんな糸でも10メートルごとに変化させて打ち込むことも可能なのだから、数百種類の中からチョイスした経糸に、自ブランドの好む特殊な緯糸を50メートルだけ打ち込んでもらってもそれは立派な「別注生地」といえる。
こだわりジーンズにアイデンティティを持たないブランドが、なぜ、ロープ染色からの別注にこだわるのかまったく理解に苦しむ。
こういう志向を助長させているのが、生地メーカーのような顔をして「50メートルくらいから別注できますよ」なんて甘言を弄する生地問屋、生地ブローカーの存在だろう。
製造工程をまったく理解していないブランドに甘言を弄して、それでわけのわからない風潮を業界に蔓延させている。
でも、厳しい人から見れば「騙される奴がいるから、騙す奴がいる」ということにもなる。
「別注生地」くらいしか打ち出しができなくなったアパレルブランドにも、そういうアパレルブランドに甘言を弄する生地問屋・生地ブローカーも両方の体質に問題があるといえるだろう。