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南充浩 オフィシャルブログ

果てしなく遠い

2014年2月4日 未分類 0

 昨今、日本製ということが国内市場で一つのセールスポイントになっている。
「日本製の生地を使って国内工場で縫製した○○です。洗い加工も国内です」というアイテムに注目が集まる風潮がある。これである程度の買いやすい値段なら店舗側としてもけっこう売りさばきやすい。

たとえば、たまに8000円(税込8400円)くらいのジーンズが国内製として販売されている。デザインや色、形が好みかどうかは別として、多くの人はこの商品は「お買い得品」だと感じるだろう。

そういうことである。

日本人スタッフばかりの縫製工場はあるが、どちらかというと少数派で、多くの縫製工場は中国人研修生がスタッフとして働いている。
日本製と言いながら、本当のところはメイドバイチャイニーズという場合も珍しくはない。
経済成長した中国では縫製工になりたがる人が減っているため、最近ではミャンマーやベトナムからの研修生が増えている。

さて、これらの商品を日本製だと単純に喜んでいて良いものかという疑問は常にある。
それは筆者だけではなく、多くの業界の人が共有する疑問だろう。

こういう現状に対して「外国人研修生制度を廃止してはどうか」という意見がある。
そういう意見を唱える気持ちはわかるが、現実的ではない。

まず第一に外国人研修生制度を仮に廃止してしまったら、日本人で縫製工になりたいという人は極端に少ないだろうから、多くの縫製工場が廃業・倒産に追い込まれてしまう。
先ほども書いたように日本人スタッフのみで運営できている縫製工場はごく少数である。

次に、外国人研修生制度には問題が多いとは言われながらも、外国繊維産業の人材育成の一環となっている側面があることは否定できない。
発展途上国が工業化において最初に手を付けるのは繊維産業である。鉄鋼などの重工業に移るのはその次の段階である。
20数年前の中国はそういう状態だった。現在はこれをベトナムやミャンマーなどアセアン諸国が行っているということである。

筆者は中国の産業を日本が育成したことは大きな失敗だったと考えているが、アセアン諸国の産業育成は支援する必要がある。

そのような状況を踏まえて、「縫製工になりたい日本人を増やすように工場側が努力すればよい」と言われそうだが、それは難しい。

縫製工賃は国内工場といえども低く抑えられている。
なぜなら、現在は高い洋服は売れないからだ。
ある程度の安い洋服を作ろうと思えば縫製工賃も安く抑える必要がある。
そんな安い工賃の仕事に進んで就きたがる日本人はそう多くはない。

ましてやアパレル企業や商社では工賃を安く抑えれば抑えるほど優秀な社員だと認識される。

縫製工に就きたがるような日本人を増やすためには工賃を引き上げる必要がある。
そうすると日本製はある程度高額な商品ばかりということになる。
その商品を多くの日本人が優先的に買うような風潮を作らねばならない。

このように考えてくると、業界構造や社会的風潮を変えないと日本人が縫製工になりたがるような環境は創出できないことがわかる。

これはアパレル企業数社やセレクトショップ数社が声を張り上げたところで、どうこうなるような問題ではない。
某有力百貨店が「セール後倒し」を叫んでも異論百出でまとまらず、個々に思うところをやっているのが業界の現状であるから、「業界構造の転換を」なんて叫んでみたところでどれほどの企業も賛同しないだろう。

本気でこの問題を解決しようと思うなら、その道のりは男坂くらい果てしなく遠い。

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