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南充浩 オフィシャルブログ

「ナンタラ率」という「数字をもてあそぶ輩」にご用心

2021年12月7日 誰がアパレルを殺すのか 0

目安となる数値とは便利なものではあるが、使い方や読み方を誤るととんでもない結論が導き出される。

また、意図的に人を騙すために数値を使う詐欺師もいる。

さらにいうと、なんだか分かったような雰囲気作りのために数値を使用する詐欺師もいる。

例えば、数年間の売上高の推移とか、営業利益額の推移というグラフは「事実」なので非常に有効な資料だといえる。しかし、増減率の推移の折れ線グラフなんて必要だろうか?

言っている意味がお分かりだろうか?

例えば、売上高の推移として

2016年 25億円

2017年 30億円

2018年 27億円

2019年 35億円

2020年 22億円

というような金額が並んでいたとしたら、これは資料として使える。

しかし、

2016年 前年比8%増

2017年 同5%増

2018年 同3・5%減

2019年 同2・5%増

2020年 同1・5%減

みたいな増減率だけ並べられ、さらにそれを折れ線グラフにした資料に何の意味があるだろうか?当方は全く無いと思って毎回見ている。飾り写真くらいの意味しかないだろう。

 

もちろん、金額ベースだけの羅列ではわかりにくいこともあるから、ナンタラ率という指標に助けられることも多い。しかし、ナンタラ率を最重要指標にすると必ず操作ができてしまうので、注意が必要になる。

 

先日、計数管理の授業で交差比率について話をした。

その際、以前に大阪文化服装学院の夜間学級で教えていたときの教科書を持ち出して使用した。この本はもうすでにその時ですら絶版になっていたほど昔の本である。

この本は、コンサルタントやIT系、広告代理店系が好みそうなカタカナ用語は必要最小限しか使っていない優れものである。文体も平易である。

この本にはこんな一節があった。

 

交差比率は粗利益高÷平均在庫高で求められますから、在庫を減らすと数字上の交差比率は大きくなります。

在庫が少ないと商品回転率は上昇しますが、売り場で品切れが発生します。ですから適正な平均在庫を基本に交差比率は計算しないと、数字をもてあそぶだけになってしまいます。

 

である。

交差比率を最重要指標にすれば、必ず数字上だけの改善を目指すスタッフや外部コンサルが発生する。性善説では社会生活は成り立たない。

そうするとどうなるかというと、引用した一節のように在庫を極限まで少なくして、見かけ上の商品回転率を上げるということをするようになる。

スタッフが率先してやる場合もあるし、外部コンサルが自分の保身のため、自分の評価を高めるためにやることもある。

 

当方の計数管理の知識など学生に毛が生えた程度のものしかないが、何の知識も関心もない学生に対しての入門編となる価値だけはあると思っている。それ以上のことが知りたければ、世の中にはこの道のエキスパートがたくさんおられるので、師事するなり本を読むなりすれば良いだけのことである。

マサ佐藤氏が常々言うように「ナンタラ率」を絶対的な指標とすると実態とそぐわず、数字上の操作になる可能性が低くない。この教科書がいうように「数字をもてあそぶだけ」になってしまう。

 

個人的な経験でいうと、ずっと店頭業務に携わっている在庫処分店があるが、やはり昨年春からのコロナ禍で売上高が落ちた。値入率の設定や仕入れ原価など知らないので、そこに関しては何とも言えないが、かなりの危機的状況の売上高減少が続いた時期があったのだが、ある時

「この店舗は1か月で最低〇〇万円の売上高がないと赤字になる」

という具体的数字での説明があった。

実際にこの〇〇万円の売上高設定が正しいのかどうかはわからない。もしかしたら若干盛っているかもしれない。

しかし、当方はそれがわかりやすいと素直に感じた。

漠然と

「前年比5%増以上を目指してください」

とか

「プロパー消化率〇〇%以上を目指してください」

とか

指示されても、当方も含めて他のスタッフも全員がピンとこなかっただろう。また、例えばプロパー消化率〇〇%以上を目指せと言われた場合、目標達成が危うくなると、店舗スタッフや店長は結託して、

「本当は値引き販売したのに、定価販売したように見せかける」

という手を使うようになるだろう。それこそ、店頭スタッフが全員結束すれば何とでも操作できる。

 

一方、「月間売上高〇〇万円を死守してください」という指示なら、1日辺り何万円売れば良いのかは普通の算数ができる人間なら誰でも計算できる。

ということは、一日3万円を目指して売ればいいとか、一日5万円を目指す必要があるとか、そういうことがわかるようになる。

当方はこの指示の出し方を評価している。

 

様々な科学的分析にはナンタラ率という指標は必要不可欠だが、ナンタラ率を必要以上に重要視したり、最重要指標に据えることは、実はあまり効果的でない。

その設定に満足するのは、胡散臭いコンサルと、それにかぶれた経営者くらいだろう。

それよりも、「1か月で〇〇万円の売上高が最低でも必要になります」という指示の方が、シンプルで具体的でわかりやすい。たしかにあまりカッコイイ指示ではないが、企業経営なんてものはカッコ良くても収益が上がらなければゴミ屑だし、カッコ悪くても収益が上がればそれでいいのである。

要するに何が言いたいのかというと、数字をもてあそぶ輩にはご用心ということである。あと付け加えるなら、カタカナ用語をむやみやたらと使う輩にもご用心である。

 

 

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