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南充浩 オフィシャルブログ

百貨店でのポップアップ多発は「埋まらない空きスペース」の活用だろう

2021年12月8日 トレンド 1

先日、またも取材を受けて、今度は「女性セブン」にコメントが載るらしい。

ライターの仕事はあまり来ない割に、先月は3つもコメントを出す仕事をした。今回のお題は「2021年のヒット商品」というものだったが、コロナ禍で苦しむ衣料品においては明確な「ヒット商品」を思いつかなかった。

マストレンドは何だ?と問われるとこれも正直なところよくわからない。

もちろん、ビッグサイズとかそういう着こなしはあるにせよ、すでにビッグサイズも5年くらいは経過している。その一方で、スキニーパンツは定番として残っているから、一概にビッグサイズとも言い切れないと思っている。

マストレンドの多様化、多極化、分散化という感じがする。

 

衣料品業界というのは、これまでは「大きないくつかのトレンド」があり、そこにアジャストさせた商品を提案すればある程度の売上高が稼げるという時代が長く続いた。

バブル崩壊後もその構図は変わらず、2008年のスキニージーンズブームまで続いたと当方は見ている。

 

95年頃のビンテージジーンズブームなら、セルビッジ付きジーンズを出していれば、それなりに各社ともに売れた。もちろん、その中でも優勝劣敗はあったが、数多くのブランドがそれなりの恩恵を受けたといえる。

しかし、2020年・2021年はコロナ禍も手伝って、そういう「柱」となるモノが見当たらない。

 

そうなると、業界の各社は迷走してしまい、頼れるモノを探そうとする。その一つがD2Cではないかと見ている。

D2Cとは何かもすでに良く分からなくなっているが、当方の感覚だと、D2Cブランドが100億円単位にまで大型化するようには全く見えない。

SNSやインフルエンサーと密接に絡んでいるが、この手のインフルエンサーブランドも大型化するようには全く見えない。

またインフルエンサーの起用もブランドによっては全く効果がない場合もあって、顧客との親和性を考えなくてはならない。ネットで話題の人物だからというだけで起用してみても、顧客層によっては全く響かない。

 

で、D2Cブランドにしろ、インフルエンサーブランドにしろ、当方は最大限に拡大できても売上高は30億円くらいが限界だと見ている。

数字の根拠はないが、体感的にそう感じる。

 

新規事業(スタートアップ)発展の共通項: ファッション流通ブログde業界関心事 (cocolog-nifty.com)

 

興味深い一節があったのでご紹介したい。

繊研新聞に掲載されたフラクタ社の河野貴伸社長のインタビューを引用しておられるのだが、その中に

 

・(DtoCブランドの多くは)「米国でも平均的には10億から20億円が上限値

 

とのコメントがあった。

当方の体感がそれほど外れてはいなかったということになる。

そして米国でもということなので、もしかすると我が国の市場規模や人口で考えると、成長の上限値はもっと低いのではないかとも感じる。

人口でいえば、アメリカは我が国の3倍である。ということは20億円という上限値の半分くらいであっても、我が国の場合ならおかしくないとも考えられる。

 

さて、最近は百貨店がD2Cブランドとのかかわりを持ち始めている。

西武渋谷店なんかは大きく報道されたし、それ以外の百貨店でもD2Cのポップアップ(要するに期間限定売り場)も多く開催されている。

これについては、当方よりも年上世代やメディアに近い人間からは、歓迎の声が多く聞こえ、かつてのマンションメーカーが興隆したときの状況と重ねているのではないかと当方は感じられる。

だが、当方はD2CブランドがかつてのDCブランドのような100億円規模にまで拡大成長するとは見ておらず、百貨店がDCブランドを取り込んだようなことは起きないだろうと見ている。

理由は、D2Cブランドの拡大の上限値が小さいと考えられるからだ。

当方の見立てだと最大で30億円、先のインタビューコメントだと10億円内外、これがD2Cブランドの1ブランドあたりの成長限界値である。

となると、百貨店、とくに大手百貨店が望む単位の売上高に届くことはない、といえる。

仮にAというD2Cブランドが10億円まで成長したとして、このブランドが出店できるのは、例えば新宿伊勢丹とか梅田阪急とかそういう旗艦店に1店舗だけだろう。

そして10億円という売上高は実店舗とネット通販両方を合わせての規模なので、出店された百貨店だけが少し潤う程度で、じゃあ、京都伊勢丹や名古屋三越にも出店してもらおうと言ったところで、企業規模が小さいので無理である。

大手百貨店チェーンを救うほどの戦力ではないし、今後もそうはならないだろう。

 

ではどうしてポップアップが頻発するのかというと、はっきり言って「空きスペースの埋め草」だろう。

ご存知の通り、大手総合アパレル各社は百貨店から撤退傾向を強めている。代わりを探すとなると、ユニクロ・ジーユーを擁するファーストリテイリング、しまむら、アダストリア、パルなどの企業くらいしか思いつかないが、低価格ブランドが多いし、セレクト形態もあるので、百貨店内への出店というのは難しい。

となると、スペースが埋まらないということになる。

そこで手っ取り早く埋められるのが、D2Cに限らずポップアップをやることである。期間はだいたい1週間から2週間なので、例え売れなくても百貨店へのダメージは少ない。

おまけにポップアップを開催し続けることで、売り場を新鮮に見せることもできる。

一方、ポップアップ出店側としても百貨店で開催することによって知名度を高めることができる。

 

当方はD2Cと百貨店はそういう使い方・使われ方の関係性で終わるのではないかと見ている。

D2Cブランドがオンワード樫山、ワールド、三陽商会、TSIに取って代わる規模にまで成長することはないだろう。

 

多分、この予言は当たらないだろうな

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 comment
  • tt より: 2021/12/12(日) 4:27 AM

    FABRIC TOKYOは今後残り続けると思いますか?調達と言う名の掘りを続けてますが(笑)

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