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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品の「製造の多層化」が進む理由

2021年7月8日 製造加工業 2

猫も杓子もD2Cで笑えてくるのだが、有象無象のD2Cが増えすぎ、わけのわからない仕入れ品販売までがD2Cを名乗っている。

そういう有象無象のD2Cは必ず「中間段階を排除して割安な良品を提供する」と唱えるのだが、欧米各国の事例は知らないが、我が国内でいうなら、流通段階はこの25年間くらいでかなり整理されている。

問屋が何重にも介在するなんてことは、ほとんど無くなった。

逆に表に出ていないだけで、軽薄コンサルが褒めちぎる某高級セレクトショップや高額ブランドが、なぜか不要な企業が中間に介在していて無駄に値段が引き上げられているなんていうことは珍しくない。

また、成功しているかどうかは別として国内工場も自社オリジナル製品を開発し、そのまま販売したりしているケースも増えているから「流通段階の多層構造」というのは、コンサルや役人の妄想に過ぎないという状況になっている。

 

それでも衣料品で利益が確保できない理由は、以前に書いたこともあるが、製造段階が多層化し、複雑化しているからである。

 

OEM屋(ODMも含む)からOEM屋への発注というのも珍しくない。

 

OEM屋

OEM屋

OEM屋

 

みたいな三重受け、四重受けも珍しくない。

 

当然のことながら、それぞれに何%かずつマージンが上乗せされるから、製造原価、仕入れ原価はストレートの場合に比べて上がらざるを得ない。

パっと見ると、無駄にマージンだけを積み上げているようにしか見えず、これが「無駄だ」という意見が出るのはもっともなことだが、じゃあ根絶できるのかというとそれはほぼ不可能に近いだろうと思う。

 

OEM・ODM屋と一口に言ってもさまざまな形態や規模がある。

1、大手商社

2、中堅商社

3、小規模商社

4、OEM(ODM)専門の大手企業

5、専門の中規模企業

6、専門の零細企業・個人事務所

 

というような具合である。

そして、川下の人はあまりピンと来ないかもしれないが、製造や加工に関して言えば、それぞれに得意分野があり、得意分野以外のノウハウは持ち合わせていないことが普通である。

例えば、生地でいうと、織物(布帛)に詳しい人は編み物には詳しくない。逆もしかりだ。

またTシャツやカットソー縫製工場と、厚手カジュアルパンツ縫製工場は全く別個で、使用するミシンすら異なる。

となると、どういうことになるのかおわかりになるだろう。

Tシャツ工場にジーンズの縫製を依頼しても不可能だということである。逆もまたしかりである。

 

なので上の番号でいうと、3と6だと、受けられるアイテムが限定されているということになる。

世の中に万能の天才などという人はほとんどいない。だから、3とか6のOEMというのは、扱うアイテムを特化している。

例えばTシャツとカットソー専門とか、ジーンズ専門とか、ダウンジャケット専門とか、そういう具合である。

 

3とか6の形態の業者に製造を依頼した場合、専門以外は全く対応できない。

対応できないところに依頼するなよ、とか、対応できないなら受けるんじゃねえよ、とか批判するのは簡単だが、世の中はそんなにイチゼロの世界ではない。

仮に自分がブランド側だったとして、製造を依頼するにあたって、顔見知りだが専門外の業者か、専門性は高いが会ったこともない業者か、どちらにまず相談するだろうか?

普通の人間なら、まず「顔見知り」の業者に相談するだろう。

 

その時、良心的な業者なら、

 

「じゃあ、知り合いの専門業者を紹介しますよ。あとは直接やってください」

 

と言うだろうが、世の中は良心的な人間の方が少数派である。ましてや国内衣料品業界は一部を除いて不振だから、誰もが仕事を求めている。

となると、直接つながずに、一旦自分で受けておいて、知り合いの専門業者に回すという形態を採ることになる。

その際、自分は何%のマージンをもらうし、回される側も仕事が増えるからありがたい話であり、いわばwinwinの関係が成り立つ。

 

1、2、4、5の場合は、得意分野ごとに課や部として設置できるため、他社へ仕事を振るケースは減る。

例えばニット課、ジーンズ課という具合に得意分野ごとに課や部を作っている。

 

じゃあ、3と6を排除しろという話になるが、犯罪行為でもない他人の活動を制限できる理由がどこにあるのだろうか。

さらにいえば、現存すると3と6を謎の超法規的措置で排除したとして、アパレル企業や商社がリストラを繰り返すたびに、そこで排除された人たちは小規模・零細のOEM屋を立ち上げる。

20代、30代、なら新しい業種にチャレンジすることもできるが、40代後半とか50代でリストラされた場合、まったくの異業種にチャレンジすることは難しい。

51歳の当方だってこれから全くの異業種にチャレンジしたいとは思わない。その仕事に慣れるだけで5年くらい必要だろうし、慣れたころには56歳になっており、引退まで間近である。そんな非効率的なことをやってみたいとはまったく思わない。

かくいう理由で、超法規的措置で現存業者を排除したとして(現実にはあり得ないが)、また雨後の筍のように小規模・零細業者は次々に生まれるから、事実上不可能なのである。

 

多少なりとも「製造の多層化」を緩和したいのなら、川下の人間が製造や加工に関する正しい知識を身に付けることしかないだろう。

現在の「製造の多層化」は川下の人間の変わらない知識不足が招いた側面も大きいといえる。

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/07/08(木) 11:42 AM

    「じゃあ、知り合いの専門業者を紹介しますよ。あとは直接やってください」

    コレっすよね~、解決法はw
    うちの金属加工工場も得意分野じゃない製品の依頼が来ると、私の上司の営業部長とかは他社に外注してでもどうにか受注しようとするんですよ。そんなことしても、一つの注文で粗利数千円だったりすることすらあるし、外注がいい加減で納期守らないとか不良品作るとかあると色々面倒だったりするんで、私なんかは不得意な分野の引き合いとか来ると、さっさと「弊社設備では対応不可のため辞退とさせていただきます。」って断っちゃうんですがw

  • ビギナー より: 2021/07/12(月) 12:43 PM

    この記事だけではOEMの形態や規模の違いがよく分かりません。
    例えば、6の零細OEM企業は社員数は何人くらいで、キャパシティ(受けられる注文数)はどのくらいなのでしょうか? また、自社工場は持っているのでしょうか?

    →OEM・ODM屋と一口に言ってもさまざまな形態や規模がある。

    1、大手商社

    2、中堅商社

    3、小規模商社

    4、OEM(ODM)専門の大手企業

    5、専門の中規模企業

    6、専門の零細企業・個人事務所

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