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南充浩 オフィシャルブログ

自動採寸オーダースーツが従来型のオーダースーツよりも失敗が多い理由

2020年11月2日 トレンド 5

個人的には、テック系の人たちが、自動採寸にこだわるのか理解に苦しむ。

初代ZOZOスーツから始まって、他社の自動採寸オーダースーツへの苦情がネットでは少なくない。もちろん、失敗せずに成功している例もあるが、失敗も少なくはないという印象である。

一方、従来型の採寸をするオーダースーツは、自動採寸に比べると失敗が少ない。

 

ではどうして、従来型の人間による採寸は失敗が少ないのか、どうして自動採寸は失敗が多いのか、について考えてみたいと思う。

もちろん、将来的には自動採寸の精度が上がり、もっと失敗は少なくなると考えているが、それは少なくとも10年くらい先の話ではないかと思う。

 

自動採寸ガーのテック系の人たちは、オーダースーツの工程のいくつかの部分を見落としていると感じる。もしかすると、オーダースーツを作ったことがない人が、自動採寸システムの開発をしているのだろうか?

採寸の精度だけでいえば、恐らくは、自動採寸も熟練の職人による採寸もさして変わらないのではないかと思う。

では、採寸の精度自体はさほど変わらないのに、どうして出来上がりがかくも異なるのか。

 

自動採寸の欠点は、一発勝負の採寸で終わる点である。

ZOZOスーツもその他も含めて、採寸方法はそれぞれのシステムで異なるが、一回だけの採寸でそのままスーツの製作に入ってしまう。

だから誤差が生じて変なサイズのオーダースーツが出来上がってしまうのである。

 

一方、通常のオーダースーツの場合だと、低価格のパターンオーダーでさえ、採寸の一発勝負ではない。

当方も昔、38000円でオンリーでパターンオーダーを作ったことがある。また、2年前、お蔵入りになった企画で、街のパターンオーダー屋の取材を行ったことがある。店長インタビューだけでなく、実際にパターンオーダーの採寸の手順も見せてもらった。

 

自動採寸と何が違うのかというと、パターンオーダーの場合、採寸してから「ゲージ服」と呼ばれる「基準服」を着用する。その着用した状態で「ゲージ服」とどの部分がどれほど寸法が異なっているのかを確認するわけである。

おわかりだろうか?基準となる服を試着してもらい、その服と、着用者との寸法の違いをそこで確認するわけである。

仮に、採寸が間違っていたとしても、この基準服の着用によって、その採寸は修正されることになる。

自動採寸は1回キリだが、パターンオーダーは採寸の後に、ゲージ服を使っての修正が入る。要は少なくとも2回確認する機会があるということになる。

採寸の精度がさほど変わらないとして、1回しか採寸しないのと、2回行うのとではどちらの方が精度が高まるだろうか?もうお分かりだろう。

 

さらにフルオーダーだと、ゲージ服は存在せず、採寸してから型紙を作ってスーツを作るわけだが、仮縫いの時点で依頼主に試着してもらい、そこでまた寸法を修正するわけである。

1回キリの採寸と、仮縫いの時点で修正を行うフルオーダーとどちらの精度が高くなるかは、アホでもわかるだろう。

従来型のオーダースーツの場合、パターンオーダーですら、採寸してから修正が入る。

だから自動採寸よりも精度が高くなる。

コンサルタントの河合拓さんは、ZOZOスーツ登場時からこれを唱えておられるが、河合さん以外にこれを唱えている人をあまり知らない。

しかし、こんな基本的なことを河合さん以外の人はどうして言及しないのだろうか。みんなテックを過信しすぎ、テックへの期待が高すぎるのではないだろうか。

 

さらに付け加えるなら、スーツに使用する生地や、求められる形によっても、寸法を正確に採寸するだけでは、着心地の良いスーツにはならない。

極端な例を出すと、スーパー120くらいの薄いスーツ生地と、分厚いツイードの生地を使えば、同じ寸法や同じパターンでは服を作ることはできない。

ツイードの場合、生地が分厚いので、その分厚さの分だけ可動域を確保する必要がある。

薄い生地と同様の寸法だと、見た目はカッコイイかもしれないが、可動域が狭くて動きづらいスーツになってしまう。

じゃあ、ツイードの場合は、もう少し各部のサイズを大きくしなくてはならない。

そして各部のサイズを大きくすれば、裾幅が広くなりすぎたり、袖口が広くなりすぎたりするから、パターンもそれに応じて変更しなくてはならない。

ベテランの職人に備わっているのは、こういう生地を使えば、こういうサイズ取りが必要になるという経験に裏打ちされた勘と、それに応じてパターンを修正するという技能である。

自動採寸システムはどうだろうか?そこまでの対応力が備わっているとは聞いたことがない。

 

この辺りの対応力も自動採寸システムと従来のオーダーの差を分けているのではないかと思う。

 

テックの進歩には当方も期待する部分はあるが、一足飛びに「完全なる自動採寸」が実現されるはずもない。この辺りを整理して、テック側もメディアもアパレル側も認識する必要があるのではないか。

 

 

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 comment
  • BOCONON より: 2020/11/04(水) 5:25 AM

    今の自動採寸で測った寸法が正確だったとしても,それをどうスーツに落とし込むか,が問題ですね。

    ・イージーオーダー・・・以前書いた通り「寸法通り」「体にぴったり」では普通格好良くはならない
    ・既製服≒パターンオーダー・・・寸法が選ぶ助けにはなっても,結局実物を着てみなきゃ「見た目格好いいか」「着心地が良いか」は分からない

    僕は「肩幅狭い」「胸板薄い」「腹出てる」等まことに悲惨な体形ですが,時間とお金かけて既製服選んで上手く着れば,しばしば販売員女子などに「きれいに着てる」とホメられるようなものにはなるのです。
    一方電車などで見ていても,感心するようなスーツ姿は(明らかな業界人を除けば)ほとんど見ない。
    つまりは今のところ体形はともかく「格好良さや着心地の良さを数値化する」なんて事が出来るとは僕にはとても思えない。ましてそれが 〈5万円以下の≒下手な職人が作る〉 安物(と敢えて言おう)スーツじゃなおさら。

    最近三越伊勢丹が自動採寸の安いスーツの通販を始めると聞きましたが,僕にはそれは現状百貨店としては自殺行為のようなものとしか思えないのでした。

  • BOCONON より: 2020/11/14(土) 8:03 PM

    ああ,、尤も今はTシャツのデザインには CAD という立体的にデザインできるものが使われているらしい。僕はIT系には強くないのでよく分からないが,これは案外スーツのサイズ補正に使えそうな気もする。
    CAD と言うのは元来建築方面の技術らしいけれど,建築家出身のデザイナーは珍しくないように見えるし。アルマーニとか,ジャンフランコ・フェレとか。
    まあテック系の人たちがどう言うかは「?」だけど。

    • とおりすがりのオッサン より: 2020/11/16(月) 8:54 AM

      今どきのイージーオーダーのスーツの型紙はCADで作られてるので、補正するのも数値を入力すればPCがいい感じにCAD図面を変更してくれて、機械で布を裁断してくれるようっすよ。あと、CAD(Computer Aided Design)、CAE(Computer Aided Engineering)、CAM(Computer Aided Manufacturing)は建築系だけじゃなく、ありとあらゆる工業分野の設計、製造で使われてます。つか、使ってない分野は無いんじゃないかと。ま、うちの工場なんかは未だに昭和の手書き図面で注文来たりも普通ですけど。

      • BOCONON より: 2020/11/18(水) 5:41 PM

        これは無知をさらしてしまってお恥ずかしいw

        とは言え貴兄がおっしゃるその「いい感じに」補正するというのが言葉通りの意味なら,誰でも良いシルエットのスーツが手に入る筈ですが,そんな事はありそうもない話だし,たぶん実際ないと思われる。
        つまり今のところPCを使っても使わなくても最終的にはセンスの良い人が採寸~寸法補正した上で腕の良い職人が縫製するのでなければ良いスーツは手に入りそうもない気がする。同じ型紙使って同じ生地で作ればどこでも誰でも同じものが出来る,というようなものではありませんからね,スーツというのは。
        ・・・と僕は思うのですが,こういうのはシロウト考えかな。

        • とおりすがりのオッサン より: 2020/11/19(木) 11:08 AM

          「いい感じに」補正って書いちゃいましたが、実際には身体の長さとかだけの数値で機械任せだとそんなに上手くは行かないでしょうね。骨の位置とか出っ張り方とか筋肉の付き方とか色々個人差あるし、フィッターの力量でも変わっちゃうでしょうし。最終的には何度も仮縫いして合わせていくのがベストなんじゃないかとも思います。
          型紙も高度なものになると、一般的な工場では手に負えなくなるとかとも聞きました。最終的にはフルオーダーのハンドメイドに行き着いちゃうんでしょうけど、現世は貧乏で無理なので来世でお金持ちになったら試したいです(笑

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