アパレルの経営指標には「プロパー消化率」よりも「粗利益率」か「営業利益率」を用いた方がいいんじゃないの?
2020年7月27日 トレンド 2
徐々に亡父の死後手続きの終わりが見えてきつつあるが、本当に人が死ぬということはその後がめんどくさいものである。
突発的な事故死や急病死は別として、年老いてきたら、銀行の通帳とカードとか年金証書とかマイナンバーカードとか銀行印とかはまとめておいて、家族にそのありかを知らせておくべきだと思った。探し出すのに大変苦労する。
それはさておき。
最近のアパレル業界では、新しい指標として「プロパー消化率」が注目されているが、実際の運用形態を聞いてみると、「完全な経営指標」たり得るのは無理ではないかと個人的には思う。
せいぜいが「努力目標」とか「販売員の努力目標」とかそういう類にとどまるのではないかと思う。プロパー消化率論者の皆さんには申し訳ないけども(笑)。
半沢直樹の続編ドラマでもセリフとしてときどき「プロパー」が登場するが、アパレルでは「定価」という意味で使われる。プロパー消化率とは、定価販売でどれだけ消化できたかという比率である。
当たり前だが、定価にはそれなりに粗利益が含まれているので、定価で売れば売るほど、粗利益額は高くなる。
プロパー消化率論者が多いのはこういう理論に立脚しているからである。たしかに理論上は正しい。
だが、実際の運用形態はその理論通りではない。店頭のセールやバーゲンの値引きは粗利益を削って値下げされることはよく知られている。このため、プロパー販売にこだわるのも理解できる。定価で売れば粗利益は削らなくて済むからである。
ところが、実際の販売では、一見「定価販売」に見えてもその実、値引き販売されている場合が多い。
まず、
ポイントによる値引き
である。
そして、
クーポンによる値引き
である。
この2つはセール時期、バーゲン時期に限らず、のべつまくなしに行われている。
ポイントやクーポンの値引きを使ったことがない人はいないだろう。ではこれらの値引きの原資はどこから引き出されているのかというと多くの場合は「販売管理費」、通称販管費からである。
販売促進の一環だからそこに計上されるのはわからないではない。
例えば、買い物客にノベルティグッズを配る経費と同じというわけである。ノベルティグッズの多くはだいたい100~数百円くらいで調達されており、購入者に対してはそれくらいのサービスはしてもいいだろうということである。当方もいいと思う。
ポイントの使い方にもさまざまある。
どうだろうか?皆さんはだいたい数百円くらいで使うことが多いのだろうか?しかし、たくさん貯めてドカンと使うという人も少なくないのではないだろうか。
だいたい洋服というのは、ラグジュアリーブランド(H&Mの上級ブランドであるCOSはラグジュアリーには含まない)やインポートブランドを除くと、百貨店ブランドでさえ定価は数千円~数万円くらいだろう。ここから数百円くらいの値引きならさほど大きな影響を与えないと思うが、何千円もポイント値引きをすれば下手なバーゲンよりも値引きしていることになる。とてもではないが「定価販売」とは呼べなくなる。
ちょっと余談だが、プラモデル用の工具で、ゴッドハンドというメーカーが製造販売している「アルティメットニッパー」というめちゃくちゃ切れ味のよいニッパーがある。
定価はなんと5000円もする。たかがプラモデル用のニッパーに5000円である。しかもこれが売れていて、今ではプレミアがついて定価以上の値段で取引されている。
百貨店ブランドの洋服の定価と変わらない。
実は当方はこの「アルティメットニッパー」を今年2月に近所のジョーシンで入手した。断っておくと、当方が金持ちなのではない。
実は、貯まっていたポイントを使って無料で入手したのである。
エアコンが去年の秋に壊れてしまい、修理を依頼したところ廃版なのでもう部品交換ができないということで、エアコンを買いなおしたところ、キャンペーン期間で5000ポイントがもらえた。その5000ポイントをすべて使ってアルティメットニッパーを入手したわけである。
この場合、アルティメットニッパーは「定価販売」されていると形式的には取られる。しかし、実質は無料で配っているわけである。恐らく、プロパー消化率でカウントされるだろうが、実質はゼロ円配布である。
また、7年くらい前、スーツカンパニーで、2900円分くらいのポイントが貯まっていたので、そのポイント全額を使ってワイシャツを1枚無料で購入した。これなども建前上「プロパー販売」として計上されるわけだが、実質は赤字である。
飛行機でもこういうことはよく耳にする。当方は関西国際空港が遠いのでほとんど新幹線で国内移動するが、「マイル」とか「マイレージ」が貯まったからといって、飛行機の搭乗料を無料にして利用している知人は数多くいる。
また割引クーポンも同様である。
ネットでも実店舗でも使えるクーポンというのが頻繁に配布されるが、500円引きとか1000円引きくらいなら、まあ「プロパー販売」の範疇だと言えなくはない。低価格ブランドならアウトだが、百貨店ブランドやファッションビルブランドならそれほど大きな影響はないだろう。
しかし、クーポンでも1万円引きとか8000円引きとかそんな巨額割引クーポンが配られる場合もある。ZOZOTOWNなんかはそうである。そういう場合はよほどに高額なブランドを除けば、夏冬のバーゲン割引にも匹敵するほどの値引き率になる。
それでもそれは「プロパー販売」に計上されてしまう。
数少ない友人の一人であるマサ佐藤氏が繰り返し「プロパー消化率は絶対的な経営指標たり得ない」と自身のブログで繰り返し主張されているのはこのような背景があるからだ。
とはいえ、販売員の努力目標くらいには利用価値はある。だが、極端な話、巨額のポイント値引きやクーポン値引きを繰り返した結果、「プロパー消化率」は高まったものの、販管費がかさんで営業減益・営業赤字ということも起きかねないわけである。
だから、「絶対的な経営指標」として用いるのは危険性が高い。やはり、経営指標として用いるなら、粗利率であり営業利益率が最適だといえる。
プレミアがついて8000円以上に値上がりしているアルティメットニッパーをAmazonでどうぞ~
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とおりすがりのオッサン より: 2020/07/27(月) 1:31 PM
あっ、でもコレ、5,000なんぼかで普通に買っただけのニッパーを10,000円で転売してるとなると、転売ヤーのほうが一生懸命作って刃を付けてるメーカーの人よりも儲けてることになるやんけ!ヽ(`Д´)ノプンプン
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アルティメットニッパーのAmazonのリンクとんでみたら、8,000円から更に値上がりして10,000円になってましたw(2020-07-27,12:00現在)
ガンプラももう10年以上は、ほとんど作ってないので、この会社ことは全然しらなかったですが、検索してみたらコロナ前も結構売れてたようですが、コロナ後に更に売れてるようっすね。
新潟の燕市といえば金属加工業の街として有名ですが、ニッパーみたいな枯れた工具でも片刃にするとか、まだ改良の余地があって、高額でも売れるようになるとはビックリです。ただ、業績見たら従業員40人もいるのに売上は2019年度で5億何千万かなんで、それほど儲かってはいないのかも?営業利益とか知りたいですね。