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南充浩 オフィシャルブログ

プロパー消化率について考えてみよう

2019年11月19日 考察 0

最近は1月、7月のバーゲン時期でなくても服が安く買える。

ユニクロやGAPなどの低価格SPAブランドは10年以上も前から、入荷して売れ行きが悪い商品を一定期間が経過したあと段階的に値下げして売っていた。

このため、店内には常に「セール品コーナー」がある状態で、1月と7月を待つ必要もなく、毎週・毎月値下がりした服を買えるようになった。

 

衣料品の販売が不振になってから、もう20年弱が経過するが、販売不振になったからこそ、1月・7月以外でも各ブランドともに常に安売りするようになり、アパレルの営業利益率は低下してきた。

それゆえにアパレル企業は利益確保のために「プロパー消化率」という指標にコダワリはじめた。

プロパーとはアパレル用語で、定価とか当初販売価格と言う意味で使われる。プロパー消化率とは「値引きせずにどれだけ販売できたか」という指標である。

もちろん、概念としては間違っていない。

値引きせずに売れれば高い粗利益が確保でき、ひいては営業利益も増える可能性が高い。

物事を考える上では指標はある程度必要だから、そういう指標が設けられるのも不思議ではない。

 

しかし、その一方で、実際に正確な「プロパー消化率」を測定するのは至難の業である。

恐らく、正しく測定できているアパレルは数少ないのではないかと思う。

 

国内衣料品市場が圧倒的に増えることは今後も考えにくいから、売上高を増やすことよりも利益確保を目指すべきだという論には賛成である。

そのための指標として「プロパー消化率」を気にすべきだというのは、有名コンサルタントの河合拓さんである。

しかし、同時に河合さんは、いい加減な測定方法に対しても警鐘を鳴らしておられる。

 

https://ameblo.jp/takukawai/entry-12344635876.html

 

例えば、月別、週別にプロパー消化率を見ながら販売計画を追いかけている企業があります。しかし、よく調べてみると、「当月に納品した商品」を分母にし「定価で売れた数量」の割合を追いかけている。一見、何が悪いのかと感じますが、よく考えてみてください。商品仕入は分納が一般的ですし納期遅れも頻発します。つまり、100仕入れる予定が月をまたいで30個、30個、40個という具合に納品され、仮に需要が最初の月が40個、次の月が20個で、最後の月がゼロだとすると、最初の月はプロパー消化率が100%となってしまうのです。

このやりかただと、納期遅れによる分納が発生すればするほどプロパー消化率が良くなるという本末転倒なことが起きますね。しかも、初回月は10個も「欠品」という目に見えないロスも生じていますがこれも見えない。さらに、最終月がセール時期だった場合どうなるでしょう。本来は、余った商品を売りさばく月なのに在庫がどんどん入荷されます。

 

とのことで、ここでは単に「納期遅れ」とだけ書かれてあるが、様々な事情で店頭に予定日に予定通りの数量が入荷されないことはよくある。工場の作業の遅れの場合もあるし、輸送の問題もある。また、表面的には工場の作業の遅れだが、工場への指示出しが遅れてしまったためというブランド側自体の作業に問題のある場合もある。

 

このエントリーで説明されていることは、測定期間の設定を間違えるととんでもない「プロパー消化率」が弾き出されるという事態である。

 

ファッション衣料の場合のプロパー消化率というのは、販売シーズン全期間を通した「総入荷数(上代換算した金額)」を分母にし、販売シーズン全期間を通した「定価で販売できた数(金額)」で割り返すべきで、結論をいえばシーズン終了までプロパー消化率は分からない、ということになるのです。

 

毎月分納された商品を月ごと、週ごとにプロパー消化率を計算したところで、ほとんど意味はなく、意味がないどころか、初月度消化率100%なんて数値が出れば、過剰発注の基になるだけであり害悪でしかない。

 

人間の判断基準なんて曖昧なもので、途轍もなく、変なデザインでインパクトのある服が5枚入荷したとして、その5枚が完売すれば「非常によく売れた。売れ筋だ」と誤認しがちである。

この変なデザインで5枚完売した商品を「プロパー消化率100%」として計上してしまうと、恐らく追加で翌月以降に店頭に入荷する。しかし、変なデザインというのは愛好する人の数は少なく、5人になら売れるかもしれないが、30人には売れない。このため残り25枚は不良在庫になってしまう。

 

果たして各社の測定方法は、シーズンを通じた総入荷数で計算しているのだろうか?その辺りは杜撰な体質が多いアパレル業界だから、初月度とか初回納品だけで測定している企業も多いのではないかと思う。

 

一方、マサ佐藤氏は「プロパー消化率にコダワリすぎても意味がない」という立場だが、その根拠としては、社によって測定基準がまちまちだから、社・ブランドが自由に測定基準を変更できるから、というものであり、実は根底は同じだと考えられる。

 

また、最近はウェブを介した割引サービスも盛んで、例えば、店頭でも使える割引クーポンだとか、ポイント割引だとか、最近だとキャッシュレスの●●%還元なんていうのもある。ストライプインターナショナルが大好きなタイムセールもある。

これらの日常的に起きている割引はどう計上しているのだろうか。

プロパー消化率って何よ?

これらの割引は販管費に計上されている企業やブランドも多いと聞くが、買った客からするとその動機は「値引きされてたから」であり、いわゆる「定価」のままなら売れなかった可能性が極めて高い。

 

販管費に計上されているからということで、ポイント割引・クーポン割引・タイムセールを乱発すれば、帳簿上は「プロパー消化率が高い」ということになっても実質的には「毎日値引き」していることになる。

そういうブランドが果たして「プロパー消化率が高い」といえるのか、ひいては「粗利益率が高い」といえるのかどうか。

客から見れば、「あのブランドは毎日値引きしている」ということになる。

 

粗利益を確保するために指標を設けるのは結構なことだが、その運用ルールを厳密に決めておかないと、弾き出された数字は意味のないものになり、それを基準に次の施策を決めることは道を誤ることになる。

そして、そういう作業をアパレル業界の多くは苦手としているし、いい加減な説明をするコンサルタントも多い。

 

 

 

 

今日は関連した商品もダジャレも思いつかないので、18年ぶりに新刊が発売された「十二国記」をどうぞ~

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