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南充浩 オフィシャルブログ

「良いこと」が必ず「良い結果」をもたらすわけではない

2019年11月18日 ネット通販 1

以前から木下斉さんの不定期連載「地方創生のリアル」を楽しみに読んでいるのだが、書かれてあることの9割くらいは賛同する。

書かれてあることは何も「地方創生」だけではなく、繊維・アパレル業界にもほぼ共通の事象であり、特に当方が普段から接触のある製造加工業者や産地業者は、扱っている品目が違うだけで、ここに書かれていることとほぼ同様の状況に陥っている。

 

「地方活性化の新規事業が大失敗する3つの要因
栃木・塩谷町は1億円売上計画で実績7万円!」

https://toyokeizai.net/articles/-/313809

 

今回はこの記事である。

 

この3つの要因は、産地企業や繊維の製造加工業者にも当てはまるし、ひいては苦戦中のアパレル企業にも当てはまる。もちろん、3つすべてが揃って苦戦している場合もあるし、どれか1つか2の要因で苦戦している場合もあり、それはケースバイケースである。

ではその3つの要因を見て行こう。

 

1つ目は「地域の独自性と理解可能な範囲の新規性」です。
その地域の状況や歴史、環境などを生かした、「その地域だからこそできる」といった独自性を踏まえた筋書きが必要です。さらに、今までこの地域でやってきていない新規性も求められます。ただし、あまりに突飛な新規計画では理解されないので、「審査員が理解可能な範囲の新規性」というラインが大切になりがちです。

2つ目は「一発逆転のキッカケ、起爆剤の役割」です。
この手の計画には「大きく地域が変わるきっかけとなる」、という夢が求められ、地域活性化の起爆剤としての役割が求められます。つまり、小さな事業をやって、大した成果がないというのでは予算がつかないので、ここは大風呂敷を広げて、大きな予算を求めていくことになりがちです。

3つ目は「地域に関わる行政、さまざまな地元団体などが一丸となるという合意形成」です。
「行政、地元団体が一丸となり、地域が1つにまとまれば、まち全体が変わる」。確かに、そうなれば、理想的な話です。この種の計画には、地域のさまざまな団体が加わり協議会を形成し、さらにそこには「外部の専門家まで入っています」、といった具合に「地域が一枚岩」といった内容が書かれがちです。

 

とのことだが、これは地方創生に限らず、苦戦に陥っているどの業種でも同じではないかと感じる。

 

3つとも「悪いこと」ではない。むしろ「良いこと」なのだが、事業を行う上ではそれが邪魔になるケースが多い。

 

 

衣料品業界でいえば、この1つ目の要素の事例としては2005年当時のネット通販が挙げられるだろうか。

 

当時は楽天市場が盛り上がり、Amazonが書籍の通販として知られ始めたころで、珍しい物には飛びつかない当方はまったく使う気もなかったが、当時の同僚は書籍をAmazonで買っていた。当時は、1500円以上で送料無料になるというシステムだったと記憶しており、同僚たちは二人とか三人集まって書籍を注文していた。1冊600円の文庫本でも3人で1冊ずつ注文すれば1800円になって送料無料になる。購入後は名義者に600円ずつを払えば済む。

そんなわけでネット通販が大いに騒がれ始めていたのだが、洋服業界はネット通販には懐疑的だった。何せ試着が必要になる上に、当時はピチピチシルエットが主流だったから、サイズが小さすぎて着られないという懸念が発生した。

そんな中、まだスマホも登場していないのに携帯通販を先行したのは夢展望だったし、大手セレクトショップの誘致に成功したのは今のZOZOだった。

夢展望の成功は先行者利益しかなかったと当方は見ているが、それはまた別の機会にしよう。

 

そんな事例が出始めていたが、実はその頃、当方もネット業者に相談を受けて、在庫処分に特化したネット通販モール構想を手伝ったことがあった。東京ではなく、関西在住なので大阪市内の老舗アパレルを何軒か訪問して趣旨を説明したのだが、いずれもノーだった。

1つ目の要因である、当時としては「斬新すぎる」ことが原因で、その7年後くらいからカビの生えたような旧態依然の老舗卸売りアパレルまでもが「ネット通販ガー」と騒ぎだすのだから笑えてくる。

斬新すぎると審査員はおろか出店者・出品者にも理解されにくい。だから自然と「マイルドな新しさ」に落ち着くが、マイルドな新しさでは往々にして既存のしがらみを壊すことはできない。

 

2つ目だが、一発逆転を夢見るという弊害は何も地方だけでなく、最新企業でもよく見られる。

例えば、繊維・アパレル業界に溢れる「ネット通販なら売れる」とか「ZOZOに出店すれば売れる」という他力本願かつ楽観的な考え方である。

何度も書いているように何万という出店者がひしめき合っているネットという空間で、無名のブランドや認知度の低いブランドが消費者から検索されることはほとんどない。

なぜならばブランド名が知られていないし、ブランドが存在することすら知られていないからだ。知られていないのは存在しないのも同然なのである。

ブログもSNSもやっていない隣の親爺がオリジナルブランドを立ち上げたところで、世の中のだれがその存在を知っているのだろうか。せいぜい家族とその親戚くらいで、そこからの口コミなんてものはたかが知れている。

こういう一発逆転の勘違いは最新企業とその支持者にもある。

一例としては、ZOZOSUITとそれに連動したPBの発売である。また乱立するナンタラPAYというキャッシュレスも同様だろう。ブームが終わりかけている電気自動車もそうだろう。

発表された当時は「既製服は死んだ」とか「ZOZOが世界を制覇する」とか根拠不明の賛辞がネット空間に溢れかえっていたが、物事はそんな一足飛びに変わるわけではない。

 

3つ目はこれこそ繊維・アパレル業界で目にする弊害である。

これの代表は各種の組合事業だろう。

組合員全員の総意でしか動かない。だから繊維の産地総合展なんていうのは、組合員全員が賛成しやすいような玉虫色の取り組みばかりで、まったくインパクトがない。

また予算も平等に割り振られるため、有望な会社に集中させるということもできない。

その結果、出店者までもが「組合へのお付き合いで出店しただけ」ということになってしまっている。

一般企業でも合議制の会社は動きが鈍くなりがちである。逆にトップダウンの独裁型の方が、奏功する場合もある。ただし、それはトップがある程度賢明な場合に限られるが。

 

まあ、そんなわけでこの3つの要素を外した事業は、社内外からは不評だろうが、成功する確率は高くなるのではないかと思う。別に同業他社に褒められたところでカネが儲かるわけでもないのだから、そんな雑音を過度に聞く必要はさらさらない。

 

 

 

創生なので、1キロの業務用ソーセージをどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2019/11/18(月) 5:31 PM

    ZOZOのプライベートブランドは2019年10月31日で完全に終了したようなのに、ネットでググっても終了のお知らせ的なのが全然出てこないのが不思議ですw

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