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南充浩 オフィシャルブログ

店頭経験者なのに店頭のことを考慮しない本部スタッフ

2019年11月15日 考察 0

この20年間で、多くのアパレルメーカーが直営店を持つようになって実質的にSPA化した。

今では本部に店舗販売員出身の人が何人もいる。

大手SPAや大手セレクトショップはもとより小売店だから、当然のことながら、本部には販売員出身の人が多くいる。

 

それにもかかわらず、店舗販売員と本部に溝がある場合が多い。外野からすると、どうして過去に経験したことのある店舗の状況を理解しない施策を実行するのか不思議でならない。

一番それを感じるのが、土日の大量納品である。

ビジネス街にある店舗はともかくとして、それ以外の店舗はほとんど土曜・日曜・祝日に多くの来店客がある。平日の方が来客が多いのはビジネス街立地の店舗くらいではないかと思う。あとはよほどに特殊な事情がある店舗かである。

 

一箱や二箱の納品ならまだしも、10ケースとか20ケースを土曜・日曜に納品されれば接客どころではなくなる。客の立場でいえば、10ケースも20ケースも積まれた段ボールを開封して数量を数えて検品しているような店にわざわざ入ろうとは思えない。

「がんばって作業してね」

としか思えない。

また、手を止めさせるのは販売員にとって気の毒だと感じる。

 

実際に当方も販売員としてこの土日の大量納品をやられたことがある。

はっきり言って、その日の売上高は最悪だった。うず高く積まれた段ボール箱と必死の品出し作業を見てなのか、客の入店がピタリと止まった。

自分が客の立場なら、明らかに入りづらいと感じる。入りづらいというよりは、作業中に邪魔をしてはいけないと思うから入らない。

恐らく同様の人は多いのではないかと思う。

 

これが本部が紡績とか合繊メーカーとか商社ならまだわかる。なぜなら彼らに小売りのことは皆目分からないからだ。

ちょっと話は横道に逸れるが、以前、日清紡が子会社化していたワイシャツメーカーのCHOYAを同業他社の山喜に売却した。これによって量販店向けワイシャツメーカーだった山喜は、CHOYAが持っていた百貨店販路も手に入れた。

まさかワイシャツメーカーの最後の勝者が山喜になるとは、19年前には想像もできなかった。

日清紡はCHOYAを売って、SPA化していた東京シャツを買収して子会社化した。

 

東京シャツは、2000年頃、他のシャツメーカーが相次いで倒産しているのとは対照的に、直営店によるSPA化に成功した。このため、当時は業界の期待を一身に受けていた。

しかし、近年の業績は振るわない。

日清紡の2019年第三四半期連結決算にはこう書かれてある。

 

東京シャツのビジネスシャツおよびニッシントーア・岩尾の衣料製品の販売は振るわなかったこと等により減収・減益となりました。

 

と。

要するに東京シャツは苦戦に転じているということである。

これについて、古株の某業界紙記者は

 

「日清紡の人は『小売りがこんなに難しいとは思わなかった』と嘆いていた」

 

と話す。

実際に当方が耳にしたわけではないが、過去の紡績との接触を思い返せば十分にあり得る話だと思う。

ちょっと回り道をしたが、紡績や合繊メーカーなどが本部だった場合、小売店の現場のことはさっぱりわからない可能性が高いということを説明したかったわけである。

 

しかし、今の多くのSPA型アパレルの場合、店舗販売員経験のある人が本部にいる。それにもかかわらず、やっぱり土日の大量納品は少なくないようで、知り合いの某大手の販売員もたびたび、土日の大量納品について不満を口にいている。

店舗経験のある人なら、土日の大量納品がどれほど迷惑なことか理解しているはずなのに。

 

まさか、昔の姑みたいに「若い頃にこんな嫌がらせをされたから、嫁に同じことをやってやろう」という心境なのだろうか。

 

これに対して、マサ佐藤氏は「本部病」と名付けている。

 

 

”本部病”患者が増えれば顧客は減る

では、私が呼ぶ”本部病”とは何か?ということを以下。簡単に纏めると。。。

① 現場(店頭)経験がなく、販売・現場を下に見ている人
② 販売員から本部へ異動。配属になると、販売員時代に感じた組織の問題点や苦労を忘れていまい、販売員時代と言うことが180度変わってしまう人

私はこのような人を総称して”本部病”の人と呼んでいます。

 

うん。業界あるある。

 

しかし、なぜこういう「本部病」に罹患する人が数多くいるのだろうか。

これに対してある人は「本部に異動すると、周囲から無言の同調圧力があって、同調せざるを得なくなる。同調しないと、ひどい場合は左遷されてしまうこともある」

と説明する人もいる。

 

当方は幸いにしてか、不幸にしてか、販売員は経験したがSPA型アパレルで本部に異動した経験がないから、本部の同調圧力なるものを体感したことがない。

 

しかし、衣料品自体の消費が伸び悩んでいて、一部の好調企業を除けば、大規模閉店や既存店売上高の大幅な落ち込みが珍しくない状況にある中で、稼ぐという点において最も重要な店舗運営をないがしろにしていては本末転倒でしかない。

土日に販売するための「弾」が必要なら、木曜か金曜に納品できるようにすればよいだけの話である。現状のシステムではできなくても工夫すれば可能なはずで、何もそれほど難しい話ではないだろう。

 

KPIがナンタラとか、AIがどうのとか、ナンタラ理論が云々だとか、そんな机上の空論ばかりで物が売れるはずがない。本当に業績を回復させたければ、店頭が潤滑に動けるようにするのが本部の仕事である。

 

それができない企業は消え去るのみである。幸いにして中小零細も含めれば、繊維・アパレル関連の企業は国内に2万9000社あるといわれている。これが半分に減ったところで15000社も残るのだから、供給体制は今と何も変わらないだろうから消費者は誰も困らない。

 

 

 

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