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南充浩 オフィシャルブログ

安い服が必ずしも売れるわけではない

2019年10月2日 企業研究 0

昔、バブルのころは高い服が売れた。正確にいうと売れやすかったのだと思う。

なにせ、安い服と高い服には明らかに差があった。

素材や縫製仕様云々の前に、明らかに見た目の差があった。

例えば、色や柄、シルエットなど、ド素人が見ても明らかに違っていた。それこそ2005年くらいまでのユニクロを思い浮かべればその一端がわかるのではないかと思う。

それまでのユニクロは色のトーンがおかしい物が混じっていた。

変なトーンの紫とかピンクとか。

 

バブルのころはそういう格差がもっとあった。

さらにいえば、服の形自体も違っていた。トレンドに乗っかるのは今も昔もアパレル業界は変わらないが、例えば、「あぶない刑事」が流行って黒いスーツの人気が高まったとしても、量販店では黒いスーツは置いていなかった。

青山やはるやまで3万円くらいで黒いスーツを買おうと思っても買えなかった。なぜなら商品がないから。

必然的に、コムサだとかアトリエサブだとかそういうブランドで買わざるを得なかった。

 

確かにバブル期は可処分所得が多かったのかもしれないが、それだけではない。商品デザイン自体に格差があった。だから高い商品を仕方なしに買っていた部分がある。

しかし、黒いスーツといえば、今ではツープライスでも売っているし、もっと安い店でも売っている。そうなると、よほどの物好きでなければ高いスーツをわざわざ買うことはない。

 

色・柄・シルエット・デザインという見た目において、安い服と高い服の差はあまり無くなってしまった。そうなると高い服が売れなくなるのは当たり前である。

ユニクロやジーユーはその圧倒的な規模感も生かして、素材や縫製のクオリティまで上げている。

 

だから、今、衣料品業界では「価格を安くしないと売れない」と言われている。

 

しかし、「ただ安いだけ」でも売れない。

先日、メックスというメンズカジュアルチェーン店が倒産した。

 

40店舗ほどを運営していた中規模チェーン店である。

 

メックスが破産手続きを開始、負債は約12億円 メンズアパレル「ジージーディー」「グランドグローバル」などを展開

 

「GGD」や「グランドグローバル」「HVC」という屋号の店を展開していた。

社名はわからなくても屋号を見ればわかる人もいるのではないかと思う。

 

当方はこの会社の店をよく見ていた。

当方御用達の、あべのキューズモールに入店していたからだ。

かれこれ5年くらいは目にしていたと思う。

 

あべのキューズモール1階にHVCという屋号の店があった。

ウィゴーとジーユーに挟まれていた。通路を挟んだ斜め前にはGGDがあった。

当方がいつも目にしていたのはHVCの方だった。

 

ウィゴーとジーユーという強烈な低価格ブランドに挟まれていたHVCは、当然ながら、低価格品が並んでいた。

正確にいうと、低価格品ではなく、期末になると恐ろしい破格値に値下げされた商品と言うべきだろうか。

 

ジーユーはいつも混んでいる。ウィゴーも一時期は不振だったが、3年くらい前からは何となく復調しており、店舗はそれなりに客が入っている。

 

しかし、HVCはいつ見てもほとんど客がいない。

商品の値段は両端に合わせたのと、恐らく不良在庫を大量に抱えていたのだろう、安い。

全品70%オフとか990円均一とか790円均一とか590円均一とかそんな値段ばかりである。

 

それでも客が入っているのをほとんど見たことがなかった。

たまにすごくダサい60歳くらいの地元のオジサンが790円に惹かれて入っていたが、商品のデザインが若者向けなので買わずに出てきていた。

 

当方の見る限り、商品は若者向けメンズカジュアルだが、デザインはベーシックだった。

はっきり言えば、デザインに特徴がなかった。ありすぎても困るのだが、無さ過ぎても困る。なぜならベーシックな半袖Tシャツは別にHVCで買わずとも済む。

ジーユーでもユニクロでもライトオンでも売っている。

値段も確かに安いがずば抜けて安いわけではない。せいぜい790円とか590円で、それならジーユーの商品と変わらない。

190円とか99円にまで下げていれば話は別だが。

 

そうなるとHVCなんていう馴染みのない屋号の店で買うよりは、ライトオンやジーユーなどの著名な店で買った方が安心感がある。

 

だからまったく売れていなかった。

GGDも同じくあまり売れている気配を感じなかった。

 

当方が、面妖だと思ったのは、そういう閑古鳥状態が明らかに5年近く続いているにもかかわらず、HVCが撤退しなかったことである。

通常のチェーン店だと2年か3年粘って売れなければ確実に撤退する。

 

こんなに売れてなさそうなのにどうして撤退しないのだろう?と常々不思議に思っていた。

思っていたら、倒産が発表された。

 

今から思えば、撤退するカネさえなかったのではないかと思う。

撤退するにもカネがいるし、契約期間が残っていれば、デベロッパー側に違約金を支払わねばならない。

恐らくそのカネさえなかったのではないかと思う。

 

毎シーズン大量に発生した売れ残り在庫は恐らく、処理しきれずに資金繰りを圧迫していただろう。

 

安い洋服はたしかに売れやすい。しかし、安いからといって必ず売れるわけではないということがHVCを見ていればわかる。

アパレル業界はそのことをもう一度よく考えてみる必要があるといえる。

 

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