百貨店が「売れる商品」を揃えられない理由
2019年4月25日 百貨店 0
既存のあらゆるシステムのままで百貨店の売上高が再浮上すると思っている人は、よほどの病的な百貨店信者を除いてはほとんどいないだろう。
恐らく百貨店の社員ですらさらさら思っていないだろう。
また、百貨店を主販路とするアパレル各社がV字回復することは考えにくい。これも各方面からほとんど異論がないのではないかと思う。
この2つについてはさまざまな要因があるが、「顧客情報を共有できていない」ということも最大の要因ではないかと思う。
折りに触れて何度かとりあげている河合拓さん著「ブランドで競争する技術」の「第6 章百貨店の構造問題と対策」の中に、こんな一節がある。
さらに、企業から見て、債権者が百貨店なのに、売上計上タイミングが最終顧客の購買時という変速(変則の誤字か?)ルールが生み出す決定的な矛盾は、「顧客情報」が企業でなく百貨店に属するため(個人情報の絡みもあって)百貨店はマーケティング・データを企業に開示できないということだ。このため企業は、効果的なCRMを構築できないのである。
とある。
その結果としてどうなっているかというと、
商品の生産数量決定というリスク要因は企業が持ち、生産数量に影響を与える顧客情報は百貨店が持っているのだから、企業から見ればまさに、目隠しで高速道路を運転している状況となる。生産され、店頭に並べられた商品は、当たるも八卦当たらぬも八卦ならぬ、売れるも八卦売れないも八卦なのだ。
となる。
この本が発行されたのは2012年だから今から7年前になる。
7年も経てばさすがに少しは変わっているのではないかと思っていたがどうやらそうでもないらしい。
某デザイン会社社長と今年の2月ごろ久しぶりに酒を飲んだ。お忙しい人なので年に1度か2度会うか会わないかという感じである。
で、この会社はさまざまな商品のリファインやプロモーションも手掛けており、それこそ「産地のナンタラ」とか「地場産業のナントカ」なんていうのをリファインして、販路開拓まで行っている。その販路の一つには百貨店がある。
で、その社長が言うには、百貨店と納入メーカーが集まった席上で、
「百貨店は売れる商品を持ってこいというが、そういう顧客データがないのに売れる商品を作れるはずがない。いっそのこと顧客データを開示して『この人たちに合う商品を開発してくれ』と言った方が確実に売れる商品が出来上がるから、それをやってはどうか?」
と提案したらしい。
ところが、百貨店側から返ってきたのは「それは難しい」という答えだけだったという。
聞いている範囲では、その席上では「個人情報保護の絡み」という発言はなかったようだが、これがないと単に百貨店が消極的だとしか受け取られかねない。
おそらく、百貨店側が口を濁したのは個人情報保護の絡みがあったからではないかと思う。とはいえ、口を濁さねばならないほど後ろ暗い理由ではないから、そこで口を濁すというのは対応が不味かったとしか言いようがない。
7年間の違いはあるが、両者は同じことを言っている。そこから類推できるのは、この百貨店の基幹システムは7年間ほとんど変わっていないということである。
2010年頃には有望視されていたインターネット動画中継Ustreamが10年持たずに廃止されるほど、今の世の中は移り変わりが早い。
タレントブランドの中では大成功と目されていた梨花さんの「メゾン・ド・リーファー」が要因はさまざまに推測されているが、7年間で廃止に至ってしまうほどである。
たまたま思い付いただけにすぎないが、2012年スタートのメゾン・ド・リーファーが廃止に至るまでの7年間と、河合拓さんの本が2012年に発行されてから、某社長の発言に至るまでは同じ7年間である。
移り変わりの早い世の中にあって、7年間まったく手付かずというのは、時代に取り残されても当然ではないかと思う。
百貨店内に「箱」として直営店を出店している多くの洋服ブランドは、ファッションビル内や路面に自社の直営店舗を持っている。そこではPOSレジに顧客データを吸い上げており、自社内で管理している。百貨店内の「箱」ブランドが目隠し状態のままで何とかそれなりに売れる商品を供給できているのは、ファッションビル内や路面の直営店からの顧客データがあるおかげだろう。
しかし、ファッションビルと百貨店では微妙に顧客層が異なる部分がある。ファッションビルの顧客情報だけでは、百貨店顧客にアジャストする商品は企画できない。
ファッションビル内や路面店を多数運営できる大手アパレルならまだしも、そうではない小資本のブランドや工場のオリジナルブランドでは百貨店で売れる物を生み出し続けることは不可能である。
また、百貨店もこの壁があるから、すでに顧客が多数付いている有名ブランドを導入するのだろう。その結果、どの百貨店の売り場も同質化してしまっている。
河合さんが本で提言していることや、某社長が提言したことが実現が困難なことは外野たる当方も理解できる。しかし、これなくして、単なる新ブランド導入とか、ディスプレイの変更とか、社員の制服の変更とか、そんな小手先の誤魔化しでは到底売上高が浮上しないことはすでに散々実証されている。
IT化だ、情報社会だ、といわれて久しいのに「顧客情報」を共有化できないままに「売れる商品が欲しい」「売れる商品を企画してほしい」と百貨店側が嘆いているのはナンセンス以外の何物でもない。
個人情報保護法の絡みはあるが、そこを打破しないと、これからも百貨店の閉店・閉鎖は止まらないだろう。
河合拓さんの本をどうぞ~