限りなく透明に近いレナウン
2019年4月12日 ネット通販 1
3月末は決算期の会社が多いから、4月~5月にかけては決算発表が相次ぎ、業界メディアでも決算記事が毎日多数更新されている。
しかし、業界メディアでもそれに付随するSNSでもほとんど触れられない企業もある。
大手の一画を占めるレナウンの決算はほとんど話題にならない。
しかも結構な赤字額であるにもかかわらずだ。
レナウンの2019年2月期連結は
売上高636億6400万円(前年比4・1%減)
営業損失25億7900万円
経常損失19億9800万円
当期損失39億4200万円
と大幅な赤字転落に終わっている。
ちなみに2018年2月期連結は
営業利益2億1500万円
経常利益5億6500万円
当期利益13億5200万円
で、少ないとはいえ黒字だった。
そこから比べるととくに営業損益の悪化は目を覆うほどである。
また、
2019年度より決算期を2 月末日から12月31日に変更することを予定しています。決算期変更の経過期間となる2019年12月期(第16期)は、2019年3月1日から2019年12 月31日の10ヶ月決算となる予定です。
とのことだ。
今回の大幅な赤字転落の理由は決算短信ではあまり触れられておらず
コートを中心とした防寒ア イテムの販売が苦戦し、主力販路である百貨店向け販売を中心に売上高は減少しました。加えて、在庫増加による 評価損の拡大などにより売上総利益が減少し、営業利益、経常利益は減少しました。
と説明されているのみだ。
この文章を元に考えると、コート・防寒アウターが暖冬で売れずに不良在庫が増えて投げ売りしたために巨額の評価損が発生したと考えられる。
アパレル各社にとって、コート・防寒アウターというのは高単価で販売できる商材なので、どうしてもたくさん売りたがる。旧態依然としたアパレルはたくさん売るためにはたくさんの数量を仕込む。
売る商材がなければ売れないから、たくさん売ろうと思えばたくさんの数量を生産したり仕入れたりするというのは理屈としては正しい。
しかし、この理屈が通用したのはバブル崩壊直後までである。
ユニクロが在庫を積み上げて売り減らしができるのは、強力な販売力があるためである。
強力な販売力は、価格に比べての品質や機能性に優れているからで、価格優位性・商品優位性が他のアパレルブランドよりも高いことに裏付けされている。
店舗数も約800店と多いことも注目されるが、例えば、ワールドだと1ブランドの店舗数はユニクロよりも少ないが、全ブランドの店舗数はユニクロよりも多く、全国で2000店を越える。
となると、店舗数の多寡よりは、販売力の強弱が左右するといえる。
しかし、レナウンほど話題に上らない大手の一画というのは珍しい。
久しぶりにちょっと気になったのでレナウンのウェブサイトを覗いてみた。
正直なところ、今後売上高はもとより利益が回復できそうなブランドは存在しなかった。
アクアスキュータム、エンスイート、アーノルドパーマー、シンプルライフなどなど・・・。
どれもブームになりにくいブランドばかりである。よほど斬新なリニューアルをしないと現状維持が精いっぱいだろう。
河合拓さん著の「ブランドで競争する技術」の中では、レナウンのEコマースを使った復活策として
スーツで名高いダーバンをもっと活用すべきだ
と書かれてあった。
この本が発行されたのは2012年のことなので今から7年前の提言である。
たしかにダーバンのスーツはクオリティも高いし、価格も安からず高すぎずでありステイタス性もそれなりにある。そこで
レナウンは自らダーバンのための専用工場を持ち、スーツを自前で作っている。同社は、この自社資産の工場の稼働に苦労しているようだが、この特徴を逆に活かすことだ。
と書かれてあり、
自社工場を活かしたオーダースーツをEコマースで販売すべきだと書かれてある。
繰り返すがこれは2012年のことである。
この本を読んだのは今年であり、7年後の今読むと、この戦略を実施したのはレナウンではなくオンワード樫山だったという未来がわかる。
オンワードも「五大陸」などのメンズスーツブランドを持っている。そのノウハウを活かして立ち上げたのがカシヤマ・ザ・スマートテイラーで、損益はちょっと不明ながら売り上げ規模は急速に拡大している。
ZOZOのPBオーダースーツが注目されたが、物作りを知らない企業がやったために大幅な納期遅れや採寸間違いが発生し、現在のネット上ではあまり話題に上らなくなってきている。
一方、オンワードも古いアパレルだが、その古さを活かして物作りの背景確保は堅実である。スマートテイラー開始と同時に中国に工場を用意しており、売り上げ規模の拡大に応じて工場も拡大している。
工場を抱えるデメリットも存在するが、メリットも確実に存在する。逆にZOZOの場合は工場を抱えないデメリットが顕在化したといえる。
7年後の今、この本を読むと、河合さんのレナウンに対する提言をそっくりそのままオンワードが実践していることに驚くとともに、当時の河合さんの提言は正しかったことがわかる。
レナウンは2010年に中国企業の傘下となり、当初は中国流の改革に期待を寄せる声も見られたが、9年が経過しようとしている現在まで変わった部分はほとんど見られない。
逆に業界メディアでも触れられないほどに、その売り上げ規模の大きさの割には、存在感が希薄になってきている。
今の状態は「限りなく透明に近いレナウン」とでも言えばよいのだろうか。
まだ読んでいない方は河合拓さんの著書をどうぞ~
いつも慧眼な記事を拝読しております南先生、初めてコメントを差し上げます。
私は20代半ばでアパレル販売員をやっておりますが、かつて自分はダーバンに憧れ、就活時代にお祈りメールを頂戴したレナウンを取り上げておられる今回の記事に深く頷きました。
レナウンが擁するダーバンは私の両親が若き日にアラン・ドロンを据えたCMで『大人のエレガンス』をアピールしてきたブランドですが、メイドインジャパンの誇りと誇示しながらも中国資本の買収に始まり、常日頃南先生が仰っておられるアパレル企業の勘違いと無能さの例に漏れず、ジリジリ(めっきりと、の方が正しいかも…)と落ちぶれており辛く思います。
失敬、自分語りが過ぎました。毎年夏場の南先生の酷暑への怨嗟の記事も一介のスーツオタクである私も現場人間としてクールビズ売場の参考にさせていただいております。
これからも悲壮にして散々たるアパレル業界を論じてください、失礼しました。