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南充浩 オフィシャルブログ

合議制では物事は前には決して進まない

2018年10月29日 産地 0

「船頭多くして船山に上る」
とは、よく言われることである。
例えば、今、非常勤講師に通っているファッション専門学校でもそのことは顕著である。終業課程として、模擬店を開催しているが、なかなか品ぞろえも決まらない。
学生たちに商品を選ばせても、当たり前だが、各メンバーが対等な立場なので、独断で決めることが難しい。逆に公平であろうとすればするほど決まらない。とくに商品選びなんて自分の好みが反映されるから余計にそうなる。
だれもが等しい発言権を持つという合議制は美しいかもしれないが、何事も決まらない・決められない。
だから「店」とか「ブランド」をやる場合には、だれか一人の強烈なリーダーシップ、もしくは少数の寡頭体制の方がずっと効果的である。
どうしてこんなことを書いているのかというと、産地組合がときどき、組合員を全員集めた「産地ブランド」を作ることがある。この企画はだいたいが失敗する。理由は専門学校の模擬店と同じだ。
個人的には、同じ理由であまり成功するとは思っていなかったので、まったく興味を持たなかった企画が先日始まった。これは産地全体ではなく、京都と和歌山の産地から有志20社が集まって行う企画である。
https://www.sankei.com/region/news/180704/rgn1807040004-n1.html

京都、和歌山両府県の繊維関連業者が共同でテキスタイル(布地)のコラボブランド「わこと(WAKOTO)」を立ち上げ、関係者が3日、京都市内で発表会を開いた。

7月の記事だ。
まあ、試みとしては悪いとは思わない。個人的に面識のある会社も何社か参加している。しかし、強烈なリーダーシップを発揮する指導者がいないから、青雲の志に燃えている初年度は良いとしても、次年度以降はまとまりを徐々に欠いていくのではないかと見ている。人間なんてそんなもんだ。
真ん中に超有名デザイナーとか超有名プロデューサーがいれば話は別だ。よほどの「名ばかり超有名人」でない限りは、それなりに自分のプランを各社にやらせるから、チームとしての活動は円滑になる。
だが、この参加メンバーの顔触れを見てもそうではないと容易に推測される。恐らくは参加社すべてが対等な立場での「美しいだけの」合議制になるだろう。
これについて、当方は興味を全く持てなかったため、これまで触れてこなかった。しかし、これを触れたブログがあったので、紹介しようと思った。
https://www.ulcloworks.net/posts/5081981
少々過激な表現はあるが概ねその通りで賛同する。産地に行くと、全国的にはほとんど無名なのに産地では崇められている「地方限定コンサル」が少なからずいる。
個人的には何人も顔が思い浮かぶのだが、例えばやたらと「これからの時代はラグジュアリー」を10年前から連発していた老コンサルがいたが、ご本人はラグジュアリーどころか、当方と同じ、スポタカで2800円くらいまで値下げされて投げ売りされていたプーマのスニーカーを履いていたのだから、笑えてくる。「これからの時代はラグジュアリー」と説くなら、せめて身なりくらいはラグジュアリーっぽくしないと説得力はゼロなのだが、なぜか某産地では崇め奉られている。不思議なことだ。
 

これそもそも論で、僕らのような中間メーカーで産地またがって生産している業者は結構存在していて、実はそういう動きを各社ベースでやってるから打ち出しとして特に目新しいことではない。
そして産地は確かに技術が卓越しているかもしれないが、他の産地で出来ない物なのか?と問われればそんなことはない。
機械背景があれば上手い下手はあれど、できる。
それでも産地に盲目になって付加価値があるとか言い出す。
世の中の服屋の服見てみろよ、産地を付加価値にしてどのくらい収益改善できるか予測できるでしょ。
 

とのことだがこれも正しくて、「産地クロスオーバー」なんて言っているが、通常の店頭に並んでいる洋服の中には産地何か所かにまたがって作られている物は決して珍しくはない。それが単に報道されない・認識されないから、メディアはまるでニュース価値があるかのように考えているだけである。
撚糸と生地製造と染色加工はそれぞれ別の産地で行われた洋服なんてさほど珍しい物ではない。実はありふれている。
 

この手の取り組みは、調べてみると概ね補助金が絡んでいる。
この補助金を取って事業を展開する際、自力で思いつかないから外部コンサルを依頼することが多い。
そしてコンサルに結構な金額積んでコーディネートしてもらい、結果が出なくても「まぁ色々やったし良い経験なったわな!」で終わる。
産地の経営者も、コンサルも、それなりにハッピーで終わる。
しかし実務のスタッフはどうか。

 
ともあるが、これも概ね正しい。
先のラグジュアリー先生もそうだが、とくに何も大きな成果は出していないし、逆に改革案を出すと、産地組合は嫌がって抵抗する場合が多い。「前例がない」とか「やるのが億劫だから」「補助金が出ないかもしれないから」、産地組合が新しいことを否定する理由はほとんどがこの3つのどれか、または全部である。
 
このチームは9月に展示会を開催したそうで、その記事も掲載されているが、画像の生地の色柄はどう見てもそんなに良いとは思えない。一つ一つは良いのかもしれないが、集まると柄が多すぎてハレーションを起こしているように見える。さらに言えば、色のトーンも少しだけグレイッシュで統一されているように見え、どれもこれも同じトーンだから平板に見えてしまう。
これが産地展の欠点で、多くの場合は、産地の工場が自社で考えた色柄、もしくは昔から使っていた色柄をそのままサンプルとして展示する。大手工場はそういう色柄・デザインの専門企画職がいるが、中小零細の工場にはそんな専門企画職はいない。現場のオヤジや社長が自ら色柄を考案する。この人たちは製造のプロではあっても図柄・デザインのプロではない。だから出来上がった色柄はひどくダサい、ピンボケしたようなトーンになってしまう。
それをいくら「伝統の技法」とか「職人技」とか言ったって、ダサい色柄とか変なトーンの色の服なんて誰も着用したくはない。しかもジーユーやユニクロとは違って価格は高い。高くてダサい服なんていくら「伝統」とか「職人技」が詰まっていたって買いたくはない。
そこをわからない限りは産地のオリジナル製品は何百回やったって成功するはずもない。
 

【告知】
11月24日に大阪でウェブコンテンツに関する有料トークショーを深地雅也氏と開催します。
https://eventon.jp/15080/
NOTEの有料記事もよろしくです
地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています

 

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