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南充浩 オフィシャルブログ

ZOZOのジーンズ無料配布が販促的には悪手だと考えられるワケ

2018年10月9日 ネット通販 0

CPA (Cost per Acquisition) という考え方がある。
これは通常、広告費のことを指しており、どれだけ広告費を使ってどれだけ回収できたのかという考え方である。しかし、現在、いわゆる純粋な「広告」はだんだんと効果を発揮しにくくなっており、その代わりとなる販促物を考えることが迫られている。
久しぶりにコンサルタントの河合拓さんのブログから引用しよう。
https://ameblo.jp/takukawai/entry-12340008298.html

AmazonプライムやZOZO SUITなど、特大サービスともいえる出血大サービスをネットガリバー達はやっています。普通の感覚からいえば「あんなことをやったら大赤字じゃないのか」と感じるのですが、これをCPAと考えればどうでしょう。
Amazonプライムなどは「こりゃお得だ」ということで、凄い勢いで顧客数を増やしていますね。一見これだけみれば、「出血大サービス」に見えますが、これを「顧客獲得コスト」と考えれば合点がゆきます。例えば、私の生活の中でAmazonの占める割合は恐ろしく増えています(LTVが増加している)。従って、一度プライム会員にはいっても、Amazonシェアが増えれば回収できるのです。
 

とのことで、巧みな企業はこの考え方を使って「広告」ではない「広告」を行っているといえる。
一方、稚拙な企業はいまだに「CPA」を「広告」だと一元的に理解して、効果の薄い媒体に「付き合い」と称して広告を出稿していて自社の利益を削っているのである。
この考え方に沿うと、例えば、20年前に携帯電話やPHSを街頭で無料配布や1円配布していたこともCPAだといえるし、Yahoo!BBがモデムを無料配布していたこともCPAだといえ、巧みな企業はすでに20年前からこの考え方で動いていたといえる。
計測用のZOZOSUITもこのCPAの考え方に則って無料配布されていたと考えるべきで、引用した部分では河合拓さんもそのように見ておられる。
 
しかし、今回ZOZO(旧社名スタートトゥデイ)が10月15日まで打ち出した、自社製品ジーンズの無料クーポン配布という販促はかなりの悪手だといえる。

 
CPAの考え方を生かすのであれば、計測用ZOZOSUIT配布の時点で、同時に無料配布すべきだった。もしくは、自社製品ジーンズ(3800円)を発表した時点でキャンペーンとして無料配布すべきだった。
今回のキャンペーンがなぜ悪手なのかというと
1、発売から半年ほどしか経過しておらず、正規料金で買った消費者が不満を持ちやすく、返金キャンペーンなどにつながる恐れがある。
2、途中で無料配布することは在庫過多や販売計画未達のため焦っているという印象を周囲に与える
3、無料に集まるお客は「無料が好きな人」であるため、顧客になりにくい。とくに期中での無料配布はそういう「無料好きな人」を集めやすい
の3つの理由からである。
1は言わずもがなだ。たとえば、5年前とか10年前とかから販売が続いている定番商品の無料配布キャンペーンならまだ購入者も納得しやすい。「これだけ長く続いているんだからなあ」という感じになる。しかし、自社ジーンズは発売してまだ半年ほどしか経過していない。この時点でいきなり無料配布をしてしまえば、先週までに定価で購入した消費者は不満を持つ。最悪の場合は「返金せよ」というクレームが殺到する。不満を持った購買者は二度とZOZOの自社企画製品を買わなくなる。
 
2についてだが、当方もそのように見ている。今回のジーンズ無料配布は、計測用ゾゾスーツで新規客が計測してくれたら無料で差し上げますということで、計測用ゾゾスーツでの計測率が低いということに焦っていると見える。当初に発表された着用してスマホと同期させることで瞬時に計測できたゾゾスーツなら計測率は高かったのだと思うが、途中で勝手に仕様変更した現在の水玉ゾゾスーツで計測率が低くなるのも当然ではないかと思う。
なにせファーストモデルのような近未来感がない。そして何より、着て12回ぐるぐる回らねばならないというめんどくささ。
おまけに計測数値には誤差が頻発する。
これは計測理論の根本が間違っているからで、科学の場合、間違った理論をいくらPDCAしたところで正しい結果にはたどり着かない。これが科学の常識である。
計測数値の精度を高めるには、新しいきちんとした計測理論に基づいてスーツを設計しなおすのがもっとも近道だといえる。
3は、ある程度知名度の高い商品を無料配布しても無料を欲しがる人は購買者になりにくい。極端な例でいうと、2009年6月のモーブッサンのダイヤモンド無料配布事件である。
フランスの「モーブッサン」という高級宝飾ブランドが銀座店をオープンする時に行ったキャンペーンで、0・1カラットのダイヤモンドの裸石を無料配布すると告知したところ、想定以上の長蛇の列ができた。
 

「モーブッサン」ダイヤ5000個を無料配布、銀座に長蛇の列
http://www.afpbb.com/articles/modepress/2607580

当時、テレビのワイドショーでも取り上げていたが、並んでいる者の中には「プレゼントするために大阪から新幹線で来ました」なんてのもいて、経済観念の破綻ぶりを見せつけていた。新幹線の東京~大阪往復料金は3万円弱で、それだけのカネを払えるなら、それで3万円のアクセサリーを買ってあげた方がよほど喜ばれる。指輪にもネックレスにもイヤリングにも加工されていないダイヤモンドの裸石なんてもらったところで使い道もないし、0・1カラットのダイヤモンドに3万円の価値があるとも思えない。
こういう思考の人はビジネスでは絶対に成功できない。
このとき並んだ1000人のうち、何人がモーブッサンの顧客になったのだろうか。当方はほとんどなっていないと見ている。モーブッサンという高級宝飾ブランドの顧客になり得るだけの資産を持っている人はたかが0・1カラット程度のダイヤモンドの無料配布には並ばない。
今回、ZOZOジーンズを無料で応募する人も同様に「無料が好きな人」であり、ZOZOに興味のある人でも支持者でもないと見るべきだろう。興味のある人や支持者ならすでに購買している。
CPAという観点で見ると、一見正しいように見える今回のジーンズ無料配布だが、計測スーツとは異なり、CPA的に見ても販促効果的に見ても逆効果になる可能性が極めて高いといえる。
当方にはZOZOの焦りとしか見えない。
消費者は極めて冷静で、すでにジーンズ無料クーポンがメルカリに出品されている。3800円相当の商品だが3800円では取引されておらず、500~1900円くらいが相場で、メルカリで売れやすいのは1000円未満の価格である。要するにこの無料クーポンの価値は1000円未満だと判断されているということである。

恐らく、この無料ジーンズキャンペーンの効果だろう。10月9日の朝の株式相場ではZOZO株が一段の値下がりを見せている。ピーク4875時円あった株価は10月9日の午前10時現在で3090円にまで下がっている。前日比で比べても120円の値下がりである。
販促も世間の注目を集めることも必要ではあるが、今、ZOZOが真にやらねばならないことは、誤差が生じやすい計測用ZOZOSUITの精度を高めることであり、そこに投資をすべきである。それがZOZOの本業であり絵画も月旅行も本業には何ら関係ない。ZOZOSUITの完成度を高めることが株価回復への最短の道であると当方は思うが、どうだろうか。まあ、他人の会社だからどうでもいいんだけど。
 

NOTEの有料記事もよろしくです。
地方百貨店を再生したいなら「ファッション」を捨てよ
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n56ba091fab93
2016年に行ってお蔵入りした三越伊勢丹HDの大西洋・前社長のインタビューも一部に流用しています。

 
安売りは効果がある場合が多いけど必ず売れるとは限らない。高く売ることも考えるべき。高すぎても売れないんだけどね。(笑)

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