MENU

南充浩 オフィシャルブログ

ファッション専門学校でマーチャンダイザーを養成するのはほぼ不可能

2018年10月5日 ファッション専門学校 0

皆さんがご存知の通り、アパレル企業内に職種は何種類かある。
デザイナー、パタンナー、生産管理、営業、販売などなど。
営業と販売は物を売る仕事である。営業は対企業、販売は対消費者・一般客という感じで使い分けられている場合が多いと思う。
意外に、つぶしが効くのが生産管理である。
いわゆる生産の管理、日程の管理で、工場やOEM/ODM業者との折衝・管理、素材業者との折衝などを行う。
例えば「〇〇のジーンズの生産進捗率はどれくらいですか?再来週の納品に間に合いますか?」というようなやり取りを行う。工場でトラブルがあれば真っ先に相談を受ける部門でもある。
例えば「〇〇のファスナーが足りない」とか「〇〇の生地は滑脱しやすいので変更できませんか?」とかそういう感じである。
デザイナーだと、つぶしの効かない場合がある。
自分の得意とするテイストやラインと、所属する企業ブランドが合わないなんてことも珍しくない。アパレル企業は倒産したりブランド廃止したりが日常茶飯事だから、自分が属していたブランドがなくなると他社・他ブランドに移ることになる。その際、テイストやラインが自分の持ち味と合わないことがある。
そうなると、その集団には所属しにくくなる。もしくは閑職に追いやられてしまう。
生産管理の場合は、このミスマッチが少ない。生産に関することを管理するのだからアイテムは何でも良い。ジーンズだろうがセーターだろうが、シャツだろうが、管理するベースは同じだ。あとは素材や商品の特性によって細部が変わるだけであり、生産管理を担当していた人はどこにでも転職しやすいし、自分の持ち味と担当ブランドのテイストとのミスマッチが比較的少ない。(ブランドのテイストも関係ない)
そんなアパレルの職種の中でももっとも重要になるのがマーチャンダイザーだろう。
企画部門(デザイン・パターン)と営業販売部門を束ねて商品計画と利益管理を行う職種であり、経営の一角も担う。
 
18歳人口の減少と、ファッション進学者の減少というダブルパンチで苦戦し続けているのがファッション専門学校で、各学校はあの手この手で生徒を集めている。
ファッション専門学校は伝統的にデザインに関する学部や学科が花形だが、現在のファッション産業の実態から見ると、沿っていないといえる。とくに「デザイン画」と称して「ファッションイラストの描き方」を教え続けている教育方法では、企業の求めるデザイナーを育成するとは言い難い。
ファッション産業で求められているのは、BtoBなら営業だろうし、BtoCなら販売である。こちらはファッションビジネス学部ということになる。
 
そんな中、「マーチャンダイザーを養成する」という看板を掲げる専門学校があるが、これはいかがなものだろうか。
上で職種について書いたようなことはアパレルに携わる人ならだいたいご存知のことばかりだが、企画と販売を束ねて利益管理を行い経営を担うような職種に新卒生が就任することは、まともな規模のアパレル企業なら不可能である。
アパレル以外の企業でいえば、大学を卒業したばかりの若者をいきなり企画と営業の統括に就けるようなものである。
しかも「マーチャンダイザー」と一口にいっても、各社によって内情は少しずつ違う。「プロデューサー」を名乗らせている企業もあるし、価格決定は社長権限という企業もある。学校で教えたカリキュラム通りに業務を進行できる企業はほとんどない。
 
さらにいえば、専門学校の授業だけでマーチャンダイザーのすべてを学ぶことは不可能で、少なくとも何年間かの実地訓練が不可欠である。
 
マーチャンダイザーになるためには、企業に属し何年間か働いて、営業と企画の両方をある程度理解できるようになる必要がある。
 
マーチャンダイザー養成コースというのは、実際にはほとんど誇大広告だといえる。個人的にはこういう看板を掲げて生徒を集めるのはいかがなものかと甚だ疑問を感じる。基本的な知識は教えられるとしても卒業してすぐにマーチャンダイザーに就任なんてことはほぼ実現不可能である。
 
それよりもファッション専門学校で必要なのは、ウェブに関する学科・学部ではないだろうか。アパレル業界が期待しているよりも現時点でのネット通販での服の売上高は小さい(推定9500億円)が、徐々には増え続けるだろうし、ブランドにはウェブサイトによる販促、告知が必須となっている。
ネットが万能だとはまったく思わないが、今後、ウェブサイトを持たないブランドやアパレル企業はあり得ない。
そうなると、ウェブの高い知識やスキルを持った人材が必要になる。そういうことがからっきしな老人経営者が多いから余計に必要になる。
 
外注先に振るという手もあるし、なんでもかんでも自社内に抱え込む必要もないが、外注に振るにしたって自社内にそういうことに知識のある人が何人かは必要になる。
 
荒唐無稽な「マーチャンダイザー養成コース」よりも「ウェブに強い人材を育てる」の方がよほど実現性が高いし、就職率も上がるのではないかと思うがいかがだろうか?
 

NOTEの有料記事もよろしくです。
ライザップグループのアパレル事業が大きく伸びるとは思えない理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n0200a63add2e

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ