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南充浩 オフィシャルブログ

洋服の価格問題~高すぎても売れにくいし安くしても必ず売れるとは限らない~

2018年10月4日 企業研究 0

利益を確保するために価格を上げようという声をアパレル業界ではよく耳にする。
売る姿勢として、それは正しい。できるだけ高く売ってできるだけ多くの利益を確保すべきである。しかし、高すぎる価格設定は買える客を減らすことになる。
 

価格が高くなりすぎても売れない 

先日、某小規模カジュアルメーカーの展示会に伺ったところ「メンズの個人経営のセレクトショップ、小規模セレクトショップは廃業するところが急増しています」とのことだった。
その理由は、各ブランドの商品が値上がりしすぎて、売れなくなったためだ。
これは低価格ゾーンのことではない。カジュアルシャツが最低でも1万円くらいはする価格帯の話である。

「今まで2万円弱だったシャツが3万円くらいまで値上がりすると、途端に売れ行きが鈍ります」

とのことで、低価格の買い物に慣れ切っている当方からすると当然だといえる。3万円のカジュアルシャツなんてよほどの「何か」がないと買う気にもならないし、買えるだけの財力を持っている人の数は少ない。3万円あったらスーツもコートも買える世の中である。
超高価格になりすぎると、買える人の数は少ない。よほどの富裕層かよほどのマニアだけになり、両方とも人口は少ない。
その価格帯に向けたブランドがゼロになることはないが、今までのように多数が共存共栄することは難しい。いくつかのブランドが生き残るほかはすべて淘汰されることになる。
おまけに富裕層は、欧州ラグジュアリーブランドも買う。高価格帯に足を踏み入れるということは欧州ラグジュアリーブランドとの競合にもなる。欧州ラグジュアリーブランドと争って勝てる国内ブランドがどれほど存在するだろうか。ましてやマンションメーカーに毛が生えた程度の小規模国内ブランドでは勝負にもならない。
ところで、どうしてメンズブランドの価格が高騰するかというとそれにはいくつかの理由が考えられる。
1、原材料の高騰、工賃の上昇
綿花相場は落ち着いているが、ウール、カシミヤ、ダウン、レザーは軒並み毎年価格が上昇しており、とくに今年に入って高騰している。当然それは製品価格に跳ね返ることになる。
次に工賃の上昇である。中国工場は軒並み工賃が上がっている。東南アジアはまだ低いがそれでも年々工賃は上がっている。必然的に製品の値段に反映されることになる。
2、生産ロットの小ささ
メンズブランドはレディースに比べると概して生産数量が少ない。その結果、1枚当たりの製造コストはレディースより高くなる。現にユニクロでさえ、メンズの方がレディースより500~1000円くらい高い。近年、メンズブランドの売れ行きは減少傾向にあるから、生産数量はさらに減る。このためさらに製造コストが上がり、価格が上がることになる。
3、ブランド不振のため利益を確保したいから
ブランドが不振になっているため、利益額が減少する。それを補填するため、より多くの利益を稼ぐために商品の粗利率を高める。そうなると原価率を下げるか価格を上げるかのどちらかしかない。窮地に追い込まれたブランドだと原価率も下げて価格も上げるという暴挙に出る。そういうブランドは必ず売れなくなるのだが。(笑)
以上の理由でメンズブランドの価格が上昇傾向にあり、高くなりすぎて売れなくなって廃業するメンズショップが増えているという。
現にフェイスブック友達でも地方メンズショップを廃業された方もいる。
 

安売りしても必ず売れるとは限らない

 
じゃあ安売りすれば売れるかというと、やみくもに値段を下げても売れない。
それは昨日も書いた通りである。しまむらは65円にしても売れないし、バッタ屋が2点99円にしても爆発的に売れることはない。

「安売り」と「商品の目利き」しかできないアパレルは生き残れない


 
要らない物はタダでも要らない。
なぜなら、保管する場所が要るし、洗濯などのメンテナンスの手間もかかる。そして何より、多くの人は服をすでにたくさん持っている。
当方のワードローブだと2年間くらい服を買わなくても良いほど服がある。一般の人でも3か月か半年くらいは服を買う必要がないほど持っているのではないかと思う。
どうしても緊急で買わなくてはならない場合というのは、急に破れてしまったとか、来週の子供の運動会に出るのに白い無地Tシャツが要る、とかそういう理由しかない。
そんな状況だから、「500円にしました」「80%オフです」なんて言ってみたところで業者が思うほどには服は売れない。
これが2000年ごろまでだったら「安いからすぐには必要ないけど買っておこうか」と言う人が多くいた。当方の死んだ母親なんかもそんな「貧乏性」だった。「安いから必要ないけど何かのときのために買っておこう」というメンタリティは、60代以上の世代までで終わっているのではないか。50代以下になると、もう十分に服を持っているから安くても要らない物は要らないのである。
要するに
高すぎても売れにくいし、安くしたからといって必ず売れるとは限らない
これが今の消費者心理であり、これを理解していないアパレルが多すぎるように見える。
モノヅクリガーな人は、むやみに高い商品を作りたがるし、しまむらをはじめとする低価格アパレルは値段を下げれば必ず売れると思っている。
だから不振アパレルが多いのだろう。
現在のアパレル業界には「安売り名人」と「商品の目利き」の2種類しかいない。たまに両方を兼ね備えている人もいるが、それだけではもう服は売れない。
サムシングニューというかプラスアルファの要素が必要で、それがいわゆる「ブランド化」のカギを握る。それができれば低価格でありながらブランドステイタスもあり売れるブランドができる。逆に高価格でも売れるブランドにできる。低価格ゾーンでそれができているのは当方が見るところ、ユニクロと無印良品の2ブランドだけで、その他は「安売り名人」と「目利きガー」の集合体でしかない。しまむら、アダストリア、その他の低価格ブランドの苦戦はそれが原因で、逆に国内高価格帯ブランドの苦戦もそこに原因がある。
それを直視せずに、価格帯ばかりいじくったり、物作りばかり議論しても効果は限定的でしかない。
別にアパレルは殺されていもいないし、死んでもいない。ただ、これまでのアパレルはもう存続できないというだけのことである。
 

NOTEの有料記事もよろしくです。
ライザップグループのアパレル事業が大きく伸びるとは思えない理由
https://note.mu/minami_mitsuhiro/n/n0200a63add2e

 
 
今度はこの本を買って読んでみる~
 

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