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南充浩 オフィシャルブログ

仏和辞典によると、ジレは女性の肌着らしい

2012年4月20日 未分類 0

 常々、ベストをわざわざ「ジレ」と呼ぶ風潮は好きではなかった。
「細かいこと言うなよ。オッサン」という声もあるのは承知しているが、マイナスのイメージがあるわけでもないうえに、広く一般的に知られている用語をことさら別の呼び名にすることが陳腐な販促としか感じられないからである。

さすがにこの時代にベストを「チョッキ」と呼ぶ若い人はいないだろうと思っていたが、先日、取材にお邪魔した先では30代と思しき奥様が「チョッキ」と口にされていたので、驚くとともに「チョッキ」という言葉は完全な死語ではないと改めて感じた。

さて、この「ジレ」という言葉はフランス語で「チョッキ」または「ベスト」を指す。
ここまでは生兵法の筆者でも知っていることだが、さらに「女性用の肌着」という意味もあるらしい。
なら、「ジレ」とシタリ顔で連呼するファッショニスタを気取るオッサンは、恥をかいていることになる。

http://ameblo.jp/3819tune1224/entry-11226647917.html

「gilet」を「プログレッシブ仏和辞典」(小学館)で引くと、
①チョッキ、ベスト(スーツなどの下に着る)、②(婦人用の)カーディガン、③肌着、アンダーシャツとある。「ファッション辞典」(文化出版局)には、胴着、チョッキ、ベストとあって、さらにブラウスを着ているように見せかけるための袖なし身頃だけのブラウスを言うとある。
ファッションに関心がある女性に「ジレ」って?と聞くと、下着のことですかという答えが多い。
こんなことまで考えて「ジレ」を使ったのかね。
ただ新しい言葉だからということだけで使ったとしたら、罪作りだね。
みんなが分かる言葉を使うことを心がけよう。

ファッション界のやさしい言葉を難しく言いかえる悪しき習慣は、そろそろヤメようよ。難しいことをやさしく言いかえようヨ。

とのことである。

このファッション雑誌の元編集長のブログは回顧録が主体だが、ときどき本質的なことを指摘される。
今回、抜粋引用させていただいたブログのタイトルはズバリ、

ジレとベスト、どちらが分かりやすい言葉?、ジレは女性に肌着なんだヨ

である。

先に結論を引用したが、出だしから紹介したい。

近ごろ「ジレ」という言葉が氾濫している。
百貨店の広告などに氾濫している。先日は新聞までも使っていた。10人いたら9人が分からない言葉でなく「ベスト」と言えばいいじゃないか。

(中略)

私が気に入らないのは「ジレ」なる言葉。
フランス語を使えばオシャレなのかい?
「胴着」とまでは言わないが、「チョッキ」も今は使わないか。ならば「ベスト」でいいじゃないか。「ジレ」なんて言葉を使わなくたってさ。

「ジレ」って聞いて、分かる人の確率はどれぐらいだろう?
「ベスト」ならば90パーセントは、分かるだろう。
80歳以上の人ならば「チョッキ」が馴染みやすい言葉だろう。
「ジレ」を使おうと考えた奴は「ベスト」を使ったら、自分が時代を生きていないとまわりから言われるのでないかと考えたんだろう。

ファッションの仕事をしている奴に多いのが、やさしいことを難しく表現したら自分もすごい人と思われると錯覚してるんだ。馬鹿だね!そういう奴が、私が編集長をしていたファッション誌にもいた、そういう奴はいい学校を出ているんだ不思議に。

ファッション雑誌を読んでいると、やたらにカタカナが多いだろう。そういう雑誌は、馬鹿な編集者やライターが多いんだと思うこと。

「ジレ」って言葉は「広辞苑」にも「新明解国語辞典」にも出ていない。「ベスト」はある。つまり「ジレ」は認知度が非常に低いことだ。

とのことであり、まさにご指摘には賛同する。

呼び名を変えるということは販促で大きな効果を発揮することもある。これは否定しない。

販促コンサルタントの藤村正宏さんが講演で示される例の一つに小林製薬の「ナイシトール」がある。
内臓脂肪を落とす飲み薬である。
これは、もともと新製品ではなく、これまで同じ成分の薬剤を別の名前で販売していたという。
ところがさっぱり売れなかったので、名称を「ナイシトール」に変更したところ爆発的に売れて、いまだにテレビCMが放送されるほどのロングラン商品となっている。
ネーミングを変えて成功した例だろう。

以前の名前を存知あげないが、ナイシトールよりはその効果がイメージしにくい名前だったのだろう。
ナイシトールはちょっとベタだけど、名前を聞いただけでその効果がなんとなくイメージできやすい。
それに、以前の名前は知名度も低かったから変える必要があった。

さて、立ち返って「ベスト」である。
別に負のイメージはない。「パンスト」に比べると遥かにファッション的なイメージすらある。
知名度は高い。先のブログで触れられているように国語辞典にも掲載されている。反対に「ジレ」は国語辞典には掲載されていないほど知名度が低い。
わざわざ呼び変える必要性はゼロである。

もし、孔雀の羽根みたいな派手な衣装を着たファッション業界人が
ネクタイのことを「クラヴァッタ」と呼ぶことを提案したらどうだろう?
ナンセンスである。
知名度が高い「ネクタイ」という言葉を廃止して、わざわざ知名度が低い「クラヴァッタ」と呼び変える必要性はまったくないからだ。

そんなわけで、「ジレ」という呼び名は一切使いたくない。

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