衣料品業界は「売り逃しによる機会損失」への恐れを捨ててはどうか
2018年9月20日 産地 0
若い人たちがエシカルの風潮に乗って、衣料品の大量廃棄を批判するのはまだわからないでもないが、業界の大ベテランたちがトレンドの尻馬に乗って衣料品の廃棄を批判するのはどうかと思う。 その仕組みを作ったのは彼らだし、その仕組みによって恩恵を被ってきたのも彼らである。
今更、何を虫の良いことを言っているのかと呆れる。 個人的には、値崩れを防ぐための廃棄はある程度は必要悪だと考えている。 大量廃棄はどうかと思うが、弁当だって農作物だって食品だって値崩れを防ぐためにはある程度廃棄する。 衣料品だって同じである。 廃棄のない産業や工業なんて存在しない。 そもそも衣料品、繊維製品は大量生産だから、どうしても廃棄はゼロにはならない。
例えば、デニム生地だって、あまり知られていないかもしれないが、圧倒的に大量生産が前提となっている。 少し前に、あるデザイナーが「〇〇社がオリジナルのデニム生地を染めてあげるよと言ってきたが、最低で5000メートル必要だと言われた」と驚いていたが、これは当たり前である。驚く方がおかしい。
デニム生地は最低5000メートルくらいないとオリジナルのブルーを染めることはできない。
単純計算すると5000メートルだと100反前後のデニム生地が出来上がる。 用尺2メートルが必要だとして2500本のジーンズが出来上がることになる。 これが最低ロットで、デニム生地に詳しい人からいわせると、この5000メートルという単位ですら、「良心的」だということになる。 それほどの大量生産が前提となっている。
だから、年間販売本数がわずか数百本とかいうような極小ブランドがオリジナルの色でデニム生地を染めてもらうことは本来はできないのである。
決して何でもかんでも捨てれば良いとは思っていないが、このシステムを理解せずに「廃棄をやめろ」と言ってみても、結局は製造工場にそのしわ寄せが来る。
とくに巨大な生産ロットを誇っている中国や東南アジアの工場は壊滅的危機に陥るだろう。
じゃあ逆説的に江戸時代以前の家内制手工業が理想なのかというわれるとそれはどうだろうか。 鶴の恩返し的に一人でギッコンバッタンと機を織って、1反の生地を仕上げるのに何日もかかるようなことが理想なのだろうか。
出来上がった生地は小量で驚くほど高額になる。当たり前だ。 一人の人間が何日もかけて織っているんだから、何十万円・何百万円で売らないとその人の生活ができない。
当然その生地を使って作った服は何十万円単位にならざるを得ない。 岡山の某ジーンズブランドは、「手織りデニム」を売りにしているが、果たしてそんな物にどれほどの価値があるのか当方には理解できない。
完成された織機があるのになぜわざわざデモンストレーション的に手織りでデニム生地なんかを織る必要があるのだろうか。
もちろん、そういう織機がない地域や国が手織りで対応することはわかるが、岡山や広島でわざわざそれをやることにどれほど意味があるのだろうか。 極めて非効率的だと思う。
もちろん、そういうわけのわからないところに魅力を感じるマニアが存在することは否定しない。
しかし、それはあくまでも変態的マニア向けでしかなく、それが「衣料品としての価値だ」という具合にマスに喧伝するのはどうかと思う。 マス層たる当方としてはそこに魅力はまるで感じない。 それにせっかく誰でもが衣料品を買えるように民主化されたのに、再び「貴族層」しか買えない時代に逆戻りさせるような機運は賛同できない。
需要の適量を予測しようという試みは理解できる。 昨日もこのブログで書いたように、衣料品業界は極めて「売り逃しによる機会損失」を恐れすぎる。 7月10日に売り切れたのなら、その商品を追加補充しても無駄なのである。 次に店頭に並ぶのはクイックレスポンス対応で生産しても、早くても8月1日くらいだろう。
まだまだ暑いから売れるかもしれないが、消費者の気持ちとしては、もう夏物の旬は過ぎている。 だからジーユーの無地開襟シャツの追加品は完売せずに売れ残っている。
それよりは、8月1日追加に向けて新しい企画を考えた方が効率的である。 これが実践できているブランドがZARAということになる。
衣料品の大量廃棄をなくすには、AI導入による需要予測とかそんなものは現段階ではまったく必要なくて、実は「売り逃しによる機会損失」を極度に恐れなければある程度は緩和できるのではないかと思う。
AIの導入が必要になるのは、そこから先である。
ユニクロのヒートテック肌着が登場したばかりのころ、大ブームとなって売り切れが続出した。 我々のような普通の業界人からすれば、すごいことだと感じるし、もし自分がそのメンバーなら「経営者からほめてもらえる」と考えるが、噂によるとユニクロの柳井正会長は「もっと需要予測を正確にしていれば売り逃しによる機会損失は起きなかった」と述べたとされているが、そんな神の如き需要予測ができるのだろうかと、呆れれたことがある。
ここまで「機会損失」を恐れているともいえるが、この心理を払しょくできれば、過剰在庫問題は少なくとも何分の1かは解決できるのではないかと思う。
リーバイスの501だとかそういう「顔」になる定番品はある程度は投入し続けるとしても、シーズン物やデザイン物、寿命の短いトレンド品をどんどん追加投入するのは在庫を増やすだけになる。 そんな物はさっさと売り切って新しい商品をどんどん投入すればよいのである。それこそが在庫廃棄問題を緩和する最大の手段になるだろう。
あと、「日本の手織りデニム」とか「イタリア人は生地を数年間寝かせるから発色が良い」とか、繊維業界・衣料品業界にはそんな「嘘の神話」が多すぎる。
NOTEもよろしく~
https://note.mu/minami_mitsuhiro
BMCくらいの価格帯が買いやすくて個人的にはええと思うけどな~