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南充浩 オフィシャルブログ

企業は人件費を上げるべき?

2011年6月13日 未分類 0

 国内産業において、バブル崩壊後から一貫して「コスト削減」が進められてきた。
それでもいまだに経済は良くならない。最大のコストは人件費だから、これをさらに削れば良いという風潮があった。人件費をドンドン切り下げて例えば中国や、東南アジア諸国並みに抑えたとして、それで経済が復活するのだろうか?残念ながらまったくそんな気がしない。

5月16日のプレジデント誌に日本政策投資銀行の藻谷浩介さんの執筆された記事が掲載されたのでご紹介したい。たまには違う方向から状況を眺めてみるのも有効だと思う。

藻谷さんは、一貫して「人件費を上げれば可処分所得が増え、経済が活性化する。企業は人件費を上げるべきだ」と主張されておられる。
現在のデフレは「デフレーションではなく、需要量不足・供給過剰に陥っているための商品の値崩れ」であるという。

これを衣料品に置き換えて考えてみると、
需要量は増えている。衣料品への参入障壁は低く、OEM/ODM生産のインフラも整っているから、少額の資金さえ用意すればだれでもブランドが起こせる状態にある(実際はこれほどシンプルではないが)。衣料品ブランドは倒産・廃業などがあるものの全体としては増えていると体感する。
また消費者一人一人はすでに夏服・冬服ともに十分な在庫を抱えており、それほど大量の洋服は必要ではなくなっている。衣料品の業界もあきらかに需要量不足の供給量過剰に陥っている。

そして多くの消費者の可処分所得は人件費削減によって低下しているので「以前ほど高額な洋服は買えない」ということになる。ならば「比較的低価格でそれなりの品質の洋服を提供しましょう」というブランドが出現する。そのブランドも一人あたりの消費者がまとめ買いすることは考えにくい。ブランドの規模を大きくしようと考えると「安い商品を大多数の人に少しずつ買ってもらう」というモデルが一番わかりやすい。

ユニクロの勝ちはこういう側面が強いと思う。

藻谷さんが問題としておられるのが、
IMFのデータで、PPP(購買力平価)ベースの一人当たりGDPで日本が台湾に抜かれたことにある。
台湾は24位、日本は25位になり、韓国は28位まで追い上げている。ちなみに中国は100位台である。
1位はカタール、6位が米国、ドイツは21位。

そこから「日本はこれ以上人件費を安くする必要があるのだろうか?台湾や韓国にとって一人当たりの所得を上げる意味は何か。それこそ人口の少ない国の生きる道だからだ。(中略)シンガポールは人件費の安い産業は追い出し、人件費の高い産業を優遇した。シンガポールのPPPベースの一人当たりGDPは4位で、日本の1・5倍である」とまとめておられる。
そして、ここが一つの有益な方向性だと思うのだが「日本が人件費を下げようとするのは10倍の人口を持つ中国に同じ土俵で競争を挑むようなものだ。日本の財界人の多くは、日本の人件費が高すぎると嘆き、日中の人件費格差が縮まることをのぞんでいるように思える。そうなれば、日本経済の規模は相対的に縮小し弱体化するだろう。人件費が下がれば国内市場も死んでしまう。どう考えても活路はない」と述べておられる。

人件費を下げれば、人口の多い国が絶対的に有利である。
中国羨望論・インド羨望論はまさしくそれの究極であろう。
日本はこれから人口が減少していくのだから、人件費を下げて中国やインドと同じ分野で競争しても勝ち目はない。一人あたりのGDPを高めることで日本の経済規模は維持・拡大できることは理にかなっている。

ただ問題は、藻谷さんのこの文章の冒頭にあるように
「そうおっしゃるならわが社だけ(人件費を)上げても良い。だが、おそらくわが社だけがつぶれる」と返答した企業トップがいた。それでも藻谷さんは「貴社だけが人件費を上げて、他社にも追随を訴えるか。それとも全社が人件費を上げずにみんなでつぶれるか。そのどちらかしかない」と訴えられた。

人件費をどこが先頭を切って上げるか。ここが問題となる。
そして、他社に向かっても人件費向上キャンペーンを行わねばならない。
それほど度量のある国内企業とそのトップが今どれほどあるのか。
問題はこの1点ではないか。

日本がダメなら中国に行く。とか外国に逃げる。という人はそうすれば良いが、
大半の日本人にそういう選択肢はなし、自分自身は採るつもりがない。
日本の国内市場は世界よりは小さいが、韓国や台湾よりずっと大きい。
莫大な利益を上げようと思わなければ、国内市場だけでも生計が成り立つ。
そのためには、日本経済再生が必要となるが、
現在のコスト削減競争では、企業も消費者も消耗戦を強いられているようにしか思えない。

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