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南充浩 オフィシャルブログ

国内繊維産地企業は手工業者ではない

2015年10月30日 産地 0

 繊維産地の活性化の一環として、小規模な独立系ファッションデザイナーとの取り組みが挙げられることが増えた。
上手く行けば、両者ともにメリットがある。

小規模な独立系ファッションデザイナーとは何ぞやというと、自分一人とか仲間数人でデザイナーズブランドを展開しているような人たちで、東京コレクションに出展しているデザイナーを思い浮かべてもらうとわかりやすいのではないか。

産地側はデザイナーの作る図柄や意匠を取り入れて生地開発に活かせる。
デザイナー側は産地から比較的小ロットで生地を作ってもらいやすい。

これが理想形である。

昨今はアパレルブランドの企画担当者ですら知らないことが増えているが、織物の場合、「10メートルだけ織ってくれ」なんてことはできない。
なぜなら短すぎるからだ。
通常の生地は1反50メートル内外の長さがある。

織物の場合は、経糸と緯糸があり、緯糸というのはすなわち生地の幅の分の長さしかない。
狭幅だと75センチとか60センチ、広幅だと120センチとか140センチとか。
一方で、生地は1反50メートルの長さがあるから、経糸は最低でも50メートルの長さが必要となる。

だから10メートルだけ生地を織るなんてことはできないし、できたとしてもとてつもなく高い値段になる。
規格外の生地を作るわけだから手間賃も含めて割高になるのは当たり前である。

ちなみに経糸は長ければ長いほど効率化できるからその分、1メートルあたりの生地値は安くなる。
緯糸はそれこそ10メートルおきに違う色を打ち込むことも可能なのである。

まあそれはさておき。

そういうわけでいくら小ロットで作れると言っても、織布工場側からすると1反が最小限度なのである。
昔なら、別注生地を作るなら最低でも10反とか言われたこともめずらしくないが、昨今なら2,3反くらいから作ってくれる織布工場も珍しくなくなった。

ついでにいうと、1反だけのオーダーだと織布工場には利益はあまり残らない。
下手をすると赤字になる。

こういう状況があるから独立系ファッションデザイナーもずいぶんと別注生地を作ってもらいやすくなった。

ただ、これまでいくつかの産地を見てきた経験からいうと、この取り組みがすごく上手く行っているケースは少ないと感じる。
定例行事化している産地はあるが、デザインソースを活用しないことも多く、本当に定例行事化しているだけというのも珍しくない。

産地とデザイナー側両方に意志疎通があまりできていない場合もあるし、産地側がデザイナーという存在そのものに価値を見出していない場合もある。
またデザイナー側も産地の製造構造を理解していない場合もある。

上に述べたように1反だけの別注生地作りなんてことは、工場側からすればほとんどメリットにはならない。
メリットになるとすれば、その生地で使った図柄を他の生地に転用できることぐらいだろうか。

しかし、織布工場の多くはオリジナルの生地を製造することは少なく、ほとんどが商社やコンバーター、アパレル、ブランドの指示によって生地を製造する。当然、図柄も発注先から支給される。
それゆえ、オリジナルの図柄の生地をわざわざ開発する必要性はあまり高くないということになる。

産地側がデザイナーの存在に価値を見出さない理由としてはもう一つ、生産ロットが少ないということもある。

例えば、ある独立系デザイナーズブランドがあったとして、シーズンごとに発表する型数が50だったとする。
各アイテムで3反ずつのオリジナル生地を製造したとして、全部で150反だ。
独立系デザイナーズブランドからすると150反の発注というのはかなり大ロットに映るかもしれないが、工場側からすればそれほど大ロットではない。

しかもブランドの多くは、シャツありジーンズありセーターありコートあり、というようにフルアイテム化している。
それぞれのアイテム用の生地を得意とする産地はそれぞれ異なるから、1産地の1工場あたりへの生地発注量はそれこそ平均すると5~6反に終わる。
各産地の生地工場側からすると、「1シーズンに5~6反増えたところで・・・orz」、ということになる。

ここの部分の根本理解がないと、今後、いくら独立系ファッションデザイナーと産地がコラボレーションしても、これまで通りに定例行事化してお終いということになるだろう。

そして産地×デザイナーという取り組みは今に始まったことではなく、すでに20年前にはあったし、もしかしたらそれ以前もあったのかもしれない。(20年以上前の業界については筆者はわからない)

すくなくとも20年前から続いているものの、現在に至るまであまり大きな成果に結びついていない原因は、お互いの相互理解が浅かったためと言えるのではないか。

日本製が見直されているといわれる割には、各産地で企業の倒産・廃業が相次いでいる。
これを見て「産地を救おう」みたいな使命感を覚える独立系ファッションデザイナーもいるようだ。

ただ、彼らの製造ロットでは上で見てきたように、とてもじゃないが産地が潤うほどではない。

本気で「産地を救おう」と思うなら、製造ロットがまとまるビジネスモデルを構築するほかはない。

ビームスのメイドインジャパン特集ブランドだとか、クロスカンパニーのメイドインジャパンにフォーカスした自社メディアだとか、「これまで、さんざん中国生産してきたのに今更かよwwww」と思わないではないが、上手く行けば独立系デザイナーズブランドと取り組むよりは製造ロットがまとまる可能性はある。
楽観視はできないが可能性はゼロではない。

多くのファッション業界人・メディア業界人と話してみて驚くのは、産地企業を伝統手工業者のように捉えている場合が多いことである。
漆の手塗り職人か何かと完全に間違えている人が存在する。

一部の例外はあるにせよ、織布にしろ染色にしろ編立にしろ、工業製品なのである。
1メートルとか1枚とかそういう単位で製造することはむしろ割高になる。
「昔ながらの力織機を使って云々」という工場があり、それを業界人はこぞって取り上げるが、その力織機というのは手動機織り機ではなく、量産向けの自動織機なのである。
だからいくら力織機といえどもある程度の製造ロットがまとまらなければ動かすことで逆に赤字が発生する。

ここを踏まえて論議をしないと、間違った結論が導き出される。

そういう意味ではデザイナー側も「工業製品」に対する勉強をすべきだし、産地側はデザインや意匠ということにもっと注目すべきだろう。メディア側はとりあえず、意味の分からない雰囲気を盛り上げるだけの報道は止めるべきだろう。

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