商品開発のために各工程の知識を共有化しよう
2015年10月29日 産地 0
先週の金曜日、台東デザイナーズビレッジのご依頼で2時間の講演を行った。
出席者80人前後、そのあとの懇親会の出席者は30人前後と、けっこうな数の聴衆にお集まりいただき、驚くばかりであった。
どうでも良いことだが、これが筆者にとっての東京での初講演である。(笑)
これもひとえに台東デザイナーズビレッジの集客力ではないかと思う。
筆者が個人で講演会を主催したところで一体どれほどの聴衆に集まってもらえるかどうか。
2時間(実質1時間半、残り30分は質疑応答)かけて取り留めのない内容を散漫的に語らせてもらったのだが、その中で、価格競争に巻き込まれないためには2つの方法があることを話した。
(こんな感じの集まり具合。筆者が腕まくりをしているのは熱意があふれ出たからではなく気温が暑かったから)
1つは、原料から小売りまでの連合体を作ること
もう1つは、それぞれの企業が見せ方、伝え方、売り方を工夫すること
である。
前者は、企業同士の連合チームを組むことになるので、各社の利害得失や企業間のさや当てもあることなので実現するのはなかなか難しいのが現実である。
それを踏まえて、実現可能なことを言えば、原料から小売りまでの各段階から熱意のある有志を募り、知識の共有化を図ることは可能なのではないかと思う。
繊維業界の各段階での知識というのは驚くほど共有化されていない。
もちろん、業界には「物知り博士」みたいな人が何人かいる。各段階のことにある程度の知識を持っている人がおられるがそれはあくまでも少数派である。
例えば、ウール・アクリル・レーヨン混の混紡糸があったとする。
この糸を3色使ってマダラに染めることは原理上可能である。
ウールとアクリルとレーヨンが染まる温度はそれぞれ異なるから、それぞれが染まる温度で各色を染めれば3色がマダラになった糸が出来上がる。
別に綿とポリエステルでも同じことができる。
染まる温度が異なるだけである。
少し染色の知識をかじったことがある人ならだれでもわかる。
しかし、このことを知らない小売店関係者はけっこう存在する。
彼らが不熱心だと言いたいのではない。
逆に彼らがそれを勉強する機会がこれまであまりなかったのではないかということである。
反対に、染色関係者で小売店のことを知っている人はかなり少ないだろう。
これもそういう機会が少なかったからではないかと思う。
もし、こうした知識が共有化できれば、小売店側から「こんな風に染められないか?」という提案が出てくるのではないか。
染色関係者が作り手として考え付かないような案が、小売店側からは出てくるかもしれない。
今、現在もそういう案は出てきているだろうが、基本的な知識がないから、小売店側の描く妄想や思いつきの域を出ない。
実現できた確率はかなり低いのではないか。
業界には「他工程のことは知りすぎるな。知れば無茶を言いにくくなる」というありがたい教え?があるが、それが通用したのはバブル期までである。
今は通用しなくなったのに、それを通用させようとしているに過ぎない。
そこそこに高い売価で大量に売れた時代なら、無茶も押し通せた。
発注数量で黙らせることもできた。
しかし、今は低価格な代替品の登場によって、中価格帯以上の商品が大量に売れる環境ではなくなっている。
おまけに工賃は上がらない。
数量も少なくて工賃も上がらないのに、製造工程に対して無茶を言って、それを製造工程が受け入れるのだろうか?
時々、受け入れてもらえなくなったという泣き言を聴くことがあるが、それはブランドや小売店側の自業自得である。
知らんがな。
商品開発を円滑に進めるためにも各工程の知識はある程度共有化できた方が良いのではないかと思う。
理想論ではあるが、各工程の有志を集めてフォーラムとか勉強会とかサークルとかが作れれば良いのではないかと思う。
かなり迂遠だが、こういう地道な積み重ねをするほか、繊維業界を変革することはできないのではないかと思う。
一足飛びに変わる方法なんてどの業界にもないのだから。