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南充浩 オフィシャルブログ

「こだわりの〇〇」という打ち出しはすでに同質化している

2015年11月2日 産地 0

 最近知り合って、すごいなあと感心させられたのが大塚呉服店である。
正直に言って、例外はあるが、筆者はあまり和装業界が好きではない。
旧弊な呉服店にもあまり共感を持っていない。

大塚呉服店は2代目の若社長が、新宿ルミネに常設店を構えており、このご時世で都心ファッションビルに常設店を構える呉服店はなかなかない。
その着目点を評価したい。

また、2代目に就任するにあたって中川政七商店のコンサルを受けておられ、その経緯が書かれたブログもなかなか面白い。
そのコンサルを受けた結果が今の大塚呉服店である。

さて、先日、ブログの中でこんなことを書いておられた。

http://tsukachan330.hatenablog.com/entry/2015/10/28/232227

洋服と比べてすごく高いものも多くて

なかなか買えない、買いづらいイメージ。

でも、着物には素晴らしい点がいろいろあります。

それをお客さまに素晴らしさを伝えようとした際に、

・熟練の京都の職人が一つ一つ丁寧に時間と手間暇をかけて〜

・創業◯◯◯年の老舗が代々引き継いできたお店の〜

・非常に希少な素材をふんだんに使用したこの世に同じものがない〜

・本当は◯◯万円する商品なんですがお客さまには特別価格で〜

これって、買いますか?って話です。

で、結構ここで勘違いする方多いんですね。

「じゃあ、安いペラペラのインクジェットの着物なら良いのか?」

「コスプレみたいなルール無視なものでも着物って言えるのか?」

とかいう人。

ノンノンノンノンノン。

エクスマは価格が高い安い、品質が高い低いの話をしているのではありません。

(もちろん技術や品質が一定以上のレベルは当然の話ですよ)

とある。

この際、エクスマはどうでも良いとして、大文字にした部分を見てもらいたい。
こんな和装関係者が多いのではないかと思う。
一部を除いて筆者の知る和装業界もこんな感じだ。

また洋服業界でも同じである。
とくにビンテージジーンズブーム以来、ジーンズ業界は等しくこれ一辺倒だし、日本製が盛り上がってる?近年は他の洋服でもこれに近い売り方をしているブランドが増えた。

でも和洋ともにこれはもう飽和状態である。

〇〇した糸で織りあげた〇〇生地を使った洋服
昔ながらの〇〇機で編み上げた〇〇
伝統の技法で織りあげた〇〇生地
伝統の技法で染められた〇〇
熟練の職人の技で生まれた〇〇

たしかにどれもこれも事実だし、それは伝えなくてはならない。
しかし、「売る」という視点からすると、これだけでは物は売れない。
これだけで物が売れるなら「こだわりのジーンズ」ブランドは軒並み売れているだろうし、繊維産地が作った産地ブランドも軒並み売れているはずだ。

だが現実はどうか?こだわりのジーンズブランドは一部を除いてそんなに売れていないし、産地ブランドも一部を除いて鳴かず飛ばずが多い。

「売る」ためには違うアプローチも必要なのである。

たしかにごくまれに「どうしてもほしいと思わせる物」とか「すごく人を引き寄せる物」があるのは事実だ。
だから物自体について語るのが絶対悪というわけではない。
問題は、和洋業界ともにそれ一辺倒の売り方になっていて、それでは売れなくなっているから、アプローチの方法を変える必要があるのではないかということである。

大塚呉服店は中川政七商店のコンサルを受けつつ、エクスマに入ってそれを活用している。
違うアプローチは千差万別であり、自店や自ブランドに合ったものを探せば良い。
全員が中川政七商店でコンサルを受ける必要もないし、エクスマに入る必要もない。

無数に存在するブランドの中からどうやって自ブランドを見つけてもらうかである。

10年前までならファッション雑誌に掲載されればそこそこに認知された。
1回きりの掲載では忘れられるから何度も掲載される必要があった。
掲載されようと思ったら、それ相応の広告料を支払えばそれで良かった。
広告を定期的に出稿していれば必ず掲載される。それがファッション雑誌の仕組みである。
1Pで平均100万円、2P見開きで200万円弱がかかるのが相場価格である。

テレビに登場するためには良くも悪くも目立たなくてはならない。
1年中、短パンで過ごすくらいのことをしなくてはならない。
もしくは雑誌以上に高額な広告料を支払うかである。
たとえテレビCMを流したとしても無名ブランドは1度では絶対に覚えてもらえない。それこそ常にCMが流れ続けるくらいにする必要がある。
それにはどれほど莫大な広告料が必要となるだろうか。

筆者が過去に窓口を務めたテレビCMだと2週間で3000万円以上が必要だった。
それだけの資金があるブランドが今どれほど存在するだろうか。
これほどの資金を持っている「物作り系」ブランドはほとんど存在しないだろう。

エクスマがいうように

お客さまがそれを買って着ることで

自分がどうなるのか?それに見合うのか?

そしてどのような体験ができるのか?

をダイレクトメールやチラシやウェブサイト、ブログ、SNSで発信し伝えるのも一つの方法である。

もしかしたら、お茶会やらパーティーやら試着会やらを定期的に開いて店にファンを集めるのも一つの手法かもしれない。
また、店主や社長が絶妙なトークを披露して、お客を集めるのも手法の一つかもしれない。
実演販売も一つの手法といえるのではないか。
ワークショップ開催も地道ながら一つの手法だろう。

まだまだ工夫できる余地はある。

繰り返しになるが、

伝統の〇〇技法で織りあげた〇〇とか、
こだわりの〇〇糸で織られた〇〇とか、
昔ながらの〇〇機で作られた〇〇とか、

という類のキャッチコピーだけでは物は売れない。
なぜなら、類似品が山のようにあってすでにそういう物は同質化しているからである。

同質化すれば、あとはさらにハイクオリティを目指すか、低価格競争に陥るかのどちらかしかない。

で、ハイクオリティな物作りとは何を指すのか?

某産地でも何やら「ハイクオリティな物作りを目指す」とスローガンを掲げ始めたそうだが、彼らのいう「ハイクオリティ」とは何を指しているのか?言ってる本人たちも理解していないのではないか?

縫製仕様の品質か?デザインか?生地スペックか?

単にイメージだけで口走っているだけではないのか?

今からの「物作り系」ブランドは、「こだわりの〇〇」や「伝統技法を生かした〇〇」という打ち出しはすでに同質化していると認識する必要がある。




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