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南充浩 オフィシャルブログ

アパレル企業の生き残り方は一つではない

2015年11月4日 考察 0

 今日はちょっと気分を変えて。

先日、百貨店向けメンズカジュアルとメンズパジャマを扱う日登美の展示会にお邪魔した。
来春夏展示会である。
日登美とは付き合いが長く、97年に業界新聞に入社して以来だからもう18年になる。

来春夏展はひさびさに工夫の感じられた商品の打ち出しが多かったと感じる。

百貨店メンズシニア向け単品カジュアルブランド「H・L」で、日本製に焦点を当てた「ハイブリッドチェックポロシャツ」を提案した。

わけもなく「日本製」を大々的に喧伝するのは近年のアパレル業界のトレンドだから、単なる「日本製」だけなら筆者は注目しなかった。
「ハイハイ、日本製ね」という感じで流してしまう。

これは縦横の大振りなチェック柄と、薄手生地を実現するために日本製に焦点を当てている。
やってみたいデザインと企画があってそれを実現するための日本製だから評価をしたい。
日本製ありきで無理やりに企画と販促を当てはめたのではない。

細かい話なので興味のない人からするとピンとこないかもしれないが、続けてしまおう(笑)

ポロシャツは通常、鹿の子編みという編み地なのでボーダー柄は表現しやすいが、縦のストライプ柄は表現しにくい。
この「ハイブリッドチェック」は、まず、先染めでボーダー柄を編み込む。
そして次に縦方向のストライプ柄をプリントする。
これでチェック柄が完成する。

IMG_4739

写真で見てもらえばわかるように、かなり大きなチェック柄で、これを編み地だけで実現するのはかなり難しいし、できたとしてもジャカード編みになるので生地がかなり肉厚になってしまう。

これは縦方向の柄をプリントにすることで生地を薄地にすることに成功している。

汗っかきの筆者からすると薄地生地では頼りないが、世の中には薄地ファンもいる。
そういう人にとっては、麻シャツ並みの薄地生地はかなり魅力的ではないか。またこの大胆なチェック柄もデザインポイントになる。

この先染め柄とプリントのハイブリッドを実現し、なおかつ斜行しないように調整できるのが日本の工場だったそうだ。
だから日本製になったというわけで、こういう日本製の使い方なら消費者にとってもわかりやすい。

筆者が「単なる日本製」にダメだしすることが多いのは、「日本製を使う」ということ自体が目的化しているブランドや企画が多いためである。
「日本製」はあくまでも手段であり、それ自体が目的化するのは本末転倒といえる。

この企画はかなり面白いのではないか。

また百貨店向けメンズパジャマブランド「イータ」では、室内着のホームウェアシャツとしても使用可能なパジャマである「パイピングシャツ」とボトムス用のニットデニムパンツを提案する。

ニットデニムパンツ自体はもう人口に膾炙しており、取り立てて珍しいとは思わないが、パジャマのトップスを解禁シャツとして活用するという提案はなかなか意表を突いたのではないか。

IMG_4741

パジャマブランドというのは業界全体的に、どんどんとホームウェア・ワンマイルウェア化して、カジュアルのTシャツ・トレーナー類と区別がつかなくなっている。
Tシャツとスエットパーカの組み合わせなんて掃いて捨てるほどあって、それとカジュアル売り場に並んでいるTシャツやスエットパーカとどう違うのかは素人目には分かりにくい。
だいたいの区別は生地の薄い厚いでつけるほかない。

そこでカジュアル寄りのTシャツやらスエットパーカの新規提案をなくし(継続品番は残る)、従来のパジャマのトップスの色柄を変えることでワンマイルウェア化するという発想は新鮮ではないか。

そういえば、昔、木村拓哉さん主演の連続テレビドラマ「ミスター・ブレイン」で主人公はパジャマを着ているという設定だったが、色柄の妙味で単なる開襟シャツにしか見えなかった。

この「イータ」のトップスもパジャマ風開襟シャツと考えた方が分かりやすいのではないか。

さて、筆者と18年ものお付き合いをいただいている日登美だが、百貨店向けメンズシニア単品売り場というのは、完全に残存者メリットの状態に突入しているそうだ。

百貨店の60代向けのメンズカジュアル平場に単品を納入しているアパレルは今、4社か5社しかない。
その4~5社で全国の百貨店の売り場すべてをまかなっている。
売れ行きは大幅に伸びることはないが、極端に減ることもない。ある意味で安定しているから、日登美の出荷額も安定している。

この市場には昔は15社近くが参入しており、激しい競争を繰り広げていたそうだが、10社ほどは市場から退場してしまった。また60代向けメンズカジュアルなんていう地味な市場だから新規参入者もない。

そういう意味においては、日登美の市場選択は正解だったといえる。
いくら華やかな市場でも競争が激しければ、そこから弾き飛ばされる可能性も高い。
現に弾き飛ばされて潰れたアパレルは何社もあるし、これからも続出するだろう。

百貨店向けメンズパジャマ売り場も同じだ。

大きくは伸びないが極端にも下がらない。
そして新規参入者は少なくて、一部の限られたメーカーだけで構成されているから売上高は安定している。

ファッション的にはあまり面白味のない市場だがこういう生き残り方もあるということだ。

この18年間、日登美にはさまざまな紆余曲折があった。
ピーク時には100何十億円かあった売上高も今では30億円台にまで縮小している。

四天王寺前夕陽丘にあった本社ビルも売却している。

売上高がピーク時の5分の1とか4分の1にまで縮小すれば倒産する企業は多い。
日登美は倒産せずに持ちこたえて、縮小したとはいえ安定期に入った。
もちろん売却できる資産もたくさんあったのだろうし、激しいリストラも行われた。

それでも残れない企業も多い中で、日登美は生き残れた。

残れたのと市場の選択が適正だったことから今度は残存者メリットを享受できる段階に入った。

アパレル業界というと華やかなトレンド対応ばかりに目を奪われがちだが、こういう企業の存続方法もあるという好例ではないか。
なんだかんだ言っても生き残った者はそれだけ巧者だったといえる。


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