繊維工場にとって「ある程度の大量生産」は必要不可欠という話
2026年2月2日 産地 0
先日、倒産した生地工場の関係者からそこに至る経緯をザックリとではあるが聞くことができた。
もちろん、工場や企業の背景は千差万別だし、売り上げ規模も千差万別なので統一的に当てはめることが難しいことは言うまでもない。
現在、衣料品業界メディアでは「大量生産大量販売からの脱却」が重要な課題の一つとして掲げられている場合が多いと感じる。
仕入れ型小売店とすれば「大量販売からの脱却」は比較的容易だろう。原理的に言えば仕入れ枚数、仕入れ品番数を減らせば達成できる。それで売れて儲かるかどうかは別として。
一方、製造加工業者、それを取りまとめるメーカーからすれば「大量生産からの脱却」は基本的に容易ではない。家族2~3人で運営しているような零細・小規模縫製工場ならそれは可能だろう。だが、一定の人員を雇用している工場はそのスローガンは画に書いた餅と同じである場合が多い。
特に生地の製造工場は大量生産否定はほぼ不可能である。手織り機や手編み工場を除けば。
どこからどこまでを「大量生産」と呼ぶのかは定義が難しいが、少なくとも国内の生地工場なら最低でも5反や10反からの製造でなければ採算が合わない。機械がそのようにできているからである。
さらにいえば、機械は1台しか導入されていないわけではなく何台も導入されているなら、生地生産のミニマムロットはもっと増えざるを得ない。
さて、件の倒産した国内生地工場だが、一時期はホールガーメント編み機が100台も導入されていたとのこと。それは見境なく導入したわけではなく、当時は大手総合アパレルとガッチリ組んでいたので、それに合わせてという背景があったそうだ。
ところが、その大手総合アパレルの生産地が国内から海外に移り、一気に工場経営が厳しさを増したとの話だが、まあ、生地産地あるあるである。
ただ、この工場は大手総合アパレルだけでなく、量販店メーカーとの仕事もあったそうなので、そちらで補填しつつ生き延びてきたが、その量販店メーカーとの仕事も無くなりついに支えきれなくなったという経緯をたどったとのことだった。
この経緯には同情せざるを得ない点が多々あり、当方とて「経営努力が足りない」などと切って捨てようとは毛頭思わない。今現在、「ストーリー重視の販促施策」に目をつけて産地や産地の職人にすり寄り始めた大手総合アパレルの本質はこのようなものであるということである。
個人的には、やはり「生産数量は重要」ということを痛感した。
大手総合アパレルが無くなったとしても、量販店メーカーとの取引で工場としては経営が持続したわけである。その量販店メーカーが無くなって工場経営は終焉を迎えてしまった。
いかに「ある程度の大量生産は必要不可欠」かということを如実に示している。
この工場がホールガーメント編み機を100台導入していなければ、もっとハードルは下がっただろう。しかし、通常の生地工場であってもやはり、ある程度の生産数量は必要不可欠である。
以前から書いているように、産地の生地工場はこの問題を解決するために、工業用の資材生地を生産しているところも少なからずある。
自動車、バス、電車などのシート素材、シートベルト用資材などである。こちらの方が毎年ある程度の数量がまとまり工場は稼働しやすいのだという。
また、以前交流のあった妙中パイル織物は、10年くらい前まではスマホ工場に向けて、画面研磨用の起毛生地を出荷していた。これも数量がまとまるためである。今もその取引を継続しているかどうかはわからないが、2010年代はその取引で生地の生産数量を確保していたことは事実である。スマホの研磨用起毛素材は単価こそ高くないが何万メートルという数量の出荷があった。
そもそも、ファッション的に「尖っている」と世間的に認知されている小規模ブランドが「欲しい量を欲しいだけ」生産できるのは、各段階の工場のベースに大量生産が流れているためである。
これも昔から書いてきたことだが、大量生産の隙間に小規模ブランドの生産が差し込まれる。
もし、メディアの主張通りに大量生産を廃止して、これらの小規模ブランドの生産だけに絞れば、倒産する工場が続出することになるだろう。国内海外問わず。そもそも、生地の前段階の糸作りの工程ではもっと大量生産が前提として工場が成り立っている。手紡ぎの糸作り以外は。
国内縫製工場だって、工員が10人以上いるレベルだと「1型あたりサイズ別込みで50~100枚の受注は欲しい」という。3枚だけ作ってとかそんなことは通常の縫製工場はできない。一人親方みたいな縫製職人に依頼するほかない。
フルオーダースーツ屋みたいな1枚ずつの受注生産システムにしてみてはどうか、という意見もあるが、それとてそのオーダー業者は良いとして、生地や縫い糸はどうするのかという話になる。生地や糸はある程度の大量生産されており、その一部を各オーダー業者が仕入れているに過ぎない。オーダー業者が必要とする以外の物量を潰すことができる大量販売ブランドの存在がなければ生地メーカーも糸メーカーも存在することはできなくなる。
それが現実である。