メンズスーツの市場規模が現在以上に大きくなることはないという話
2025年11月18日 企業研究 0
マス層の支持が離れた商材はいくら「エモい」工夫を凝らしたとて、大規模な売上高は稼げない。
一方、どんな商材とて需要が完全にゼロになることはめったにないからニッチ層、マニア層、実需層にだけ向けて小規模に売ることは可能である。
要は、その商材を売ることでどの程度の売り上げ規模を目指すかという設計の問題ではないかと思う。
ピーク時に比べるとマス層が離れたものの、マニア層、コア層のファンは消滅しないし冠婚葬祭という実需が残り続ける商材の一つとしてメンズのスーツ、それに伴うドレスシューズがあるといえる。
近年、メンズスーツ大手各社は苦戦し続けている。その理由は簡単で
1、現役世代の人口減少(最多人口の団塊世代は後期高齢者となって減益引退している)
2、ビジネスシーンでの服装のカジュアル化の進行
の2点にある。
まず、人口減少だがこれは散々言われ尽くしていることで、最多人口だった段階世代は10年近く前に現役を引退している。団塊世代のすぐ下の世代も人口は多いがこれも引退している世代が多い。
現在、まだ現役で働いていて人口が多いのは団塊ジュニア世代とその前後だが、団塊ジュニアがそろそろ50代半ばに達しており、早ければあと5、6年後には引退が始まる。遅くとも10年後には多くが引退してしまう。
引退してから非正規で働く老人も多いが、スーツ着用の仕事に就く比率はそんなに高くない。となると、10年後に引退する団塊ジュニア世代も含めてスーツ需要はほぼ無くなると考えられる。
以前も書いたように、仕事か冠婚葬祭で無ければ、わざわざスーツを着る男性はほとんどいない。用事も無いのにスーツを着ている男性がいたらかなり変態性が高い。
そうなると、人口の多い世代はスーツを買わないし、現役世代はスーツを買ったとしても今よりも人口が減るから、スーツの売り上げ枚数は自動的に減る。
次に、カジュアル化の進行である。
よほどにお堅い職場でなければ「純然たるスーツ」でなくとも勤務は可能というご時世である。いわゆるジャケスラ(テイラードジャケットやブレザーと別生地のスラックス)着用であれば、たいがいの職場でお咎め無しである。いまや百貨店の紳士服売り場の販売員でさえジャケスラ容認だし、銀行員だってジャケスラ勤務OKである。
そうなると、わざわざスーツを買うという人は現役世代でも激減してしまうことは言うまでもない。必然的に紳士服各社の業績は苦戦傾向にならざるを得ない。特に大手であればあるほど。
紳士服業界1位、2位の売上高を誇る青山商事とAokiの今中間決算はどちらも苦戦している。
まず、青山商事だが、めんどくさいので記事から引用する。
メンズスーツの苦戦が続く青山商事、中間赤字拡大も株式分割で株価は反発
紳士服販売大手の青山商事は11月12日、2025年3月期中間期決算を発表した。売上高は819億7300万円で前年同期比3.0%減、営業利益は7700万円と88.0%減少、親会社株主に帰属する中間純利益は8億5600万円の赤字となり、赤字幅が前年同期の6億3000万円から拡大した。
とのことで、減収大幅減益である。
次にAokiだが、こちらは記事が無いので、決算短信から数字を拾う。
売上高 840億2800万円(対前期比1・3%増)
営業利益 39億3700万円(同5・6%減)
経常利益 37億6000万円(同1・7%減)
当期利益 18億8800万円(同32・4%減)
となっており、こちらも減収減益である。
ちなみに、これまで青山商事の売上高がAokiを上回っていたが、今中間期では逆転されている。通期で青山商事が巻き返せるかどうかである。
さて、どちらも半期で800億円以上の売上高を誇っているので依然として大手だが、紳士服以外の異業種で稼いでいることは広く知られており、紳士服を含めた衣料品販売は苦戦傾向にある。
まず、青山商事について引用する。
主力のビジネスウェア事業では、「洋服の青山」や「スーツスクエア(SUIT SQUARE)」「麻布テーラー」などのブランドを展開。売上高は501億8000万円で前年同期比5.9%減、営業利益は23億9000万円の赤字(前年同期は15億2100万円の赤字)となった。主力事業の赤字幅が拡大した背景には、メンズスーツの販売着数が前年同期比14.0%減と落ち込んだことがある。
とのことで、スーツをメインとした衣料品販売は減収赤字であり、異業種で約320億円の売上高を稼いでいるということがわかる。
Aokiも同様である。
ファッション事業は、前期比1・0%増の売上高386億円に留まっている一方で、8億円の営業損失(要するに赤字)を出している。営業利益のほとんどをエンターテイメント事業で稼いでいる。

ファッション事業の赤字の理由について
新規出店及びカジュアル衣料が好調に推移し増収も、人件費や出店コスト等の増加により減益
と発表しているが、新規出店をして1・0%増収しかせず、8億円の営業赤字というのはかなり商況が厳しかったといえる。
もちろん、青山商事、Aokiともに純然たるメンズスーツ以外にカジュアル衣料品も多く販売していることは承知しているが、大きな流れとして掴むならメンズスーツをかつての数量ほど販売することは不可能になっているといえる。
こうした傾向は近年突然起きたわけではなく、2000年代半ば頃から続いているもので、既製スーツの落ち込みを各社は値ごろ感イージーオーダーで埋めようとしてきた。
ただ、値ごろ感イージーオーダースーツという市場もそんなに大きな需要ではないということは改めて認識しておく必要があるだろう。既製スーツが不要なのにイージーオーダースーツの需要が激増するということはよほどの生活スタイルが変わらない限りあり得ないからだ。
例えば、増収が毎シーズン報じられるカシヤマだが、伸び率の割に売上高の実額はそんなに大きくない。要は数字のマジックと言える部分が大きい。
オーダーメイドの『KASHIYAMA』2024年度の決算発表 | 株式会社オンワードパーソナルスタイルのプレスリリース
オンワードパーソナルスタイル全体では、売上高は62億円で昨対比137%となりました。また、リアル店舗売上高は昨対比152%を記録し過去最高の売上となりました。
とある。リアル店舗売上高の前年実績が示されていないので正確な数字は分からないが、恐らくは100億円内外ではないかと思われる。
現在、値ごろ感イージーオーダースーツ最大手と目されるグローバルスタイルの2025年7月期決算は
売上高 114億6000万円(対前期比2・6%増)
営業利益 8億100万円(同27・3%増)
経常利益 8億2100万円(同25・0%増)
当期利益 5億300万円(同13・4%増)
となっており、増収増益だが、値ごろ感イージーオーダースーツという市場は売り上げ規模はこの100億円台前半くらいが限界点ではないかと思われる。
2・6%増収は立派だが、実額にすると3億円の増収となっており、投機筋やコンサルが期待するような大規模な伸びは以前も今期も無い。
恐らく、メンズスーツという商品は需要がゼロになることはないが、各社の売上高は最大でも200億円弱くらいで推移するという天井が決まった商材になるのではないかと思われる。値ごろ感イージーオーダースーツも同様で100億円台前半から半ばぐらいが売上高の限界点ではないかと思われる。