洋服の価格は上がったが、コロナ前よりも洋服への支出金額は減ったという話
2025年10月28日 トレンド 0
やっと秋らしい気温になった。
猛暑の間は、吸水速乾Tシャツしか着用しないので、必然的に買うのも吸水速乾Tシャツのみだったが、正直なところ、ここ4年間くらいの累積で結構な枚数を買っているので、今夏はパレットの吸水速乾Tシャツを3枚買った程度である。恐らく、猛暑の夏が続く限り、夏服はあまり買わないだろう。
秋らしい気温になったので、秋冬向けの服でも買おうかと思って物色しているが、あまり食指が動かない。もちろん、当方の加齢の進行によるヤル気の無さというのは大きいが、それ以上に、もうある程度服を持っているということと、トレンドが多様化・分散化しているので、今年絶対に買わねばならないという服が見当たらないということが大きい。
そして、このような購買心理は当方だけではなく、結構な割合の人がほぼ同様に感じているのではないか。
総務省の家計調査報告によると、24年の2人以上世帯の家計消費支出は1カ月当たり30万243円だった。前年比2.1%増で、コロナ前の19年比でも2.3%増。4年連続で増加し、19年ぶりに30万円を超えた。
支出総額の3割を占める「食料」は前年比3.9%増、19年比で11.8%増。1割弱を占める「住居」「家具・家事用品」の合計も前年比1.6%増、19年比7.1%増。実質賃金が上がらない中、生活者は限られた可処分所得を、物価上昇がより顕著な項目に割り当てていることがうかがえる。
服も値上がりした。繊研新聞社の推定では24年の服1枚当たりの平均価格は2755円。前年比4.3%、19年比では13.5%上昇した。円安や原燃料価格の高騰などによる生産コストの上昇を、価格に転嫁する動きが進む。
とある。
そして
ところが家計調査報告で、ファッションに使うお金に相当する「被服及び履物」への支出を見ると、24年は9985円。前年比では3.5%増だったが、19年比では11.7%減と2ケタ減。コロナ前と比べて値上がりした服を、生活者は買い控えているのが見て取れる。
と続く。
要するに24年はコロナ前の19年と比べると値上がりによって支出は増えているものの、衣料品・靴だけは支出金額が11・7%も減っているということがわかる。
何度も書いているように、現在のインフレはコストプッシュ型のインフレという性質が強い。様々なコストが上がったことで商品の販売価格も上がったという形である。
給与も上がっているが、手取りが増えないのは商品の値上がりもさることながら、社会保障費が高いということも大きいだろう。また所得税課税の限度が引き上げられないので、給料が上がっても徴収される税金は増えるため、手取りはさほど変わらないということにもなる。生活者の立場からいえば、所得税課税の限度は物価と給料にスライドして引き上げられるのが当然なのである。
コラムは
衣食住のうち、「衣」は数シーズン買い足さなくても困らないということなのだろうか。インフレで見た目の可処分所得が増えても、物価変動を考慮した実質の可処分所得がさらに増えない限り、新しい服が売れにくい状況は続く。
と締めくくられているが、よほどの事情がある人以外は、現在の日本において衣料品・靴は何シーズンか買い足さなくても困らないという人がほとんどだろう。もちろん、当方も同様である。
食費や光熱費、水道代、家賃などは支払わなくては生命の危機に直結するので、値上がりしたとて支払わざるを得ない。もちろんそれなりに節約は心掛けるが、この分野の支出をゼロにすることはできない。
しかし、衣料品は違う。事情があって手持ちの服が無いという人を除いては、ほとんどの人が1年くらい服を買わなくても過ごせる状態にある。
それでも以前は毎シーズン洋服を買い替える・買い足す人が多かったのは、ビッグトレンドが存在したことも大きいだろう。
ビンテージジーンズブームとかスキニージーンズブームのように、多くの人が追随するビッグトレンドが昔はあった。そうすると、そのアイテムを買い足さねばならないと考える人も多い。
しかし、2010年代半ば以降は、そんなビッグトレンドが無い。ワイドパンツは終わったとか言われる割にはもう10年くらいワイドパンツは続いている。最近になってトップスの丈は短めになったが、全員が短め丈のトップスを着ているわけではない。
トレンドは細分化・多様化していて、手持ちの服を着ていてもさほど違和感はない。また、古着を推奨するムードもそれを後押ししているといえる。古着とは何年か前に買われて使われた服なのだから、最新トレンドのデザインやシルエットではない。それをありがたがって着用するわけだから、手持ちの古い服を着たところで何の問題も生じない。他人から見ればそれが買った古着なのか、手持ちの古い服を着ているのかは判別できない。
そうなると、必需品への支出を確保するために衣料品を買い控える人が増えるのは極めて当然だろう。さらに言うと、娯楽の多様化・分散化によって、洋服よりも優先したい支出先を持っている人が増えているから衣料品への支出が減るのは当たり前である。そして商品単価が上がっているなら、購入枚数を減らすということになる。
新政権で所得税課税の限度が引き上げられたり、社会保障費の徴収額が減額されたり、ということは期待できそうだが、よしんば実現されたとして消費者のマインドはあまり変わらないのではないだろうか。増えた可処分所得は衣料品購入よりも、他の娯楽にあてられるのではないだろうか。