MENU

南充浩 オフィシャルブログ

衣料品市場のEC化率が20%強で上限に達しつつあるのは当然という話

2025年10月1日 ネット通販 0

ネット通販を年間に一度も使わない人というのは、現在ではほとんど存在しないだろうと思う。

パソコンやスマホを所有していない人を除いて。

当方も毎月何かをネット通販で買っている。特に書籍やサプリ、家庭用洗剤類などはネットで買う場合が多い。「場合が多い」というのは実店舗で買うことも少なくないからで、ネットと実店舗で価格を比較してから安い方で買う。また実店舗で品切れの場合、ネット通販で買う。逆もしかりでネット通販で品切れの場合、実店舗で買う。

特に書籍ではネット通販を実店舗の補完として使っていて、基本的に新刊はhontoポイントをためるためにだいたいジュンク堂で買うようにしている。出版不況と言われるものの、全分野で毎月すさまじい点数の新刊が発売される。売れ行きが好調な書籍は増刷されるが、売れ行きが不振な書籍は増刷されない。だから5年後くらいには実店舗ではほとんど見かけなくなる。そうなると、ネット通販、特にAmazonが有効で5年前くらいの新刊が在庫で残っている場合も少なくないし、在庫が無くても、マーケットプレイスで古本として売られていたりするから助かる。

 

まあ、そんなわけでネット通販と実店舗を補完する形で使っているのだが、多くの人も同様だろう。消費者は商品を自分の予算内の価格で手に入れることが最大の目的だから、買い場がネットであろうが実店舗であろうがどちらでも構わない。「ネット通販でないと絶対に買いたくない」とか「実店舗でないと絶対に買いたくない」とかそんな人は極めて少数派である。

 

 

 

 

洋服という商材も同様である。消費者はネットであろうが実店舗であろうが、欲しい物が欲しい値段の範囲内で手に入ればそれでよいのである。

ネット通販草創期で加速度的に売上高を伸ばしていた2010年年代までは、アパレル小売企業内でも実店舗派閥とネット通販派閥が顧客と売上の奪い合いをしていた。この時期は、査定システムも整っておらず、売上高を取った者勝ちだったという企業が多かった。必然的に客を多く奪った方が査定が良くなるから部署間で争奪戦にならざるを得ない。お互いが敵なのである。

しかし、2010年代半ば過ぎになると、査定方法も改められたので、現状、取材した範囲内の企業では当初のようないざこざはほとんど起きにくくなっている。

 

 

実際に企業の上層部もその辺りの認識は高まっていると感じられ、「ネットを見て実店舗で買うお客もいるし、実店舗で見てからネットで買うというお客もいる。ポイントが貯まるとかナンタラ割引があるとか、在庫が残っているとかそういう視点でお客はその都度メリットを感じられる方で買っている」と分析されることが増えた。まあ、極めて当たり前の分析なのだが。

にもかかわらず、当方の個人的な思い込みかもしれないが、メディアだけがいまだに「どちらで買うか」とか「ネット比率の高低」にこだわり続けているように感じられてならない。そしてそのこだわりは極めて無意味であると感じられてならない。

 

ECと実店舗で買い物するハイブリッド消費者は5割超、不満は「欠品商品の入荷情報が不明」「ポイントの非連携」「価格差」 | ネットショップ担当者フォーラム

ECと実店舗で月1回以上の頻度で買い物をし、ECと実店舗で1年以内に同じカテゴリーの買い物をした生活者「ハイブリッド消費者」は男女20~69歳全体の52.3%。男女20~69歳全体のECでの日用品購入金額のうち81.8%を占めた。

生活者の半数が「ハイブリッド消費者」に該当する一方で、オンラインとオフラインを横断する際の体験には多くの不満を抱えている。

とのアンケート記事で、この数字には納得しかないのだが、わざわざ「ハイブリッド消費者」などという名称を作っているあたりに「消費者はどちらかでしか買わない(はずだ)」というメディアとそれに付随する広告代理店の前時代的な思い込みを感じられてしまう。

逆にメディアや広告代理店の社員は、どちらかでしか買わないという固い信念を持って生活しているのだろうか?

このような分類を見るたびに、メディアが一般消費者や小売企業内部よりも考え方が頑迷固陋にとらわれ過ぎていると感じられてならない。

 

 

で、メディアや一部のエライ識者が何故か重視し続けているネット化比率だが、衣料品分野ではそろそろ上限に達してきたようである。

 

繊研新聞社が推定したファッション商品の24年度消費者向けEC市場規模は、前年度比5.4%増の約1兆9924億円、EC比率(国内ファッション市場に占めるネット販売比率)はほぼ前年並みの20.5%になった。23年度に続き、緩やかな成長が続いている。推定値はネット販売アンケートのほか、24年度専門店業績アンケートのEC売上高に回答のあった106社(EC売上高1000万円以上)をベースに割り出した。

 

とのことで、ファッション商品のEC市場規模も前年度比5・4%増と緩やかになってきているとともに、EC化率もほぼ前年並みの20・5%に落ち着いている。

 

衣料品市場全体におけるEC化率はこの20%強というのが、現状の上限ではないだろうか。

衣料品のネット通販の最大の欠点は試着ができない点、生地を触って確認できない点にある。衣料品は身に着ける物だからサイズ感や生地の厚さなどが極めて重要な要素になる

デザインや色柄が気に入っても着用してみてサイズが小さすぎれば着用できない。また、生地の厚さや組成によっては意外に暑くて着用しにくいとか、逆に以外に寒くて着用しにくいということもある。

そのため、ネットで見た物を実店舗で試着してから買うという人はそんなに珍しくない。そうしたことを加味すれば、衣料品市場のEC化率が20%強で 上限を迎えつつあるというのは当たり前の結果ではないかと思う。

 

消費者にせよ、販売供給側にせよ、使い方・考え方がすでに「オムニチャネル化」してしまっているといえるのではないか。

 

 

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ