マス層・大衆の支持は「衣料品」よりも「食品」へという時代
2025年8月22日 トレンド 0
イトーヨーカドーが昨年2月にスタートさせたばかりのアダストリアとの協業ブランド「ファウンドグッド」の廃止を8月に発表したことは記憶に新しい。スタート後わずかに1年半での発表である。
ヨーカドーの子会社のヨークを傘下におさめた米国ファンドのベインの強い意向も背景にはあると言われるが、この短期間では大手スーパーでカジュアルウェアを買うという消費動向は形成できなかったといえる。
また、イオンはPB衣料品をトップバリュコレクションに集約しているが、決算公告では最終赤字が続いていることは先日、このブログで書いた通りである。
需要はゼロではないが、大型スーパーの衣料品売り場で洋服を買うという大衆のムーブメントが無くなっていることの証左といえる。
また、中・高級ファッションに特化した戦略を採ってきた百貨店でさえも売り上げ構成比に占める衣料品売上高は低下傾向にあり、現在では25~29%程度しかない。
ということは、マス層の衣料品需要総量が低下しており、大型スーパー・百貨店はその買い場とは見なしていないという人が増えたということになる。
その一方、これもここで書いたが、年商1000億円以上の大手衣料品専門店チェーンは合計として売上高を伸ばし続けているばかりでなく、上位10社で市場の7割の売上高を占めるまでに寡占化している。
マス層の衣料品需要・関心度合は如実に低下していて、大型スーパーと百貨店はその「買い場」から外されるケースが増え、彼らの多くは大手専門店チェーンだけで衣料品を買っているということになる。
もちろん、例外はあって、今でもコダワリ層もいれば、先端トレンド愛好家もいる。それは間違いないが、2010年までに比べてそういう人は減少傾向にあると考えた方が実態に近いのではないかと思っている。
あれほど「ファッション」を叫び続けている百貨店でさえ、全体的には、衣料品の売上高と食品の売上高が拮抗しており、月次や年度によっては食品売上高の方が大きい。
例えば、直近だと今年6月の全国百貨店売上高を見てみる。
衣料品売上高は1198億9685万8000円となっており、売り上げ構成比は26・0%である。
食品売上高は1235億3858万6000円となっており、売り上げ構成比は26・8%だった。
今年6月単月では、わずかながら食品売上高の方が衣料品売上高を上回っていることがわかる。
他の月次も見てもらいたいが、だいたい同じくらいの売上高で、食品が上回る月も少なくない。
あれだけファッションブランドを集積しておきながら、あれだけ衣料品の商品単価が高いにもかかわらず、全国百貨店全体では衣料品売上高と食品売上高は同等なのである。
マス層・大衆層が百貨店に対して衣料品需要が低下しているとともに、食品に対しての支持が高まっているといえる。商品単価の差を考えると食品を求める客数の多さと食品の回転率の高さがうかがい知れる。この2点において衣料品は百貨店販路といえども食品に太刀打ちできないということがわかる。
個人的には、娯楽の多様化・趣味の多様化によって、衣料品需要は相対的に低下していると常々考えている。バブル期とか裏原宿ブームとかビンテージジーンズブームのときのようなファッション衣料品に対するような大きさの需要ではなくなっているのではないか。
今月、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの25年6月期連結決算が発表されたが、その中に興味深い発表があった。
8月18日発表した長期経営計画「Double Impact 2035」において、2035年6月期までに食品強化の新業態を200~300店舗出店することを明らかにした。
消費における食品の割合が年々増加しており、非食品のマーケット構成比が縮小していることから、同社のディスカウントストア(以下:DS)業態も、冷凍食品、日配品など食品分野を強化することで、業績を伸ばしている。
今後のさらなる成長のためにも、ユニーの生鮮調達力とドンキの編集力のそれぞれにディスカウントを加えた狭小商圏型の新業態を確立したい考え。
2035年6月期には売上高6000億円、営業利益360億円、営業利益率6.0%を目標としている。
現在のDS業態は非食品の構成比が65%だが、新業態では売り場面積の6割を食品に投資し、非食品の構成比を25%とする。
とのことで、パンパシフィックは新たなディスカウントストアを立ち上げるわけだが、主力商品は「食品」なのである。
パンパシフィックのディスカウント(DS)業態はいくつかあり、その中核で主力はドン・キホーテだが、そのDS事業でも非食品の構成比が縮小している一方で、食品の構成比が伸びている。
それを踏まえて、現在、パンパシフィックDS事業の非食品の構成比は65%だが、新業態は売り場面積の6割を食品にするとしている。ということは、ドン・キホーテを含めても食品需要は増えていて、非食品の需要は低下しているということになる。そして非食品には当然衣料品も含まれる。
ユニクロ、しまむら、ジーユーに比べると衣料品売上高は小さくても、比較的若い世代が集まりやすいドンキですら、衣料品への需要は低下しており、食品需要は高まっているということになる。
マス層・大衆層の支持は期間とともに変化し続ける。10年後とか20年後に、また衣料品ブームが起きる可能性はゼロではないだろう。
しかし、当面の間、中期的には衣料品の需要低下は変わりにくいと考えられる。上位10社の大手専門店チェーン以外の衣料品販売業はこれを踏まえて対策を考えるのが賢明ではないかと思う。もちろん、そこに納入、出店するブランド側も同様であることは言うまでもない。