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南充浩 オフィシャルブログ

今後、中国企業に買収される国内の繊維関連工場は増えるだろうという話

2025年7月24日 産地 0

国内の繊維関連の工場が減り続けていることは各報道で伝えられている通りだが、原因として「職人の後継者不足」しか挙げられていない点には疑問を感じる。

もちろん、職人の後継者不足はあるが、それと同じくらいに工場経営者の後継者不足もある。

 

現在、40~60代前半の若手工場経営者も、その息子や娘が工場を継ぐかどうかわからないと答える人は多い。必然的に20~30年後に後継者問題は顕在化する。

人間は誰でも老いて死んでこの世から消える。今の40~60代前半の工場経営者も20~30年後には老いて引退するだろうし、死去している人も相当数出てくるだろう。

その際、その子息、令嬢が全く違う仕事をしていて工場を継承しないという可能性は非常に高い。

 

 

当方が個人的に面識のある工場経営者も子息、令嬢が全く違う仕事に就いているというケースは少なくない。

 

先日、こんな記事が掲載された。

アジアソックス、福助の鳥取工場を買収 欧米輸出の拠点に | 繊研新聞

中国の靴下・ストッキングメーカー、上海中昊針織(Asia Socks、アジアソックス)が、今年3月の閉鎖が発表された福助の鳥取工場を買収した。高宝霖総裁は買収の理由について、「欧米向けの輸出を強化するため」としている。現在のストッキング編み機は撤去し、島精機製作所の「ホールガーメント」横編み機を100台導入する。

アジアソックスの24年の生産数量は22億足で、全量を輸出している。そのうち、日本向けは20%を占める。

 

とのことである。

この工場の場合、個人経営ではなく、福助の工場だったのでいささか事情は異なる。

福助が鳥取工場の閉鎖を発表したのでその工場を中国企業が買収したのである。福助とすれば渡りに船だっただろう。

 

 

今回は福助という企業が閉鎖した工場を中国企業が買収したという話題だが、今後は、後継者がいない個人経営の工場でも同様のことが頻発するのではないかと見ている。

以前にも書いたが、工場を閉鎖して売却するとなると、土地は売れても建物や機械の処分には多額の費用がかかってしまう。そのため、閉鎖を決定してもなかなか進まないという事例もある。福助のようなそこそこの規模の企業が所有する工場ならその処分費用も「特別損失」として計上できるが、個人経営の工場だと、負債が増えるためにそれを嫌う経営者も少なくない。

そのため、閉鎖は決定しているが処分が進まないという事例もある。

 

 

しかし、中国企業が買収してくれるとなるとどうだろうか。

別に中国に限らず、韓国、東南アジア、インドなどの買収も今後は考えられるが、個人経営者なら福助以上に「渡りに船」と感じられるのではないだろうか。

現在~30年後くらいの間に経営後継者がいない国内工場を海外企業が買収するという事例は相当数増えると考えられる。

 

 

実際、2010年代前半に、当方にも「中国企業が日本国内でデニム用の力織機を集めているので、心当たりがあったら教えてほしい」という依頼があった。

まとまった数量でデニム用の力織機が現存しているのは日本だけだと言われており、中国の生地メーカーがそれを買い取って日本製っぽいデニム生地を量産したかったのだと推察される。

どれくらいの台数の力織機が買い取られたのか、または全然集まらなかったのか、その辺りの結果を当方は聞いていないのだが、使用されていない何台かが中国企業に買い取られていたとしても不思議ではないと思う。

 

 

鳥取工場に話を戻すと、中国企業はこれで「メイドインジャパン」の称号を正式に手に入れることができるし、トランプ関税のリスクも回避できることになる。

ストッキング編み機を撤去してホールガーメントを100台導入するということは、ストッキングの生産を止めて靴下一本で勝負するということだろう。

中国企業が日本の工場を買収して「メイドインジャパン」を名乗ることに危機感を覚える業界関係者も多いのではないだろうか。

まず、中国企業が海外に工場を作ったり買収したりというのは決して珍しいことではない。2010年代から東南アジアの繊維関係の工場の経営は中国企業ということが多かった。東南アジアの場合は韓国企業経営の工場も多い。そういう意味では、今回の鳥取工場買収は中国企業とすれば決して珍しい物ではないし、今後は韓国企業や東南アジア、インドの企業が廃業する日本工場を買収する軒数は増えるのではないかと考えられる。

 

 

 

また、中国企業が海外の工場を買収して「メイドイン〇〇」を名乗るのは、今回が初めてのことではない。

すでに2000年代後半から、中国企業が多くのイタリアの工場を買収していた。

例えばこの記事は2010年の記事である。

中国人企業が2割を超えるイタリア繊維産地: regional innovation 地域イノベーション

これによると、イタリアの毛織物産地として有名なプラート(県)では、イタリア人企業が減少する一方、中国人企業が増えているという。

プラートの繊維関連企業8000社のうち2000社を超える企業が中国系のものと言われている。

プラートの人口は24.5万人のうち、約10%を外国人が占め、その4割ほどが中国人とのこと。

 

もう15年前にはイタリアのプラートは中国企業と中国人で溢れかえる繊維産地になっていたわけである。このプラートで作られた毛織物は「メイドインイタリー」として出荷されていた。

プラートが現在どうなっているのか、海外に行かない当方にはわからないが、現在でもラグジュアリーブランドの工場が中国人を低賃金で働かせていたという報道をされていることを鑑みれば、大して状況は変わっていないのではないかと思われる。

 

 

 

 

日本の繊維工場に関してはこれまで外国企業による買収はほとんど無かったと考えられるが、今後はイタリア同様に急増する可能性は非常に高い。国内工場の経営後継者不足もさることながら、トランプ関税、中国国内の不況も相まって「メイドインジャパン」ビジネスの展開を志向する中国企業が今後は相次ぐのではないだろうか。

 

 

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