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南充浩 オフィシャルブログ

初心者・入門者向けの商品を開発できない業界が廃れるのは当然という話

2025年7月4日 考察 0

全ての分野において「入門者」を常に作り続けることが重要である。

自分一代で廃業するならコアなファンだけで構わないが、自分もコアなファンもいずれは年を取って死んでこの世から消える。

自社や自社が属していた分野を長続きさせるためには、常に次世代の入門者を獲得し続ける必要性がある。

 

コロナ禍が引き金となって転売ブームのおかげで品薄が続く人気の「ガンプラ」だが、それなりに入門者を獲得し続ける努力はしている。

果たして絶大な効果があるかどうかはわからないが、何もしないよりはマシだろう。

ガンプラは組み立てやすくて価格も安い「エントリーグレード」というシリーズを開始した。説明書通りに組み立てるなら30分弱でできる。おまけに価格も1000円くらいと手頃である。

これはこれで品薄だが、ほかのシリーズよりも再販が多いと感じるし、品番によってはけっこう売り場に残っている。

また、バンダイは小学校にも小さいガンダムの簡易プラモデルを無料配布することもあるとされている。

これもどれほどの効果があるのかわからないが、それでも小学生は何人かガンプラに興味は持つだろうし、興味は持たなくても認識くらいはするだろう。

 

 

ある程度長続きしている分野や企業はそれなりに「入門者」の獲得に努力しているから、以下に初心者・入門者を獲得することがビジネスの重要事項なのかがわかる。

逆に初心者・入門者を獲得しようとしない分野はどれほどの古さがあってもいずれは消滅するほかない。なぜなら、今のコアなファンが全員死ねば誰も愛好者はいなくなるからである。

先日、SNSでこんな書き込みが回ってきた。断っておくと、SNSに限らず、文章にするとすべての事柄をその文章の中で網羅することは難しいからある程度は言いたいことを絞り込む必要がある。

そのため、書き込まれた言葉が考えの全てではないということは前提に起きつつも、やはり考え方としては初心者・入門者軽視としか受け取れなかった。

 

話によると、最近下駄が売れないそうだ。

特に若い女性の下駄離れが激しいとのこと。

例えば、10代、20代の女の子が、浴衣に合わせるのは、もはやサンダルが主流になっているらしい。

ことほど左様に、時代は大きく様変わりし始めている。

近年、アパレルの会社が2部式の浴衣を安価に売り出し、これも高校生や大学生の女性達に受け入れられ始めている。

着物屋が作る二部式は中途半端に着物のイメージを引きずっていたが、洋装からの発想は浴衣に見える2ピースの洋服だ。
面白いのはサマードレスとしてワンピースでも着用できることだ。
当然、テキスタイルデザインもワンピースのデザインだ。

両者は「似て非なるもの」

悔しいけれど洋装業界の「コンセプト」の勝利だと言える。
和装業界にはこの時代に則した「コンセプト」がいかに重要かを知って欲しい。

 

とある。ここまでは当方も反対する気は無い。和装系の人なので和装寄りの感想であることは仕方が無い。人間は誰しもある程度は強弱はあれどポジショントークをしてしまう。

ここで指摘されていることは極めて当たり前でしかない。

普段スニーカーやらブーツやらサンダルを履いている人間が、いきなり「昔ながらの下駄」を履くかというとそれはない。クッション性が極めて悪いから、浴衣や着物を着てワンマイル歩く程度にしか履かない。長距離を歩くならEVAサンダルやスニーカーを履くのが普通である。

また、ワンピースにもなる二部式の浴衣が売れているというのも当たり前で、夏の期間に浴衣を着る機会がどれほどあるだろうか。

当方は暑さと人混みが嫌いなので祭りの中でも特に夏祭りに行くことは絶対に無いが、一般常識的に夏祭りを数えてみると、関西だと祇園祭と天神祭りが双璧で、あとは各神社にあるか無いかだろう。当方の住んでいる地域の神社は秋祭りはあるが夏祭りは無いから助かっている。

となると、高校生・大学生でも浴衣を着る機会は一夏の間に多くて5回くらいだろう。平均は2~3回ではないかと思う。女性が身近にいないからしらんけど。

 

 

となると、たかだか2~3回程度しか着ない服に高い金を払う人がどれほどいるだろうか。ましてや物価高と社会保障費の高騰で可処分所得は増えていない。

必然的に、日常使いできる浴衣が求められる件数が増える。その答えがワンピースにもなる二部式の浴衣ということだろう。

浴衣として着用しなくてもワンピースなら毎日でも着用できる。そうなるとそこそこ高い金を出しても惜しくはない。

 

 

楽天でワンピースにもなる浴衣を検索して見てみると、だいたい6000円台~1万円台後半という価格帯の商品が多い。

夏の洋服で半袖Tシャツ、半袖カットソー類は安い物なら1000円未満だし、1500~3000円くらいでそこそこ知名度の高いブランドの商品も買える。

和装業界からすれば、1万円前後のワンピースにもなる浴衣なんて邪道で安物かもしれないが、マス層に売りたいなら競合する洋服との比較を避けることは悪手でしかない。

 

 

 

ここまでは書き主の主張に当方もほぼ同意するのだが(当方は和装業界に対してもっと批判的に見ているが)、締めは全く賛成できない。

 

和装や本物の着物が生き残る為には、着物をファッションとしてどのように位置付けするか?
消費者に本物の着物を「着たい!と思わせるか」、これしかない。

今、かろうじて着物本来の価値を知っているユーザーが残っているから、それでもなんとか和装業界は命が繋がってはいるが、現在の10代、20代の日本人が新しい価値観を持ち続けたまま大人になった30年後、既存の和装業界は絶滅するのは高名な占い師でなくても予想できる。

だから、今のうちに日本人を育てる必要がある。
それは業界の為だけではない。

着物は日本の伝統文化の根幹だからだ。

着物は単なる着る物ではなく、そこには伝統的美意識、哲学、思想、美徳など、日本人に必要なあらゆる要素が込められているからだ。

子供達に「込める事」、「読み解くこと」、「思案を楽しむこと」、「めんどくささに文化の真髄があること」そして、「感動価値の本質」を教えなければ、50年後、日本は世界の最貧国になっているかもしれない。

とある。

「いかに着たいと思わせるか」はその通りだし、当方も賛成だが、「めんどくさいことが文化」というのは疑問でしかない。

本格的な着物にしろ、昔ながらの下駄にしろ、あんなものをマス層が日常使いできるはずもない。みんな日常生活は忙しいのである。着ること自体に時間がかかったり、長距離を歩きにくかったりする履物をわざわざ使用するはずがない。それを日常使いできるのは、暇と金を持て余している一部の層か、コアでマニアックなファン層しかいない。

せいぜい、式典とか冠婚葬祭に着用する人が増える程度だろう。

 

そもそも、江戸時代末期の坂本龍馬ですら、草履や下駄は歩きにくいと言ってショートブーツを着用していたわけだから、江戸時代の人間だって、もしその時代にスニーカーやEVAサンダルが存在していたら、間違いなくマス層に広がっただろうと思われる。

和装業界がやるべきことは、ゴム底を貼った新感覚の下駄や草履、ワンピースにもなる浴衣など機能的で手軽なアイテムで初心者・入門者を数多く獲得することだった。バンダイがエントリーグレードのガンプラを投入したように。

初心者・入門者を獲得したならその中から本格派に移行する人が何人かは出てくる。

 

それをせずに「本物が」「高価格品が」という主張ばかりでは、そんなめんどくさい業界に初心者が寄り付かなくても極めて当然のことである。

ワンピースにもなる浴衣を和装業界が開発できずに洋装業界が開発した時点で勝負は決していた。

 

ガンプラだって、2万円もするパーフェクトグレードなどの高額商品もあるが、それだけを「本物」とか「文化」とは主張しない。まだガンプラの方が初心者・入門者の獲得に正しい姿勢を取っているといえる。

 

 

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