
量販店向けブランドが地方百貨店に進出する好機
2025年6月17日 企業研究 0
百貨店とは法事のお返し以外では無縁の生活をしているが、一応、報道ベースで眺めていると、都心旗艦店の好調と地方・郊外店の閉店ラッシュの差が大きすぎて、一般消費者には伝わりにくいと感じる。
都心旗艦店はバブル期を越える繁栄を謳歌する一方で、地方郊外店は不振で毎年閉店や倒産が相次いでおり、これが止まる気配はない。
島根県の一畑百貨店の閉店時に原因の一つが「テナントが集まらなくなった」と報道されたことにメディアはもっと注目をすべきではないかと思う。
コロナ自粛によって、百貨店を問わず各商業施設から多くのショップが撤退した。自粛解禁後には空きスペースはショップで徐々に埋まり始めて25年現在に至るが、このコロナ自粛の間に各ブランドの出店姿勢が大きく変わった。
コロナ自粛期間に各ブランドのネット通販が一定量の成長を見せたことと、不採算店が少ない方が利益体質が強化できることを実感したため、自粛後も有望所業施設以外には出店をしなくなるブランドが増えた。
そのため、いまだ空きスペースが埋まらない商業施設は都心といえども珍しくない。消費者も空きスペースがある商業施設に奇異を感じることが減ってすっかり見慣れてしまった。
とはいえ、まだ閉店していない地方郊外百貨店は営業活動を続けねばならない。
先日、繊維ニュースにこんな記事が掲載された。
小泉アパレル 地方百貨店に進出 | THE SEN-I-NEWS 日刊繊維総合紙 繊維ニュース
小泉アパレル(大阪市中央区)が展開する量販店向けカジュアルブランド「エレメントオブシンプルライフ」は、新たに百貨店へ進出した。
という内容である。
このエレメントオブシンプルライフというブランドは小泉アパレルが旧レナウンから譲り受けたシンプルライフのセカンドライン、量販ラインの位置づけである。
今のところ、本体のシンプルライフは休止したままとなっている。
で、公式サイトで店舗リストを調べてみると、ほとんどがイオンモールやイズミ、西友などの量販店だが、ほんとうにごくわずかだが百貨店が混じっている。
例えば、
・京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店
・髙島屋大宮店
・近鉄百貨店橿原店
・山形屋鹿児島店
などである。
これが繊維ニュースの伝えるところの「地方百貨店」なのだろう。
もちろん小泉アパレルの営業力によるところも大きいだろうが、それ以上に地方百貨店が出店ブランド集めに苦労しているという背景も大きいだろう。
むしろ、その背景が無ければ、いくら小泉アパレルが営業に注力したとはいえ実現はできなかっただろう。実際に都心百貨店には一つも入店していない。
小泉アパレル側の営業努力だけで何とかなるのであれば、せめて梅田大丸や阪神百貨店梅田店くらいには入店できていると考えるべきだろう。
小泉アパレルの営業努力と、ブランド集めに苦労している地方百貨店の利害関係が一致したと見るのが適正だろう。
それにしても、イオンモールやイズミに出店しているブランドをいくら背に腹は代えられないとはいえ、地方百貨店が入店させるというのは時代が変わったといえるとともに、それだけ地方百貨店がブランド集めに苦労していることを表しているといえる。
量販店メインのブランドが地方百貨店に入店したことはこれまでもゼロではなかったが、事例が多かったわけではないが、時代の移り変わりが感じられる。
都心百貨店の空前の繁栄とは反対に地方百貨店の多く(全部ではない)は閉店・撤退の危機に瀕している。コロナ禍以前のような「お付き合い出店」も減ってきた。
そうなると、施設内を埋めるためには
1、アパレルブランド以外の「何か」を集める
2、入店してくれるアパレルブランドの「格」を引き下げる
のどちらかしか手は無い。
現在、エレメントオブシンプルライフを導入している地方百貨店は2を選んだということになる。
実際、地方百貨店に出店してどれほどの利益が得られるのかはブランド側からするとかなり怪しい。繁盛しているイオンモール内店舗には遠く及ばないのではないか、と個人的には考えている。
しかし「百貨店との取引が開始された」という事実はステイタス性の向上につなげやすい。特にいまだに「百貨店崇拝」しているような業界人や一般消費者には大きなアピールポイントになりやすい。そうなると結果的にブランドのイメージ向上につながる可能性が高くなる。また、ひいては量販店向けアパレルメーカーだった小泉アパレルという企業のイメージ向上にもつながりやすくなる。
今後も地方百貨店の置かれている状況が好転するとは考えにくく、ブランド集めには苦労が続くことになるだろう。そのため、今回のエレメントオブシンプルライフのような量販店向けブランドが地方百貨店に入店するケースは増えると考えられる。量販店向けブランドにとっては百貨店との実績を築く絶好のチャンスだが、地方百貨店はますますショッピングセンターとの差が無くなるため、ショッピングセンターとの消費者からの比較にさらされることになり、さらに厳しい状況にもなりかねないと思うが、どうだろうか。