
工員不足が注目されるが後継経営者も不足している国内の繊維製造加工業
2025年6月16日 製造加工業 0
人間は誰しも年を取っていずれ死ぬ。
最近、亡父・亡母の友人知人から死亡のお知らせが届く。父母は生きていればたしか81歳だったと思うので、通知の届いた友人・知人はだいたい80代で亡くなっていることになる。
「人生100年時代」なんて嘘っぱちで、現在の日本人の平均寿命は男性81歳、女性88歳で、健康寿命の平均は75歳である。
80代で亡くなるのは極めて当然のことでしかない。
当たり前だが、この人たちは10年前は70代で健在だった。20年前は60代でそれなりに元気だった。
20代が10年、20年経過しても元気に生きている確率は非常に高いが、60代が20年後生きている確率はそんなに高くない。ましてや仕事からは、よほど特殊な人以外は引退しているだろう。
2024年に日本で供給された衣料品のうち国産品が占める割合は、数量ベースで1.4%だった。23年に比べて0.1ポイント下がって過去最低を更新した。生産量は前年比6.6%減の6001万点。14年は1億2049万点だったため、10年間で半分になった。00年の5億5159万点と比べると四半世紀で9分の1に激減したことになる。
日本繊維輸入組合が13日に発表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2025年版」で明らかにした。
とのことだ。
2010年代から加速度的に減少していることがわかる。
そして、
1990年には50.1%あった国産品の割合は、生産拠点が中国を中心としたアジアに移り出した90年代半ば以降、減少に拍車がかかった。2000年に14.5%、10年には4.0%、20年には2.0%まで縮んでいた。日本の縫製工場は中小・零細企業が多く、長年の経営不振や人手不足から廃業する例が相次いでいる。
と結ばれている。
ちなみに1年前の国産比率は1・5%だったと報道されており、24年は0・1%減少していることがわかる。
これは2024年6月の記事である。
この手の記事でいつも思うことは「現場の後継者難」にスポットが当てられすぎている点である。もちろん、工場の現場で働く人がいなければ「人手不足廃業」せざるを得なくなる。
その点は正しい。
しかし、仮に現場に人員が溢れていても経営者がいなくなれば、工場は継続できない。
国内の縫製工場を一口にまとめることは難しいが、当方のこれまでの25年間を見ていても、後継経営者がおらずに余力のあるうちに廃業・清算に踏み切った工場は少なからずある。
縫製工場に限らず、工場の経営者は家業で世襲の場合が多い。その場合、後を継ぐ息子や娘、親族がいなくて廃業・清算を選ぶケースが多い。
まれに工場のメンバーが株を買い取って新たに工場経営に乗り出す場合がある。しかし、工場のメンバーがそこまでのバイタリティーと経済力を持っていることは経験上少ない。事例はゼロではないが、頻発する可能性は極めて低い。
現在、残っている工場の多くは二代目・三代目・四代目あたりで40代~60代前半くらいの経営者に代替わりしている。だから、あと20年間くらいは存続するだろう。もっとも、資金ショートなどが無いと仮定しての話だが。
だが、20年後、30年後はどうだろうか。資金ショートが無くて経営そのものは順調だったと仮定しても、その次の経営者はいるのだろうか?
当方の知っている現在の工場の経営者で、息子や娘が全く別の業界で仕事をしているという人の方が多い。5年後・10年後には実家に戻って家業を継ぐという選択をする息子さんや娘さんも出てくるかもしれないが、これまでの当方の経験則からいうとそれはどちらかというと少数派だと考えられる。
仮に10年後として、異業種で働き続けた息子さん、娘さんはその業種においてはそれなりのノウハウは身についているだろうし、それなりの人脈もできていることだろう。それを捨ててまで家業の縫製工場を継ぎたいという人がどれほどいるだろうか。
当方は恐らくほとんどいないと思っている。
現在、業界メディアでは「工場(縫製に限らず)で働く若者を増やそう」というキャンペーンが行われているように見える。
それはそれで構わないが、「工場(同)の後継者を増やそう」というキャンペーンをしなくては工場は減り続ける一方になるだろう。しても増えにくいとは思うが。
人間が永遠に元気で生き続けられれば今の工場経営者に永遠にがんばってもらえばよいが、現在の工場経営者は最長でも30年後には死ぬか引退しているかのどちらかである。早ければ15年後くらいから後継者問題が生まれる工場とて少なからずあるだろう。
今更、国家を挙げてキャンペーンをしたとて、工場が増えるだろうか。工員もさることながら工場を新たに経営したいという人がどれほど増えるだろうか。
現在、米国は関税を上げて輸入品を減らして、米国内の工場を再興しようとしているといわれるが、半導体や自動車、その他機械類ならまだしも、縫製や繊維製造、染色加工などの工場が米国内に増えることはあり得ないだろうと報道されている。
安全保障上、全ての分野に国産工場は残っていた方が良いというのは自明の理だが、縫製工場が国内に増えることはあり得ないだろうと思うし、30年後に現在の工場軒数を維持することすら難しいだろう。