
百貨店は都心旗艦店と地方中心都市1番店だけが残るだろうという話
2025年5月22日 百貨店 0
インバウンドの増加も手伝って都心旗艦百貨店は一部を除いて大幅に売上高を伸ばしている。
その影響もあり、主要大手百貨店の決算は軒並み好調だった。そういう意味では「百貨店は好調」といえる。だが、地方・郊外の中小型百貨店は倒産や閉店が相次いでおり、百貨店全体の売上高も回復したとはいえ、6兆円台にまでは回復していない。
また、好調な決算に終わった大手百貨店各社でも地方・郊外の店舗は閉鎖しているので、全国満遍なく好調だったともいえず、大手各社の旗艦店舗の好調が下支えしたと考えた方が実態に沿っているだろう。
〝オワコン〟と言われていた百貨店で過去最高の業績が相次いだ。特に三越伊勢丹ホールディングス(HD)は24年度の国内百貨店事業が総額売上高1兆1433億円、営業利益が655億円、コロナ禍前の18年度に対し総額売上高が19%増、営業利益が2.8倍に達した。
「百貨店の未来は明るいし、もっと成長できる」(細谷敏幸三越伊勢丹HD社長)との言葉を裏付けるように前中計の百貨店再生フェーズを完了した。高感度上質、顧客とつながるCRM(顧客情報管理)の独自戦略が進展する一方、構造改革で売上高損益分岐点比率が大幅に低下した。
とあり、数字的には正しいのだが、論調としては違うのではないかと個人的には強く感じる。
もちろん、業界紙に限らず新聞のコラムには字数制限があるから長々と説明することは不可能で、短い文章でまとめることが必須になるから、やや強引な主張にならざるを得ないことは十分に理解できる。
とはいえ、「百貨店の未来は明るいし、もっと成長できる」と言うのはどうかと感じる。未来が明るくて成長できる「可能性がある」のは三越伊勢丹だけではないのか。「だけ」とは言わないまでも大手百貨店グループのみではないか、というのが個人的な意見である。
例えば、姫路のヤマトヤシキ百貨店の未来が明るくてもっと成長できるのか?名鉄百貨店はどうなのか?山陽百貨店はどうなのか?
今回、好決算として取り上げられている三越伊勢丹だって、これまでずっと地方・郊外店を閉鎖し続けてきて、旗艦店に集中した結果、インバウンド増加も手伝って今に至っているといえる。
好調な髙島屋だって岐阜店を昨年閉鎖している。
不採算店を閉鎖するのは経営としては当然だが、百貨店という業種全体の未来が明るくて成長できるというのは、ポジショントークも含み現場の士気を鼓舞する目的もあるのだろうが、ちょっと楽観的に過ぎるのではないだろうか。
前回、24年度百貨店店舗別売上高上位15店舗の記事を取り上げた。
この中に非大手として入っているのは、11位の銀座松屋だけである。そのほかはすべて大手百貨店グループである。
そして、地区別に見ると、東京23区内、大阪市内、京都市内、名古屋市内の4地点で占められている。
要は大手百貨店グループで、その4地点にある旗艦店だけが上位を占めているということになる。
非大手の銀座松屋が入っているのは、独自の工夫もさることながら、銀座という立地に助けられているといえる。極端な例だが、これが23区外の他の地域だったら11位には確実にランクインしていないだろう。
このように考えてみると、百貨店の需要というのは大都市旗艦店がほとんどを吸収してしまっており、追随できるのは地方中心都市の1番店くらいだろう。それ以外の地方・郊外百貨店は今後も閉店・撤退・倒産が続くことになり、業績回復はおろか存続すら難しいだろう。
また、不採算の地方・郊外店を閉店しても都心旗艦店が外商やネット通販で一定数の顧客には対応をするのではないか。
経営が「選択と集中」を実行するのは当然のことで、売れない地方店を切り捨てて、売れる旗艦店にリソースを集中するのは当たり前である。
だが、それによって「百貨店には未来がある」という捉え方を外野がするのはどうかと思う。外野はあくまで外野なのでポジショントークや士気高揚に付き合う必要は無い。
百貨店の将来像を考えてみると、インバウンド需要がある程度このまま続くと仮定して(水物だから過度に期待するのは危険だと思っているが)都心旗艦店と地方中心都市1番店はこのまま堅調、あるいは好調に推移するだろう。
そして、地方店は地方人口の減少と郊外型ショッピングセンターとの競争に敗れて今後ますます店舗数を減らすことになり、そのうちに地方中心都市1番店以外は消滅するのではないかと思っている。
我が国百貨店という業種は大都市中心部にだけ存在する商業施設として生き残るだろうし、当方はそれで構わないと思っている。
業界の人が懐古しつつ希望しているような、「大衆が押し寄せるような国民的商業施設」に百貨店が回帰する可能性はゼロだろうと見ている。
サザエさんで見かけるように、百貨店へ行くために家族全員が「他所行きの服」を着て出かけるような性質の商業施設に戻ることは二度と無いだろう。そういうものだと割り切って経営すれば大手百貨店グループは今後もある程度好決算が続くだろう。