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南充浩 オフィシャルブログ

在庫過多もダメだが在庫過少も同じくらいダメという話

2025年4月7日 企業研究 1

4月8日の深夜から「機動戦士ガンダム ジークアクス」のテレビ放映が始まるが、1話~3話くらいを映画として先行上映した。

先行上映の最終興行成績は33億円強と言われていて、テレビ放映でも使いまわせるもので33億円も稼げたというのはかなりコスパが良い。

映画ファンの批評などをSNSで見ていると、このジークアクスに限らず、近年の大ヒットした映画は一人の人が何度も見に行っているというケースが多い。

映画館の料金は一人1900円だから、一人の人が5回見に行けば1万円弱が稼げるという話になる。

 

 

ここが衣料品や家電製品、雑貨類とは違う稼ぎ方ができるところである。見るという体験は残るが、ブツは残らない。従って、熱狂的なファンであればあるほど何回も見に行って支出するわけである。

食品もこれに近いが、食品は満腹になってしまうと一定時間はそれ以上食べられない。だが、映画はチケットさえ買えれば、見終わった直後でもまた見ることができる。

食品も翌日にはまた同じ物が食べられるが、食べ終わった直後にまた食べ続けることはフードファイターでない限りは難しいし、健康を著しく害する。

ジークアクスのヒットを見ていると「在庫の心配が無いビジネスは強いなあ」と感心せざるを得ない。

 

 

一方、繊維・衣料品は在庫をコントロールしてナンボの商売である。

それゆえに最近は衣料品業界においてマーチャンダイジング(MD)の重要性が強まっている。著名なコンサルタントがどんどんMDを口走るようになっている。(もともとMDを掲げられていた人は別として)

専門外の当方が説明するまでもないが、MDの基本は五適とされている。適品・適時・適量・適価・適所がその五適である。

すべて重要であることは言うまでもないが、その中でも各社が頭を悩ませがちなのが「適量」だろう。適量というのは多すぎても少なすぎてもダメなのである。

当方も含めたド素人は「多すぎて余らすよりも少な目で少し足りない方が良いだろう」と考えがちである。しかし、本来の「適量」は多すぎもせず少なすぎもせずピッタリで売り切れることである。

これはなかなか難しいが、それをマーチャンダイザーはやらねばならない。厳しい職種である。

 

 

現在の業界において、馬鹿みたいに多すぎる量を製造したり仕入れたりするケースはほとんど無い。過剰在庫は悪だとみんなが認識している。たまたまの手違いで少し多めに調達してしまうことはあるだろうが、昔のようにどんぶり勘定で過剰に調達する企業は無い。

その一方で、在庫が少なすぎるというケースはけっこう頻発している。過剰在庫を作るよりはマシと考える人も多いが、在庫が少ないと売る物が足りなくて売上高は稼げなくなる。

その実例が今回のアダストリアの減収決算だといえる。

アダストリア25年2月期、純利益29%減 10月の暖冬で苦戦、冬物発注減らし失速

アダストリアの2025年2月期連結業績は、売上高が前期比6.4%増の2931億円と過去最高を達成したものの、営業利益は同13.9%減の155億円、純利益は同28.9%減の96億円と大幅な減益となった。主力ブランドの「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」をはじめ、10月の高気温で秋物販売につまずき、冬物仕入れを絞ったことで冬物商戦も失速。値引き販売が増え、利益を圧迫した。

 

とある。

10月の高気温で秋物商戦が苦戦したのはアダストリアに限らずどこも同じである。秋物が売れないから在庫が減らずに冬物衣料品、特に防寒物の調達量を抑えざるを得なくなる。

しかし、12月半ば以降、ひさしぶりに「寒い冬」が訪れたため冬物衣料品の需要は急増した。そうなると在庫過少で売れ行きは鈍るというわけである。

ざっくりと各社の店頭を眺めたレベルでいうと、アダストリアに限らず、冬物衣料はどこも少し控えめな量に見えた。このところ暖冬続きだったのと10月の秋物が売れなかったからそうなるのは当然だろう。

どのように修正すれば良いのかその方法は当方の専門外だからわからない。きちんとした専門家に依頼すればいい。

以前、ユニクロでも在庫過少で月次実績が厳しかったことがあるが、在庫過少というのも在庫過多と同様に業績を悪化させるということがわかる。

 

 

さてついでに、こんな興味深い一節もあった。

主力ブランドであり、今後の戦略エリアである東南アジアを攻める上でも重要になる「グローバルワーク」の国内売り上げは、同1.9%増の526億円だった。20%超増が続いたここ2年と比べると大幅な減速。 「ブランドが成長する中で客層がマスに広がり、季節先行型から実需型の購買傾向に変わっている」(北村専務)ことも苦戦要因となった。

とのことで、マス化すると季節先行型ではなく実需型(体感気温型)に変わっていくというのは正しい認識ではないだろうか。

ラグジュアリーブランドのショーウインドーをたまに眺めると恐ろしいくらいに季節が先行している。ファッション先端層相手ならあの先行感でも受け入れられるのだろうが、マスブランドであんな真似をすると立ちどころに業績が終わってしまう。

まあ、先端層ではない当方からすると、高い金を払って何か月も待たないと着られないような最新作なんて買いたいとは全く思わないので、根っからのマス層なのだろうと思うが、それで何の問題も感じていない。

 

 

グローバルワークに限らず、売り上げ規模を大きくしてマスブランド化すると体感気温が重要なカギになるから、季節先行型を貫きたいのであればむやみにブランド規模を大きくすることは悪手だといえるだろう。

 

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2025/04/16(水) 9:57 AM

    ジークアクス、映画冒頭のサイド3からガンダム強奪の話はTV放送ではやらないのだとばかり思って映画館で見ちゃいましたが、「1話ではやらない」ってだけで2話目が映画の冒頭の話になってて、見事に釣られちゃいました(´・ω・`)

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