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南充浩 オフィシャルブログ

マス層にヒットしやすいのは「利便性の高い」服・靴という話

2025年3月13日 トレンド 2

業界内には「本物の~」にこだわる方が少なからずおられるが、マス層は衣料品に本物よりも便利さ・利便性を求め続けていると感じる。

実際に、以前にも書いたが、防寒アウターで最もマス層に注目されるのは「暖かさ」もさることながら「軽さ」である。いくら暖かくても重いアウターは敬遠される。特に女性層は筋肉量の少なさもあいまってか、1グラムでも軽い方が良いと考える人が多いと感じられる。

これはとりもなおさず「軽量化」という利便性を重視しているといえる。

かくいう当方も本物の〇〇の良さは理解しているものの、自分で洗濯をして収納してということを考えると利便性を重視する。また着用感の上でも何らかの利便性があった方が快適なのでそちらを重視する。

 

 

そんな当方からすると、ビジネススタイルもどんどん利便性重視が進んでおり、次々と新しい利便性の高い機能を備えた商材が開発されている。

靴でいうと、最近注目を集めているのが各社から発売され始めた「たったまま履ける靴」だろう。これはスニーカーに限らず、ビジネスシューズでも開発競争が進んでいる。

一例を挙げると例えばこの記事。

青山商事、立ったままで履けるビジネスシューズ発売 靴べらを使う手間を解消:プロダクトInsights – ITmedia ビジネスオンライン

今までのビジネスシューズ、ドレスシューズでも軽量とか防水、クッション性の高さなど次々と機能性が導入されてきた。当方も息子の結婚式用に購入したドレスシューズはテクシーリュクスのゴアテックス使用防水シューズだった。

靴業界では、伝統的な革底のドレスシューズを支持されている方もおられるが、一般のビジネスマンはよほどの愛好家を除けばそんな不便な物は履きたくないと感じている。少なくとも当方はそうだ。足が痛い靴なんてマゾヒストではないから、全然履きたくない。必然的にスニーカーくらいにクッション性のあるビジネスドレスシューズが選ばれることになる。

ビジネスシューズに限らずスニーカーも含めて次にどのように機能性が高まるのかと見ていたが、各社は「立ったまま履ける」という機能性の追加を選んだようだ。

 

 

またスーツでも相変わらず、機能性スーツの開発競争が続いている。

最近ではこんなスーツも話題となっている。

ゴルフができるほどの動きやすさと品のよさを両立:売り上げの30%を占めるONLY「ジャージースーツ」の開発秘話 | Fashion Tech News

ONLYは2022年の秋冬シーズンから、「JERSEY JOURNEY(ジャージー ジャーニー)」というジャージーウエアに特化したレーベルをスタートさせました。
その後、売れ行きは伸びて、2023年秋冬シーズンのジャージースーツの半期売上金額は昨対比260%を記録し、現在は全アイテムに占めるジャージーアイテムの売り上げが全体の30%を占めています。
とのことで、オンリーとしては久しぶりのヒット作だといえる。
ちなみにオンリーの年商は24年8月末時点(恐らく8月期決算)で55億7227万円と発表されているから、その30%だと17億円弱という計算になる。
いわば、これまで各社が発売してきたアクティブスーツ系、トラベルスーツ系のスーツだといえる。記事中の画像を見ると、かなり「本物のウール生地」っぽい表面加工が施されていることがわかる。この画像が修正加工無しだとすると、他人から見て合繊素材かどうか判別することはよほどの目利きでないと難しいだろうと思われる。
ただ、少し懸念もある。
ひらめいたのが、コート生地にも使われるボンディング技術でした。
2枚の生地を樹脂で貼り合わせることでしっかりとしたハリが生まれ、ナイロンジャージー特有のダルダル感を解消することができたんです。
こうしてジャケットとパンツが揃い、ジャージースーツが完成しました
とのことだが、ボンディング生地というのは永遠に貼りついているわけではない。いずれ寿命が着て剥離することになる。特別な加工で半永久的に貼りついたままの生地であるならその懸念は無いが、もしそうではなくて通常のボンディングなら、いずれ剥離する可能性が高いということは、消費者も知っておくべきだし、売る側も消費者への説明が必要不可欠である。この説明をしっかりとしているのかどうかと当方は心配してしまう。
繊研新聞にこんなコラムが掲載された。

自分自身ではさほど気が付かない日常のちょっとした不満やストレスについて、商品として提案されると「ああ、確かにそうだった」と思い出し共感する。100円均一ショップに足を運ぶたびにそんな感覚を持つ。

最近見つけたのはカバーいらずの粘着テープクリーナー。カーペットやマットのほこりなどを取る際に役立つ掃除道具、いわゆる〝コロコロ〟だが、使い終わってケースに戻すのがいつもめんどくさいと感じていた。見つけたものは本体に突起が付いていて、そのまま置いても粘着部分が直接床にくっつかないようになっていた。これなら使いたいときにすぐに使えてしまえる。あまりに簡単な工夫だが、それだけで快適さが増すことに驚いた。

最近ヒットしている「手を使わずにかがまず履ける靴」も、そうした日常のちょっとしたストレスを解消するアイテムの一つ。急いでいる時など、いちいちかがんで靴を履くことにイライラした人は多いと思う。先述の靴の仕様は「靴とはそういうもの」という常識を打破した。もちろん開発は簡単なものではなかったと思うが。

ファッションアパレルの場合、企画側は当然トレンドや格好良さに目が行く。しかし身に着けるものである以上、ちょっとしたところに不便さや気になる点が出てきたりもする。いつもとは違うそんな視点で商品を考えても面白そうだ。

 

とあるが、立ったまま履ける靴だけではなく、アクティブスーツやトラベルスーツなんかもコラムが指摘する「100均的」商品だといえる。これ以外でもストレッチジーンズや防風ジーンズ、防風ブルゾン、透湿防水ジャケット、軽量ダウン、など近年マスでヒットした衣料品の多くはほぼ利便性を高めた「100均的商品」だといえる。

「ファッションアパレルの場合、企画側は当然トレンドや格好良さに目が行く」とあるが、これこそが、業界が全般的に苦戦する理由の1つになっているのではないかと思う。その「企画側」の人とて、「不便だけどカッコイイ服」とか「不便だけど本物の〇〇服」だけを頑なに愛用し続けている人がどれほど存在するのだろうか。当方の知る限りではそんな業界人はほとんどいない。それが答えだろう。

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2025/03/13(木) 11:50 AM

    ニワカの革靴好きとしては、ちゃんとした革底(グッドイヤーウェルテッドとか)の革靴でも、
    通称「レイジーマン」と呼ばれるサイドにゴムを入れたものとか、紐靴ではなくサイドゴアのショートブーツとかなら、靴べら無くても行けちゃったりするので(使ったほうが良いけど)、そういうのを広めたほうがカッコイイのになぁと思っちゃいますね。
    興味ない人は黒い革靴っぽい靴なら何でも同じに見えるから、何でも良いんでしょうけどもw

    まぁ、100年前とかに比べたら、服装なんて利便性を求めて簡略化され続けてるんでしょうから、将来的には革靴もスーツも無くなっちゃうかもですけど、100年後はどうなってるのか気になりますw

  • 元メンズアパレル業界の端くれ より: 2025/03/14(金) 10:38 AM

    冠婚葬祭用に昨年チヨダのスパットシューズシリーズのストレートチップを買いました。
    学校行事や法事などで意外と靴の脱ぎ履きする場面が多いので、重宝しています。

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